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創作小説

嫌なことは数えても減らない。

誰から言われたかも覚えてはいないがずっと頭の中にある言葉だが、「職業病」故にいつも数を意識してしまう。正に病。とある工場に勤務する銅田は常に何かを数えている。
夜勤を終え自転車に乗って帰路につく間カウントが始める。くたくたに疲れているときはだいたいマイナスイメージを数えがちだ。

今日は思うように仕事が進まなかった…
休憩がメンバー間で上手く回せなかった…

考え始めたらきりが無い。明日も夜勤が控えているのでとにかく手早く食事を済ませて床に就きたい。

いつものコンビニに寄るため脇道に入ると【通行止め】の看板が視界に入った。

無理にでも通るか…他にもコンビニはあるが…

交通整理をしている人に頼めば通れないこともなさそうだったがなんとなく気が滅入ってしまった。気分を変えて違うコンビニに行こうと来た道を引き返して別のルートに向かう。

闇雲に進んでも道に迷うかもしれない…慎重に方向を決めようとしたが、なんとなく信号に行き先を委ねてみようと思った。

シンプルに青の方向に進む

最近越してきた町は職場と家の往復ばかりでほとんど馴染みがなかったのでいい機会かもしれない…たぶん

4箇所の信号で角を曲がり、5箇所の信号を直進してしばらく経ってふと辺りで違和感に気づく。

信号が…見当たらない…

完全に住宅街に入り込んでしまったようだった。このままルールを遵守すると迷子になるかもしれない…少し不安になっていた時背後から声をかけられた。

「もしかしてお困りですか?」

振り返ると自分の目を疑うレベルのキレイな女性がこちらを向いていた。まじか…

「さっきからキョロキョロされてますよね?」

ヤバい…返事を誤れば最悪の場合不審者として通報されてしまうかもしれない…ここは平静を装う事にしよう…

いやぜんぜ「帰り道は忘れた だが心配はいらない目の前の道を突き進め 不安な気持ちは誰にでもある もし道に迷う人を見かけたら助けてあげよう」

いきなり歌い始めた。なるほど職業は役者とみた。

「という訳で気にせずまっすぐ進めば駅前の大通りに出ますよ!」

眩しすぎる笑顔に圧倒されながらこの辺りの地理を把握した。なるほど駅の方まで来ていたのか…

ありが「お礼なんていいですよ!代わりといってはなんですがさっきの歌、私のオリジナルソングでして、今度ライブがあるので聞きに来てください!」

勧誘されてしまった。決して悪い気はしない。

自身もいつの日か道に迷っている人を見かけたら声をかけよう「帰り道は忘れた」

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