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八澤のたった7時間で英文解釈(授業動画をみて少し考え直すが、ダイジュ先生を見てさらに考え直す)


八澤氏に対するイメージ

英文解釈の参考書が爆誕するなか、マナビズムの八澤氏が英文解釈の参考書を出版した。

もともと八澤氏のことはあまり信用していないのだが、怖いもの見たさで、本屋で立ち読みしたり、電子書籍版のサンプルを見てみたり、ネットの評判を見てみたりした。
八澤氏のことを信用していないと言ったが、出身大学とか英語を専門にしていなかったということを言っているのではない。講師として指導を続けていれば、ノウハウ・経験が蓄積されていくものだから、そんなことは問題にならない。
信用できないと思ったのは、八澤氏の、関先生のThe Rulesの紹介動画を見たからだ。The Rulesを絶賛しているのだが、内容は「(受験生への)気配りやばい」とか「(ルールの)再現性が高い」くらいのことしか言っていない。前者は、SVOCが振ってあるとか、音声があるということを言っていたが、そんなことは立ち読みすれば分かる。視聴者が本当に知りたいのは、The Rulesが売りにしているルールがどのようなものであり、どう役に立つものなのかということなのに、具体例を挙げることもなく、ただ再現性が高いと連呼するだけで、他の動画チャンネルの紹介動画に比べて、酷く薄っぺらに感じた。以来、また薄っぺらなことを言ってるんだろうと怖いもの見たさで時々動画チャンネルを見ている。まあ、いいことを言ってるときもあるのだが。

本書についての感想の概略

八澤氏にはこういうイメージを持ってはいたが、マナビズムの生徒層からして、今回の出版は、初学者に分かりやすいものになっているのではないか(息子の役に立つのではないか)と期待もしていた。
しかし、サンプルを読んでの感想は「何じゃ、これは」というものだった。その後、期間限定で公開された授業動画を見て、「人によってはありかも」と考えを改めた。
しかし、その後出版された「ダイジュ先生のたった10時間で英文法」を見て、本書の存在意義に疑問を持つようになった。

本書の内容

本書は、品詞と文型の攻略、句の攻略(準動詞)、節の攻略(接続詞・疑問詞)、節の攻略(関係詞)、特殊構文と美訳の追求の5チャプターからなり、各チャプターは、講義、要点整理、一問一答、基本練習から構成され、講義は重要知識編と例文演習編に分かれている。授業動画は、このうち講義から一問一答までについて用意されている。サンプルは、冒頭の利用の仕方の説明部分からチャプター1の講義までが収録されている。

チャプター1の重要知識編は10節からなるが、序論の「1武器をそろえる」の後、「2品詞」では、品詞には10種類あり、本書では品詞の中でも重要な動詞、名詞、形容詞、副詞を判別する訓練を行うと述べるので、品詞の話になるのかと思いきや、3では文型の話になる。しかし、文型にはSV、SVC、SVO、SVOO、SVOCの5つがあり、S=CとかO=Cといった程度の図式的な説明しかない。
「4動詞(V)」は述語動詞(文型)と品詞としての動詞の用語の使い分けが曖昧。動詞が最も重要と言いながら、動詞にはbe動詞とそれ以外(一般動詞)があり、be動詞はSVとSVCにしかならないが、一般動詞は5文型どれにもなる程度のことしか言っておらず、なぜだかbe動詞の活用表が掲載される(←結局、文型についてのまともに説明されているところはない)。
「5動詞以外の重要な品詞」には、名詞、形容詞、副詞がまとめて説明され、形容詞と副詞の区別とか、名詞はSOCになるとかの説明がされる。
「6句と節」では、英語ではカタマリの感覚が重要という話が、例文や理由が示されることもなくいきなり出てくる。そして、カタマリには句と節の2種類しかなく、その区別はSVが含まれるかどうかだという説明があり、句か節かを問うだけのプラクティスまで設けられている(←もっと説明すべき重要なことがあるだろう)。
次はいよいよ句節の役割の説明かと思ったら、7は自動詞と他動詞の区別の話で、「何をやねん」とツッコめるのが他動詞というのかポイントとされる(←記載するなら文型と絡めて4だろう)。
8は前置詞ではなく前置詞句の説明。形容詞句か副詞句になるという説明がされるが、この用語はここで初めて出てくる。
9は冠詞の話で、不定冠詞はたくさんあるうちの1つ、定冠詞は特定するというイメージという説明がされる(←この程度のことしか説明しないのなら、ここで触れる必要はあるのか)。
「10接続詞」では、等位接続詞は同じ働きをする語、句、節を結ぶ、従属接続詞は直後にSVをとり副詞節になると説明され、接続詞の一覧表が示される。that、if、whetherが名詞節になることは一覧表内にこっそり記載されている。
続く例文演習編が本書のメイン部分だ。重要知識編で触れた事項の演習になっているのかと思いきや、テーマ1がSVの発見、2が等位接続詞、3が従属接続詞と、重要知識編とは切り口の異なる構成となっている。内容的にも、最初のカッコがつかない名詞がSだとか、●●は従属接続詞だから次にはSVが来るとか、ここまでが前置詞句でどこにかかるといった説明がメインで、第4文型、第5文型の文は出てこず(と思う)、重要知識編に沿っている訳でもない。

