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【旅行記】微魔女の微ミョーな旅・27

5.ウズベキスタンー2019年

 なぜ、ウズベキスタンだったのか?

 私は子どものころから、ターコイズブルーとエメラルドグリーンが大好きで、絵具や色鉛筆のセットを買っても、この二色は必ず別売りで買ってもらっていた。小中学校の図工ごときで、こんな特殊な色を使う機会などほとんなかったのだが、持っているだけで嬉しかったので、いつも箱を止めるゴムに挟んでいた。
 だから、ペルシアンタイルに彩られたイランのモスク、とくにイスファハーンのイマーム・モスクのエイヴァーンなどは、私にとっては鳥肌ものの美しさだった。イスラムの建物や雰囲気が好きで、元気がなくなるとメルボルン郊外のムスリムが多く住む地域へ出掛け、ケバブを食べバクラバを買って、元気になって帰ってくる。高校で世界史を選んだのも、中東史にはまったからで、戦国時代の歴代将軍の名前はまったく覚えられなくても、ペルシアの王朝や王様の名前は簡単に覚えられてしまうので、自分には何かペルシアに因縁めいたものがあるのではないか、とロマンチックな妄想をするようになって久しい。
 そんな話を友達としていたら、「だったらサマルカンドは行った?」と聞かれ、調べてみると別名“青の都”。ウズベキスタンの国旗の色がまた、ストレート直球ど真ん中だったので、もう、いてもたってもいられずに航空券とツアー探しを始めた。
 ところが、そこに立ちはだかった飛行時間の壁。続く予算の壁。
 「これって、日本に帰ったときに行った方が早いし安くない?」
 日本発着のツアーは結構あるものの、全行程5泊6日、往復に約2日間って、一体何しに行くのだろう? 一人参加は約2人分の料金が発生するので、日本の友達を誘ってみると、全員が「そんな怖いところ、行きたくない」。微魔女のトシになって、怖いものがあるというのにも驚いたが、“ウズベキスタンって怖い”という共通認識にも驚いた。アフガニスタンとか、パキスタンと勘違いしているのではないか? 
 予算の方は何とかなるとして(こういう考えがいかにもバブル世代だとつくづく思う)、距離ばかりはどうにもならない。 乗り換え時間を入れると、驚愕の20時間! しかもメルボルンとは時差5時間。昨年あたりからメルボルン~日本間の10時間のフライトでさえきつくなってきているのに、フライトだけで片道14時間なんて、どんな荒行なのか? 結局その年はすっかり怖気づいて、近場(といっても8時間のフライトだが)のベトナム中部でお茶を濁すことにした。
 
 そして翌年。
 微魔女年齢のせいか、秋頃(オーストラリアの5月)からどうも思考が後ろ向きで、何をやっても気が晴れず、仕事も遊びもはかどらない。こういうときは旅行に行くに限るのだが、思い浮かぶのは、遥か彼方の青の都。予算はいつもの倍以上、距離も時差も縮まらない、縮まるわけがない。やっぱり諦めよう。じゃあ、ミャンマー?――お寺ばっかりじゃん。ハノイ?――いつでも行かれるじゃん。台湾?――日本に帰るついででいいじゃん、と一人問答。
 「ウズベキスタンに行きたい」
 と夫に相談すると、
 「行けば?」
 「遠すぎる」
 「じゃあ、やめれば?」
 ネが天邪鬼なので、やめろと言われると尚更行きたくなる。何かどうしても行かなければいけない理由を見つけよう。そうだ、私は更年期ウツかもしれない。青の都に癒してもらうほか治療はないのだ。
 
 9月に入ってから航空券と同時にツアーを探し始めた。今回はモスクワ乗り換えでアエロフロートに乗ろうとか、デリー乗り換えでウズベキスタン航空に乗ろうといった荊の道は歩まず、往復エミレーツ航空の一点買い。ツアーも、何しろ時間が迫っているので(ならば行かなきゃいいのに)前々回利用したT社のサイト経由で、オンラインショッピングさながらに、ツアーを選び、購入ボタンをプチっと押すことにした。
 予約の時点で半月を切っていたので、さすがに11月に延期しようか、それを逃すと気候の関係なのか翌年3月過ぎまでツアーそのものが催行されない。大陸性気候なので、10月でぎりぎり、11月になるとほとんど冬らしい。寒いと荷物が増えるから嫌だな。来年になったら何が起きるかわからないしな。
 ここ数年、世の中のふり幅が大きくなっている。若かったころは飽き飽きするほど平穏なので動き回り、大概のことは何とかなっていたし(実は何ともなっていなかったのに、若気の至りで気づかなかっただけかもしれない)、世の中も旅行ができなくなるほど変わる心配などなかった。しかし今は、自分自身がケガや病気で身動きが取れなくなるかもしれないし――実際にここ数年、私の周りで友達が亡くなっている、世の中だって災害は仕方がないにしても、国際関係や経済の悪化、テロで移動できなくなるかもしれない。刹那主義よろしく、身動きが取れる今、安全な今、何よりも今行きたいから、“今”行こう。
 ということで、ズベキスタンの首都タシュケントにあるS社で、国内4都市を巡る7泊8日のツアーに予約したのは、10月に入ってからだった。

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