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【旅行記】微魔女の微ミョーな旅・10

1.ヨルダン、イランー2016年 (2)イラン

 ビザは国次第、人次第?

 イランの旅程は、テヘラン~シラーズ~ペルセポリス~イスハファン~カシャーン~テヘランの7泊8日になっている。
 翌朝九時の集合時間にロビーへ行くと、もの凄くメイクの濃い女性が迎えに来ていた。車寄せに停めてあるミニバンに乗り込むと、白人のおじさんが3人座っていて、この人たちがツアーの参加者らしい。女性はツアーガイドでリリーという。
 まず最初に訪れたイラン考古学博物館を見学しながら、お互いが自己紹介をし、ポルトガル人のジャイメ、オーストラリア人のグレッグ、アメリカ人のルーク、そして日本人との国籍構成とわかった。車に戻るとジャイメがごくごく自然に“お先にどうぞ”とドアを開けてくれ、そういえばオーストラリを出てから、レディーファーストの扱いを受けていなかったことを思い出し、妙な安心感を覚えたりもした。
 旅程には全朝食と昼食が含まれていて、リリーによるとイランではランチが三食のなかで一番重要なのだそうだ。スープ、サラダ、ライス、羊(ラム)・鶏・牛肉のグリルか煮込み、果物といったメニューで、最後に必ず紅茶と干しデーツが出てくる。ラムはオーストラリアでも普通にあるものの、臭いが気になってほとんど食べたことがなかったが、イランのラムは臭いがなくて柔らかい。そして食後の果物はどれも味が濃くて美味しい。
 その日はほかに、ガラス博物館、絨毯博物館、宝石博物館を見学し、ホテルに戻ってからグレッグとルークと夕飯に行くことになった。グレッグとは階違いで同じホテル、ルークは3ツ星、ジャイメは五ツ星に泊まっていることがわかった。このツアーはホテルのランクが5ツ星、3.5~4ツ星、2~3ツ星の3つに分かれていて、それぞれでツアー代金が違う。朝はそれぞれのホテルに順番に迎えに行き、帰りも順番に下ろしてくれる。ジャイメの泊まる5ツ星ホテルは、さすがに立地も外装も、利用客も違っていた。 
 テヘランの街は3人共土地勘がまったくない。人(髭面の男性ばかり)も車も多く混沌としていて、レストランを探し歩いているうちに秋葉原のような電気街に出てしまった。外国人とは何度か旅行をしたことがあるが、なぜか地図とかガイドの類を持ち歩かない。もちろん、この2人も持って来ていないし、私も海外での外出時は手荷物を持たないのですべてホテルに置いてある。最初は、ペルシアレストランへ行こうなど志の高いことを話していたが、日が暮れてどんどん深みにはまってしまいそうで、しかも白人男性はかなり目立つので、手近にあったケバブのファーストフード店に入ることにした。
 オープンしたばかりのこの店で、ミールセット2人分に、私のサラダとドリンクでしめて10USドル。両替商で80USドルを両替しておいたが、クレジットカードが使えないとはいえ現金も使いきれないような予感がする。
 「マックがあったら、いくらするんだろうな」
 生まれも育ちもニューヨークのルークは看護学校が終わったところで、長い休みのたびに海外に出掛けているという。
 「それじゃあ、彼女も持ち家もないだろうな」
 かなり辛辣なことをグレッグが言うと思ったら、自分もルークの年代は同じようなものだったらしい。
 「俺はそんなこんなで、奥さん3人目ってことだ」
 軍隊経験があり、かなり年齢がいってから大学で政治・経済学を学び、今はクイーンズランドでツアーガイドをしている。イランへ入る前に、南アフリカとジンバブエへ寄っていたそうだ。2人共いわゆる世界を巡る旅行好きで、ルークに至ってはビザコレクターのようでもあった。そして当然、イラン入国時の話になった。
 私とグレッグはどうやら同じ飛行機に乗っていたらしい。私はオーストラリアの旅行保険で何の問題もなく、ビザ代金は70USドルだったと話すと、2人が「ホワーット⁉」と顔を見合わせた。グレッグは、オーストラリアの旅行保険は認められず、保険に40USドル、ビザに140USドル払ったという。ルークにいたっては本国でビザの申請をして300USドルを超えていたそうだ。
 「ビザの値段なんてなくて、パスポートと人を見て値段を決めてるんじゃないか? ムカつくな」
 オージーイングリッシュで聞く悪態が妙に耳に懐かしい。
 「入国手続きも手作業で、世界最遅だよね」
 ビザおたくのルークの言葉には説得力がある。
 「こりゃ、出国にも時間かかりそうだよな」
 
 翌日は午後からゴレスターン宮殿、サアダーバード宮殿博物館をまわった後、夜便でシーラーズへ移動の予定になっている。空港では男女別の身体検査があり、かなり念入りに検査された。ロビーの売店には、アメリカンコミックの(多分?)海賊版ペルシア語訳が売られていて、ルークが大喜びで写真を撮っていた。
 飛行機は古く、エンターテインメントはもちろんモニターも何もないが、ジョン・トラボルタ似のフライトアテンダントが、真横で安全説明を実演してくれ、思わず手が伸びそうになる。笑みひとつ浮かべぬその顔がますます渋い。
 「すごい機体だな。無事にシーラーズまで辿り着けるといいけどな」
 荒っぽい離陸に、グレッグが背をのけぞらせながらコメントしていた。驚いたのは、2時間弱のフライトでデザートまでついた夕飯が出たことで、そしてもっと驚いたのは、既にテヘランで夕飯を食べて来たのに、グレッグが機内食を平らげていたことだった。

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