「編集委員」

 わが心のない爱読紙の2022年1月8日の記事によると、外岡秀俊さんて方がお亡くなりになったという記事=訃報が掲載されていました。わたしは、中学2年で、とある事情があって当新聞の新聞配達をして以来、ほぼ半世紀も当新聞を読んでいますので、この方の名前には心当たりがあります。お会いしたことはありませんが。

 で、この訃報は、

外岡秀俊さん死去 元本社編集委員・作家

という見出しです。外岡さんは東大の学生時代に『北帰行』という小説を書いて文芸賞を得て、また、のちには中原清一郎という筆名でも『カノン』という小説を書いていたそうなので、「作家」という肩書はいいでしょう。

 問題は「元編集委員」です。

 わたしが奉職した新聞社にも「編集委員」という肩書はありました。というか、今の日本の新聞社にはどこもあるんじゃないかな。私自身は「記者」の肩書しかありませんでした。

 「編集委員」って何でしょうね。よく分かりませんが、どうやら、ただの「記者」よりは偉い記者のようです。新聞社では出世すると、記事を書くだけの記者から、その記事を受け取るデスクになります。これは機能ですが、身分としてはだいたい「部次長」です。わたしは機能としてはデスクをやらせられていましたが、身分は「記者」(ヒラ)のままでした。そう。出世が遅れていたんです。いろんな事情がありますが、ここではヒ・ミ・ツ。また、いずれ。

 次に出世すると「部長」になります。政治部長とか経済部長とか。機能としては管理職ですから、偉そうにするのがお仕事かな。偉そうにするお役目ですから、偉くない人が多いです(笑)。

 さらに出世して、局次長とか局長とか、まあ、最後には社長というのもありえるんでしょうが、ここらへんの人はもう「記者」ではないですね。たぶん、「ジャーナリスト」のタイトルは捨てないんでしょうが。

 だから、編集委員というのは、たぶん、次長や部長にならないまま年を食って、管理職の機能をまぬかれて、書き手のままの人に与えられるタイトルなんだと思います。


 関係ないけど、この「委員」て言葉、わたしはすごく「左翼臭」を感じます。学校の「風紀委員」なんて聞いたら、「NKVD」(旧ソ連の内部人民委員部=内務省≒というより秘密警察の親玉)のままごと版かと(笑)。わたしが小学校の低学年のころ「級長」と呼ばれていたお役目は、高学年になると「学級委員」と改称されました。なんでかな。「委員会」については、また調べがついたら報告します。

 おっと、本日はいただきもののシェリー酒が効いているので、結論から遠ざかるばかりだ。そうそう、外岡さんの訃報だ。

 で、記事によると、外岡さんは朝日新聞では〈2006年に東京本社編集局長・GEに就任し、(その業績)・・・・その後、編集委員を務めた〉とあります。お、編集局長までやってるんだ。

 ※GE=ゼネラル・エディター(朝日独自の身分。機能は不明)

 でも、見出しは「編集委員」です。わたしの感覚ですと、編集局長の方が編集委員より偉いさんです。だから、訃報の見出しには、〈元本社編集局長・作家〉とするもんじゃないかな、と思うんですが、〈編集委員〉を見出しにとりました。なにか事情があるのかなあ、と思ってしまいました。ふつう、身分や地位としては「最高」を見出しにするもんでしょう。

 イラクで殉職した外交官の奥克彦さんは当時「一等書記官」でしたが、2階級特進して「大使」です。奥さんがらみの回顧記事などが書かれる場合は、まず初出で「奥克彦大使」とするのが多いですね。

 もうひとつ。「昭憲皇太后」をご存じでしょうか。明治天皇の「正室」です。だから、「皇后」もお務めになりましたが、夫である天皇が先に亡くなり「皇太后」となったわけです。そして、「皇太后」と「皇后」では、もちろん「皇后」の方が偉いわけです。
 同じく、大正天皇の皇后も、夫に先立たれて皇太后となりました。昭和天皇の皇后も皇太后を経ました。ですが、追号はお二人とも「貞明皇后」「香淳皇后」です。追号(諡号)には生前だろうが没後だろうが「最高位」を用いるものです。

 ところが、明治天皇のお妃は「皇后」であったにもかかわず追号が「昭憲皇太后」なんです。

 理由はいろいろ言われています。宮内庁・旧宮内省は「手続きミス」のようなことを言っているみたいです。それでいいのか。まあそれで、いろんな陰謀論を招いているんですけど。

 おっと、外岡さんだ。編集局長をやったのに、出身媒体の訃報で〈元編集委員〉の見出し。う~ん。いろんな陰謀論を招かなければいいんですけどね。そんなの気にするのは、わたしぐらいか。

 なお、共同通信だか時事通信だかが配信した記事では--たぶん、朝日が両通信社に同じ文面を流したと思われるが--、「ジャーナリスト・作家」という肩書でした。また、朝日新聞の訃報以外の記事では、〈朝日新聞社の編集委員や編集局長・ゼネラルエディター(GE)を務め〉などと書かれ、やっぱり〈編集委員〉にこだわっています。なにがあったんでしょうね。

 ともあれ、この記述は日本語に関する考察ですので、朝日の事情を取材するつもりはありません。ま、深みが見えたら、そのときはまた追記するかどうか考えます。

 

 外岡さんのご冥福をお祈りしながら、もうちょっと飲みます。

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