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フェンはこんな人(だと思う)

【あわせて読みたい:これは短編「愛を犯す人々①フェン」の付録です。読むと二度美味しくなる裏設定を、全部載せでお届け。フェンの旦那さんに直撃インタビュー、フェンの好きなもの。他】

 日系ベトナム二世。アラサーとアラフォーの間くらいかな。ヒロセに出会ったのは30前後でしょう。優秀、勤勉、美人、基幹開発関係のデータベースエンジニア。製造が多いです。ただし会社の都合でコンサルみたいなこともします。なんといっても毎日同じ電車に乗るってすごいですよね。家が遠くて本数少ないのかな? ベトナム勤務のお母さんと疎遠で、父方のおばあちゃんの元で育ったこともあり、ベトナム語はあんまり。日本語が流暢ですねと言われるエキゾチックな容姿ですが、日本語母語だし、なに言ってんの?と思ってます。英語はかなりできますが、いまのプロジェクトでは使用してない、くらいの使い方。旦那さんは大学の同級生で、会計士。フェンは旦那さんとだけはずっと付き合ってて、今も持ちつ持たれつ、非常に計画的かつ洗練された共同生活を営んでいます。
 一応、旦那さんはかなり切れ者なので、気づいていなくもないんですが、カマかけて詮索したり、漁ったり、嫌味言ったりはしないです。フェンは、特に社会人になってからは、過剰に隠したり、嘘ついたりとか、してない。夜に会うときは遅くなるって言うし、土日に会うときはちょっと一人で出かけたいって言う。旦那さんは、了解と言う。フェンはたまに、さっきセックスしましたという顔で帰って来ることがありますが、旦那さんはスルーしてます。フェンもスルーしてる旦那さんに、気づいてはいます。だから、隠したり嘘ついたりはしないけど、話さないし、見せません。

 フェンの男性関係は華やかというより堅実。遊ばないタイプですが、恋愛意欲旺盛なため、無駄に心の傷と経験があります。最近は恋愛方面での食欲が落ちて来て、ヒロセが最後かなと思ってます。けど、きっと恋には落ち続けるでしょうし、フェンに恋する男性もきっと出てくるでしょう。この先、フェンにいい恋が待っているのを願うばかりです。

 ここで突然。フェンの旦那さんにインタビューしてみます(インタビュアー:私の心のアシスタントの花野さん)

花:短刀を直入して訊きますが、フェンが浮気するのは、実際問題どうなんです? さっきから気になって仕方なかったんですよね。謎すぎます。さっきセックスしましたという顔って。無理でしょ。
旦:それはあなたが、考えることを放棄しているからですよ。わからないなら、考えればいい。考えた結論なら、私と議論することはあっても、私に理解を示さなかったり、同意を強要したりすることはないはずだ。あなたは考えていない。従っているだけですよ。そんな状態で僕と話しても意味がありません。
花:あ…はい…? はあ。まあ。
旦:浮気という言い方にも疑問がありますね。僕から一時的に目が移るという話ではないですから。彼女の場合、恋愛趣味と呼ぶのが正しいでしょう。法的な側面から外形的に不倫と呼ぶなら、そうなるでしょうが、それにしても僕の考える倫理は、生殖的な部分にはあっても、性愛的な部分にはない。恋愛はフェンの自由だし、フェンの権利だと思います。僕はフェン以外の女性と関係を持ちませんが、それも僕の自由だし、僕の権利です。
花:いきなりめんどくさいですね。
旦:はい。踏み込まないでほしいという意味です。僕はフェンと結婚していますから。
花:優越感?
旦:もちろんあるし、僕は事実、優越しています。フェンがどこに行っても僕が必ず連れ戻すし、フェンが誰かに心を奪われても、僕が必ず取り戻します。彼女には良くも悪くも、そういう男は僕ひとりしかいないし、将来もそうでしょう。彼女は、僕以外の人間には、彼女にとって絶対に必要なものが欠けていると思うでしょうし。
花:それは何ですか。
旦:対話のある生活と、自由な愛です。
花:ごちです。
旦:失礼します。

 …あまり意外性のない展開ですが、フェンと旦那さんの恋愛模様も気になるところです。とりあえずベビーが幸せになりますように。きっと可愛いだろうな。花野さん、面倒な役をありがとうございます。

 ヒロセみたいなドンファン型の人にこんなに惚れ込むのは、フェンには珍しいことなんですね。基本的に自分だけ見ててほしいし、自分が一番でいたいし、それなりに嫉妬もある。ただ、そのせいでフェンの恋愛が続かないのもまた事実で。というのは、相手の男性が独身だったり、パートナーとうまく行ってなかったりすると、バランスが狂っちゃうんですよね。向こうの方が好きになると、フェンが面倒に感じるか、向こうがフェンにハマるのを避けるかで、距離ができちゃう。そんななか、ヒロセだけが絶妙なバランス感で、だらだら付き合ってます。フェンはヒロセから一度も、他に男がいるか訊かれたことがありませんし、フェンも旦那さん以外の話はしません。フェンもヒロセに対してそう。ほんとは知りたくてうずうずしてますし、ヒロセがどうして訊いてこないか疑問に思ってますが、なんとなく触れずにスルーしてます。話していいことない、というのをヒロセが知っていることについては、ちょっとした同志感と、肉食系アラサーとしての競争心を感じています。

 ちょうどよかった。

 と、彼女は思っています。重さ、軽さ、境遇、配慮。ヒロセとの、たぶん5年以上?越しの恋に並行して、3人、恋人らしい人ができましたが、全員1年以内にフェイドアウトしています。理由は上述の通り、あちらとこちらが半々くらい。ちょうどいい人、探すのって大変なんですね、フェン。

フ:みんな優しくていい人だったよ。私だって楽しい時もあったし、後悔はしたくない。でも、もう忘れたいなって思ってるし、忘れかけてます。思い出せなくてもいいかな。思い出せないほうがいい。

 はい。正しい姓名とかね。善だっけ義だっけみたいなね。私は10年かかりました。こないだネットストーキングしようと思い立ったんですが、漢字が思い出せなかった。ちゃんと忘れてることに感動して、ネスト構想あきらめました。その辺、フェンは引きずらないんだよなぁ。もう繋がらないメールアドレスを、なぜか2年も連絡先フォルダに放り込んだままにしてしまう私には、ほんと羨ましいです。あ。フェン、思い出させちゃってごめんなさい。私も漢字が喜だったことをふと思い出して、いま、悲しくなりました。はい。

 フェンの好きなもの。ひきたて、淹れたてのコーヒー。日曜日の朝晴れている時。いい匂い。綺麗に剥けたグレープフルーツ。夕方、川沿いの道を散歩すること。資格の勉強。旦那さんの寝息。テンポラリのステディとこっそりする、非公開のツイッター。「まいあさラジオ」のアナウンサーのコメント。髪が綺麗に巻けて、メイクもちょうどいい時。可愛い小鳥のイラスト。泣いちゃうくらい気持ちいいセックス。といえば、ヒロセ。

以上です。

本篇は、こちら:

ヒロセはここにいます:


今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。