要点整理は、重要知識編でポイントとして示された部分が再録されているような感じだ。

一問一答は、例文演習編で練習した内容を確認するものだと思いきや、要点整理の内容を覚えているかを問うもので、例文演習には出てきてもいない、第5文型はO=Cとか、名詞節を作る従属接続詞を答えさせられる。

基本演習は、例文演習の例文の再録と追加問題となっている。

ファーストインプレッション

サンプル部分(チャプター1)を読んで「何じゃ、これは」という感想を抱いた理由は、重要知識編は軸の異なる話が脈絡なく混在して説明されているようにみえ、内容的にも、一覧表による図式的な説明以外には大した説明はなく、例文演習編の構成も重要知識編と整合しておらず、重要知識編の主要部分(特に文型)をカバーしているものでもなく、全体として「どこが『品詞と文型の攻略』なんやねん」という内容で、チグハグな印象を受けたからだ。学校の勉強をこなしてきて(おぼろげでも全体像が見えるようになっている)高校生は、「今、何をやっているのか分からない」「演習をやらされたけど、結局、何をやったのか分からない」と感じてしまうのではないか。

もっとも、チャプター1の重要知識編は、今後の説明で出てくる用語(=武器)を提示することが目的で、「例文演習で実践してみせるから、とにかく今はこれだけを覚えてね」ということなのかもしれない。自動詞と他動詞の区別を取りあげたのも、後で「『何をやねん』とツッコめる→他動詞→後ろに来ているのは目的語となる名詞(句・節)」ということをやらせるからであろう。

とは言え、読者は、何でも素直に(=無批判に)受け入れることができ、無限の記憶力を持つ小学生ではない。高校生が、説明のないまま、とにかく今はこれを覚えろと言われても、覚えられるものだろうか。また、内容的にも、チャプター1の例文演習が重要知識編を網羅しているものではないことは先述のとおりである。

授業動画を見てのインプレッション

以下は、全チャプターにつき授業動画を見ての感想。
本書のメイン部分は例文演習の部分だ。2行程度の例文に対して、文構造が解説されているが、高校のリーダーの勉強を普通にやっていた生徒ならば、無意識にやっているであろうことについてまで、分析のやり方から丁寧に解説されている。その意味で本書の出発点のレベルは相当低く、落ちこぼれてしまった生徒でも取り組んでいけるだろう。
例文演習の後は、要点整理、一問一答と続いた後、例文演習と同じ英文の演習、追加問題の演習と続く。例文を再度演習させる類書は少ないが、詳しく解説された例文を本当に自力で解くことができるようになったのかを確認させるのは知識を定着させるのに役に立つだろう。間に要点整理、一問一答を噛ませているのも心にくい。さらに、追加問題で演習させるのも手厚い。
また、授業動画では、各チャプターの冒頭で、それまでのチャプターの一問一答をすべて復唱させており、図式的な説明であっても、何度も繰り返し唱えれば、覚えてしまうものだ。もっとも、授業動画の内容自体は、結局のところ、通り一遍の内容を連呼しているだけという感じで、関先生の授業のような「おおっ」と思わせる深みはない(想定される読者層は通り一遍の内容を身に付けることが先決なので、プラスアルファはいらないと言えばいらないのだが。)。

