夏-vol.6 熊倉拓也

夏のぬけがら

 梅雨も明けて本格的な夏の到来を感じる良く晴れた日、車に乗った僕は宇都宮のはずれにある森林公園に向かっている。

 家から15分ほど車を走らせると、コンビニが2つもある交差点に当たる。こんな田舎に果たして2つも必要なのかとツッコミたくなる。しかし、それが公園に近づいている目印。片方のコンビニに車を停めて烏龍茶を買い、バックに忍ばせて再出発。

 山の入り口に入ると高く伸びた木々たちが作り出す自然のトンネルの中に入る。こんなに晴れているのに薄暗く、少しドキドキする。この道が僕はとても好きだ。この日のドライブBGMは真島昌利のアルバム「夏のぬけがら」。緩やかな坂道を5分ほど上っていくと左手に大きな駐車場が見えてくる。平日の昼間にも関わらず沢山の車がある。ハイキングやサイクリングをする人、車の中で休憩しているサラリーマン、4つあるベンチに1つづつ腰掛けてソーシャルディスタンスを守りながら話すおじさん。

 車から降りた途端に降り注ぐ灼熱の太陽を浴びながら公園へと向かう。赤、白、ピンクの花が植えられた花壇がある坂道を登った所に森林公園はある。奥につれて細くなるきのこのような形のダムが山を丸くくり抜いたかのように真ん中にある。赤川ダムだ。空は開き、青が見える。そのダムを囲むように一周回れる散歩道。その周りには災害から人々を守るために作られた保安林。ダムと散歩道の間には整理された芝生。芝生の上にある石で作られた丸い机と椅子。そこに腰を下ろし少し緩くなった烏龍茶を飲む。

 一息ついた僕は一週220mある赤川ダムの周りを歩いた。太陽に照らされたいちょうの葉は黄色く輝き、少し遠くにある杉の木の葉は羽を広げた孔雀の大群のようにも見える。奥にある古賀志山から流れてくる湧き水を横目に歩く。ちょうど一週の折り返し地点についた頃、「この先展望台」と書かれた看板を見つけたので少し山を登ってみることにした。Tシャツをびしょびしょに濡らし息切れをしながら広めの歩幅で歩く。ブーツではなくAir Max 90を履いた自分を褒めた。展望台に着くと木で作られた5畳くらいの板に飛び乗り周りを見渡した。緑一面に囲まれた公園を一望できる景色はとても綺麗で疲れを忘れ嬉しくなった。それと同時にここにある自然は人間によって守られている場所なんだということに気づいた。  

 山を下り、ダムの残り半周を歩く。水面から魚が飛び跳ねるのに気付き、数年前に友達とブラックバスを釣りにここに初めて来たことを思い出した。一匹も釣れず肩を落として帰ったことを覚えてる。今年の春には桜を見に久しぶりにここに訪れた。まだ時期が早かったせいかほとんど桜は咲いていなかったが、その時以来この公園がとても好きになった。歳をとるにつれ、今まで何とも思っていなかった事や物が好きになっている事がある。この公園もそのうちの一つだ。

 その後もここに一人できた事がある。ただボーッとして豊かな自然に目を向け、名前も知らない鳥や虫の鳴き声に耳を傾け、言葉には表せれない緑の匂いを嗅ぐ。例え余計な事や嫌な事が頭の中にあってもそれを忘れ消し去ってくれる。

 そうこうしてるうちに駐車場に着いた。セブンテーンアイスの自販機を見つけ、すぐさま買いに行った。気を抜くと一瞬で溶けてしまいそうなアイスを食べながら周りを見渡す。駐車場に着いた時にいたソーシャルディスタンスおじさん2人がまだいることに気付く。公園は誰に対しても平等で、来る人も帰る人も拒まずただそこにあり続ける。

 汗びっしょりのまま車に乗り込みエンジンを付けエアコンの設定を5にした。カーステから真島昌利の「地球の一番はげた場所」が流れる。地球の一番はげた場所っていったいどこなんだろう?なんて事を思いながらこの公園を後にした。



宇都宮市森林公園


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