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娘のための世界史8 コロンビア史2

 今年(2021年)の夏、ペルーで、終身刑で服役中のひとりの男が獄中死しました。アビマエル・グスマン。毛沢東主義のテロ組織「センデロ・ルミノソ」の創設者・指導者でした。

 センデロ・ルミノソといっても、日本人にはなじみがないかもしれませんが、1996年にペルー日本大使館人質事件を起こしたMRTA(エメルテア、トゥパク・アマル革命運動)なら聞いたことがあるでしょう。MRTAも極左テロ組織で、いわば両者はほぼ同時期に”同病相争う”関係でした。そして、その組織の名称にはともに「コロンビア史」をひもとくキーワードが込められています。

 まず、センデロ・ルミノソ(Sendero Luminoso)ですが、「センベロで飲みなおそ」ではありません。このスペイン語を直訳すると「輝ける道」となります。20世紀初頭のペルー出身のマルクス主義運動家ホセ・マリアテギの同名の著書へのオマージュでした。マリアテギは国際共産主義(コミンテルン)の賛同者ではありましたが、ペルーにはソ連とは違う独自の歴史的な事情が存在することを強調し、「インディヘニスモ」indigenismoといって先住民の復権を優先させました。

 それに倣ってグスマンも、毛沢東の根拠地論「農村をもって都市を包囲する」を採用して、先住民が住む山岳地帯でテロ活動を活発化させたのです。ただし、その手法は残虐極まりなく、イヌやロバなど動物に爆弾をくくりつけて町中で無差別に爆発させるだけではなく、ときには動物ではなく人間の子供を爆弾運搬人に仕立ててそのまま爆発させたりもしました。

 センデロ・ルミノソの最初のテロは、1980年5月18日のことでした。この日付の199年前の1781年5月18日、ホセ・ガブリエル・コンドルカンキという男が、反乱罪でスペイン軍に捕らえられてクスコで処刑されています。コンドルカンキは自ら「トゥパク・アマル2世」を名乗り、先住民を糾合してスペイン軍を相手によく奮闘し、各地で同調する反乱を誘発せしめたのです。センデロ・ルミノソがコンドルカンキに影響されていることは明らかでしょう。

 ここで登場した「トゥパク・アマル」とは。そう、インカ帝国最後の皇帝の名前なのです。帝国が崩壊後に亡命政権の皇帝として即位しているため、実質統治はありませんでした。結局は1年余りでスペイン軍に捕らえられ、斬首されています。

 この時代のスペイン人の侵略者どもはコンキスタドレス(征服者)と呼ばれています。メキシコのアステカ帝国を侵略破壊したエルナン・コルテスやインカ帝国のフランシスコ・ピサロらのことです。これらスペイン人の狼藉を報告した小冊子が、カトリック・ドミニコ会士であるラスカサスによる『インディアスの破壊についての簡潔な報告』です。わたしの日本語に関する別マガジンのタイトル『日本語の破壊についての簡潔な報告』は、これからとっています。


 チェ・ゲバラを信奉するMRTAがその名称に引いたのはコンドルカンキの方ですが、ペルーの歴史では、このように先住民の復権というのがキーワードにならざるを得ません。南米各国は19世紀前半にシモン・ボリバルやホセ・デ・サンマルティンらの指導でスペインから独立を果たします。しかし、これはアメリカ合衆国がイギリスから独立したようなもので、植民地に土着した西洋人が本国からの統治を逃れたにすぎないわけです。先住民が自立したわけではなく、この問題は今も引きずったままです。

 また、MRTAは欧州や南米の左翼組織(あるいはソ連やキューバ)からの援助もあったようですが、センデロ・ルミノソはそのテロ行為が残虐なことからそうした援助もなかったため、先住民の農民にコカを栽培させ、コカインの密造によって活動資金を捻出していました。

 みなさん知っての通り、1990年に就任した日系のアルベルト・フジモリ大統領が、この両組織をほぼ無力化させることに成功しました。しかし、その手法はアンチテロ・テロの「汚い戦争」として今また蒸し返されています。また、麻薬問題も今に引きずったままなのです。

 話は変わりますが、サッカーの英雄ディエゴ・マラドーナが最初にアルゼンチン・ブエノスアイレスで所属したチームは「ボカ・ジュニアーズ」と言います。現地では「ボカ・フニオルス」と読まれていますが、ボカは地元の地区名で、後ろの方は歴とした英語のjuniorsです。ディエゴとともに1979年に日本で開催されたワールドユースで優勝し、その後は横浜マリノスでも活躍した同国代表FWラモン・ディアスが所属したのは「リバー・プレート」です。これも現地では「リーベル」と読まれます。river plateとは、ブエノスアイレスを流れる大河ラプラタ川Río de la Plataの英語表記です。なぜ、サッカークラブが英語の名前を持っているんでしょうかねえ。えっ、日本では野球もサッカーもチーム名は全部外国語(もどき)だから、南米がそうだからって、別におかしくはないだろうって。まあ、そう言やそうだ。

 さて、「コロンビア史」には、スペイン人に続いて悪役が登場します。それはまた次回に。って、だれだかわかるよね(笑)

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