批判めいたことも書いたが、本書は人によってはありだろう。
類書も含めて、初学者向けの英文解釈の参考書で扱っている程度の内容は、高校でリーダー、文法、英作文の勉強を普通にこなしていれば、自然と身に付いているはずのものだ。にもかかわらず、英文解釈の参考書のニーズがあるのは、①ある程度はできるが知識を整理しておきたい、②高校の勉強をサボっていたという2つの層があるからだ。
本書の対象者は後者だろう。そもそも、高校3年間で触れる英文の量は膨大だ。膨大な英文に触れる中で自然と英文解釈の力が身に付いているというのが本来の姿だ。この努力を怠ってきた者が3年間普通に勉強してきた者に追いつこうとすれば、覚えなければならないことは覚え、他の者が3年間で経験したのに匹敵する経験を積むことがどうしても必要だ。しかし、これまで努力してこなかった者にとって、これは容易なことではないだろう。

本書は、覚えるべき事項を提示するとともに、例題演習で文構造、その解読手法を解説し、実践して見せ、要点整理・一問一答で覚えるべき事項を再確認させた上、同じ例文を使って今習ったことを自力でできるか練習させ、さらに追加問題で完全自力でできるか実践させているなど、覚えるべきことを覚えよと叱咤し、文構造の把握手法の習得の徹底を図っている。有無を言わせず勉強をさせるドリルのようなもので、本書に集中して取り組むことができれば、学校の勉強をサボってきて勉強のやり方が分からない者でも、短期間で文構造を把握することを習慣化することができ、学校の勉強を普通にこなしてきた者のレベルに追いつくことができるであろう。
ただし、そのためには、説明の脈絡が分からなかろうが、図式的な説明しかされてなかろうが、暗記せよと言われればとにかく暗記するなど、本書の指示に疑問を持たず従うことが必要である。そこに疑問を持ってしまうようでは、何をやっているのか分からなくなってしまい、途中でやめてしまいかねない。その意味で、意識高い系の生徒は本書を利用するべきではなく、本書をステップとしてさらに参考書をやろうなどと考えてはいけない(それなら、最初からそっちをやるべきだろう。)。

ダイジュ先生のたった10時間で英文法との関係

その後、同じくマナビズム講師の手になる「ダイジュ先生のたった10時間で英文法」が出版された。この本は良い本だと思ったが、同時に、八澤の英文解釈との棲み分けはどうなってるの?と思った。
10時間英文法では、文法事項の説明の際に、文構造を意識した説明がなされており、八澤の英文解釈で説明されているようなことは説明がされている。他方、八澤の英文解釈が扱っている英文は文法書の例文と変わらないレベルのもので、言わば、文法書の例文の構造解析をしているようなものだ(対して類書では、演習問題などで構造の複雑な英文も扱っている。)。文構造を意識した説明がされている10時間英文法が身についているならば、今さら八澤の英文解釈なぞする必要はない。他方、ドリル的に利用することも、扱っている範囲が八澤英文解釈<<<10時間英文法なので、網羅性という点で勧められない(やるなら、はじめの英文読解ドリルがお勧め)。
逆に、八澤英文解釈→10時間英文法というルートはどうか。細かい部分は後回しにして先に重要な部分を押さえるというのはありだと思うが、八澤英文解釈のチャプター1は貧弱すぎる。本来ならば、10時間英文法のチャプター0とチャプター1に相当する説明をすべきだろう。
それならば、八澤英文解釈と10時間英文法を並行してやればよいが、7時間とか10時間という短期集中のコンセプトから外れてくるし、勉強慣れしていない者がそんな器用なことができるとも思えない。
結局、八澤英文解釈はどのタイミングで使えばいいのか分からなくなってしまった。







































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