「データ」

 いつのころからでしょうか、


 「写真が欲しいんですが」
 「わかりました。今日中に郵送いたします」
 「いや、データでけっこうですよ」
 「では、メールに添付してお送りしますね」

というようなやりとりが普通のことになって、「データ」とはデジタルデータの代名詞になりました。上のやりとりの中の「メール」も同じで、昔は「郵便手紙」のことでした。ま、日本語ではメールはあまり使いませんでしたが、よく使うようになった今は「e-mail」の代名詞です。郵便のことは言いません。


 しかし、以前はデータと言えば、何かを述べる際の資料や数値的・統計的な根拠のことを言いました。辞書を見ると、その意味が(1)としてあり、上述の「コンピューターで扱うことができる素材」的な意味が(2)として記載されています。

 英英辞典を見てみました。同じことになっているようです。なるほど。日本語だけの事情ではないんだ。勉強になりました。

 さて、次の引用を見てください。

○国会会議録検索システム
衆参両院事務局及び国立国会図書館で構築している国会会議録フルテキストデータベースシステムの一環として、衆参両院の会議録データを国立国会図書館のホームページから国民向けに提供しており、これは衆議院ホームページからもアクセス可能である。
平成12年1月から衆参両院の本会議及び全委員会の会議録データを公開し、同年半ばには第1回国会からのすべての会議録データを公開する予定である。
ホームページアドレス http://kokkai.ndl.go.jp/

 これは、国会議事録のホームページにある説明書きです。

 どうですか。ここで使われている「データ」はすべて、(2)の意味ですね。いや、「データベース」だけは(1)の意味かもしれませんが、とにかく、会議録(議事録/データベース)のことですから、それはまさしく「データ」なのですが、そのデータベース自身が、自分のデータのことを「データ」(つまりデジタル利用可能)と主張しているわけです。

 しかし、ここで言いたいのは、それだけではありません。

 引用部の文章、どうですか。

国民向けに提供しており、
これは衆議院ホームページからもアクセス可能である。
公開する予定である。

 なんか、偉そうじゃありませんか。

 これは「国民向け」の告知の文章です。ならば「ですます」でいいんじゃないですかね。

 以上、2点を踏まえて改造してみました。

○国会会議録検索システム
衆参両院事務局と国立国会図書館は国会の会議録をデータベースシステムとして構築して、国立国会図書館のホームページから提供しておりますが、衆議院ホームページからもアクセス可能です。
平成12年1月から衆参両院の本会議と全委員会の会議録を公開し、同年半ばには第1回国会からのすべての会議録を公開する予定です。
ホームページアドレス http://kokkai.ndl.go.jp/

 もともとは、だれが書いたんでしょうかね。若い人かな、年配かな。いわゆる霞が関(永田町/三宅坂)文学の一種なんでしょうか。


 それで思い出したのが、2018年師走、日本の海自P-1哨戒機に対して、韓国海軍の艦艇(広開土太王=クワンゲト・デワン)がFC(火器管制)照射、いわばロックオンした事件で、防衛省の公表したビデオのことです。

 そのビデオの字幕を一部、引用します。

 クルー「クワンゲト・デワンは回頭中。240度まで回頭している。」
 クルー「さきほど撮影した、艦番号5001」

 以上は状況の報告です。でも、肉声による会話だから、「している」「した」という書き言葉でしゃべられると、娑婆の人間には違和感があります(笑)。娑婆の人間なら「回頭してます」「撮影しました」とか、あるいは体言止めで終わらせるでしょう。

 次に、機長の言葉。

機長「これより、WARSの撮影を実施する。」

 これは、下命ですね。命令。だから、ここは「実施せよ」でもいいんじゃないかな。「実施する」でも、上官の意思伝達にはなっていますが、命令にはきちんと命令形を使ったほうがいい。お母さんが子供に「走らない」「触らない」という形の禁止命令をよく使います。「走るな」「触るな」は妙齢のママさんには乱暴に思えるんでしょう。しかし、海自の哨戒機の機長なんだから、ここはきちんと命令形でいいと思います。ただし、「実施しろ」は品格がないかな。

 とにかくまあ、娑婆人間には違和感のあるこういう「会話」の形式も、ミリタリーの住人たちにはデフォルトなんだなあ、と思わされましたね。


 ところが、この後、

クルー「情報ありましたよね」

が来ます。これって、ふつうに娑婆の会話じゃないか。ミリタリーの人なら、「情報あったか」ぐらい言ってほしいのに。

 この返事がまた、

 「情報は…ありますね」

 市井の会話です。

 こんなのもありました。

「WARS?」

という問い合わせに対して、

「違いますね」

という返答です。わたしが小説を書くなら、ここは「ネガティブ」とかにしちゃいます(笑)。

 すいません。「しちゃいます」なんて軽口使って。でも、次のはいかが。

 クルー「機長、この、やつは撮ったんですか?」
 機長「まだ撮っていない。結局全景、今、失敗しちゃったので」

 機長が「しちゃった」なんて使ってますよ。

 ま、「しちゃった」はいいにしても、「違いますね」のかわりに「違いっ」とか「ちげえ」とか使ったりしてないよね。いや、「ネガティブ」の日本語訳として、「ちげえ」、いいかもしれない。




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