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展覧会レポート:「Digital Tribe -未来のコミュニティのあり方-」

今月、HELI(X)UMが主催する増田セバスチャン&京都芸術大学ウルトラファクトリー/カラフル・ラボの展覧会「Digital Tribe -未来のコミュニティのあり方-」の京都開催が無事閉幕致しました。

この記事では同展示の様子をレポート。開催に至る経緯はぜひ前記事をご覧ください。


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展覧会「Digital Tribe -未来のコミュニティのあり方-」が開催されたのは、京都芸術大学の関連施設である「Obra」というギャラリー。入り口でみなさまをお迎えしたのは、アイキャッチ的に飾られたインスタレーションです。

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このインスタレーションは、現在の Kawaii 文化のコミュニティ ( 通称"Kawaii第3世代") に大きく影響を与えた、2010年前後に増田セバスチャンが国内外で発表した作品をベースに再構成したもの。

不安定なベッド、そこから崩れ落ちるおもちゃやお菓子、大きくてベロが長いクマのぬいぐるみで作られる構成は、 増田セバスチャンが「Kawaii」を表現する際の基本要素。2014年にNYで発表した「Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-」という作品の一部でもこの構造は使われています。


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会場に入ると、まず展覧会のステイトメントと、世界中のKawaiiコミュニティに提供してもらったポートレートが掲示されます。

本展覧会のステイトメント↓

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ステイトメントの横には、Kawaiiコミュニティの写真群。

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Digital Tribeの説明にある「人種・宗教・性別・年齢・国境、ありとあらゆるボーダーを乗り越え、デジタルを通じて繋がることができる」をストレートに体現しているのが、このポートレートではないでしょうか。

増田セバスチャンにとっては10年以上見続けているおなじみの皆の姿ですが、まずこの写真群に驚いた方も多かったようです。

そして対面には、「Kawaii Tribe Session」の映像が展示されています。ポートレートにも写っている海外コミュニティとの対話を記録した映像です。

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2020年7月、世界中に存在するKawaii文化のコミュニティと増田セバスチャンが対話を行う少人数制イベントとして、Kawaii Tribe Sessionはスタートしました。2020 年の開催国は、カナダ、イギリス、イスラエル、ボリビア、メキシコ、アメリカ。本展では実際のSession 映像の一部(イギリス、イスラエル)を展示しました。各国のコロナ禍の状況による生活の変化、自分にとってKawaii とはどんな存在なのか、彼らの考えを言語化する試みとなっています。 (配信協力:京都芸術大学ウルトラファクトリー・UFO)

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2020年はKawaii Tribe Sessionの他に、Kawaiiコミュニティの言語化をテーマにした「Friday Question」をInstagram 上で毎週金曜日に投稿。毎週1つの質問を投稿し、自由に答えてもらうという企画を現在も継続しています。

その延長線上の企画として、本展の為にKawaii 文化のコミュニティへ聞きたいことを質問するアンケートをGoogleフォームを用いて実施しました。それがこの「Questionnaire for Kawaii Tribe」。10日間という短い募集期間ではありましたが、約40カ国200人以上が協力してくれました。

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年齢、性別、言語、居住国などの傾向や回答した言葉を集計したグラフやリストで注目すべきは「性別」。回答を自由記述にしたことで、その表現自体がアイデンティティや個性に直結していることが理解できる言葉が並び、今回はその全てを掲載しています。

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また、全13問あったアンケートの中から、「あなたがKAWAIIを好きになったきっかけを教えてください。」「あなたにとって"Kawaii"とは何ですか?」「Kawaiiに関することで嫌な思いをしたことはありますか?それはどんな体験でしたか?」という4つの質問への全回答を冊子にして、参加者全員の回答を閲覧できるように展示しました。

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1人の答えも逃さない。学生メンバーの力作です。


そして、一番奥の壁に展示されたのは、本展のために制作された「Digital Tribe World Map via Kawaii」。

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アンケートでの「居住国」「居住都市」の回答をもとに、Kawaii 文化のコミュニティが住んでいる場所 ( 部族でいう生息地 ) をピンの代わりに電球でマッピングした世界地図となっています。 SNSや直接会うことでコミュニティの存在を確認している国でも、インターネットの規制の関係で Google フォームで実施した今回のアンケートに参加できなかった国も存在するので、(中国など)アンケート方法を改善しながら今後もこの作品の制作は継続する予定です。

ここまで世界に広まるKawaii文化のコミュニティを皆様に紹介してきましたが、では、そのKawaiiはどこから始まったのでしょうか?

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それはこの「Kawaii Creators Map」から紐解くことができます。


"現代における Kawaii文化の源流は戦後少女文化にある"という増田セバスチャンの仮説に基づき、中原淳一氏・内藤ルネ氏・辻信太郎氏の3人のクリエイターを中心にリサーチし、 彼らを中心とした相関図を作成。さらに、Kawaiiの聖地となっている原宿の歴史や、デジタルトライブには欠かせないインターネット・SNS などの動きも記載し、世界に広まったKawaiiのルーツや軌跡を追いました。同時に3人が残した言葉の一部や現代にも続くキーワードをピックアップすることで、未来を想像するヒントとなるようにしています。

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相関図と一緒に、関連アイテム(増田セバスチャンの私物コレクション)も展示。展覧会には老若男女幅広く来場いただきましたが、中には「昔このポストカード持ってたのよ」など親子で会話される方も。海外にも広まったKawaii文化が最近ポッと生まれたものではなく、脈々と我々に影響を与え続けているものだということを、少しでもご理解いただけたのではないかと思います。

以上、展示物自体がかなり情報量の多い展示となったのですが、加えてとても好評だったのが、参加学生(1,2年生)による熱心な解説です。20歳前後の彼らの解説は、まさに生きた言葉でした。

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この約9ヶ月に渡るリサーチは、プロジェクトに参加した13名の学生から始まり、登校ができない前期は完全オンライン、後期になりやっと顔を合わせることができてから本格的にスタートしました。2020年の年末にこの展示の開催が決定すると、参加学生の中から7名が立候補し、世界アンケートの実施、集計、展示物の制作、展示の設営を一緒に行いました。

後期が始まった9月時点では、このように、先行きの見えない未来に不安を抱えている学生も多かったのですが…さて、今はどうでしょう。

今度、最後まで参加した彼らに、「あなたにとって未来ってどんな感じ?」と聞いてみたいと思います。

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「可愛い」「かわいい」「カワイイ」色々な切り口で解説した展示が行われていますが、ここまでプレイヤー目線で「Kawaii」文化のルーツやスピリッツを紐解き、現在進行形のコミュニティの姿まで展示した展覧会は、これが世界初ではないでしょうか。

戦後から続くKawaii文化の歴史と系譜、90年代の原宿とインターネットを起点に繋がる今リアルタイムで存在する世界中のコミュニティ、次世代を担う学生達と想像する「これから」。

2021年秋に巡回予定の東京開催では、リサーチが足りないパートを強化し、さらにパワーアップした内容になる予定です。

そして近い将来、この展示の完成形を海外の美術館で開催することも、我々の使命だと考えています。

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