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劇場版ウマ娘「新時代の扉」感想と鑑賞のすすめ※長文かつネタバレ多数です

 満を持して公開されたウマ娘の映画「新時代の扉」も公開から1ヶ月強経ったので、そろそろネタバレだらけの感想を公開してもいいかなと思い公開致します。初日に初回を観て、その後2回目3回目と見た上での感想ですが、8割方は初見の感想となっています(2回目は色々と見逃した部分を確認しつつ、3回目は席が大暴れする4DXを満喫しました)。書きたいことはいっぱいあるのですがとても長くなるので、目次をつけて前半はまだ映画を見ていない方へのおすすめを、後半は私個人の感想という感じで書いていきますのでかいつまんで読んで頂ければと思います。

 一言で言うと「映像・音楽・脚本含め素晴らしい出来の映画です!」となるのですが、長年競馬を見てきてかつウマ娘も一通り見たり遊んだりしている人間の感想ですので、贔屓目に過ぎるところもあるんじゃないの?と思われても仕方のない所ではあります。そこで!丁度良く期間限定で冒頭7分間の動画が公開されましたので、これを見て判断して頂くのが良いかと思います。短い時間ながら、この作品の魅力が詰まっておりますので…。※7/24を過ぎるとここは廃墟になります点、ご了承下さい

 「ウマ娘。彼女たちは~」といういつものナレーションから始まる同作品ですが、今回は映画の元になった「動く馬」を模した映像からのスタートと「これから始まるのは映画ですよ!」という分かりやすいメッセージになっていますね。マルゼンスキー・シンボリルドルフに始まり、次々と現れては消えていくウマ娘たちを描く辺りサービスも満点です。※ここのウマ娘たちは時系列の登場で、一番最後がテイエムオペラオーらと同世代のハルウララ

 フリースタイルレースでならしていた主人公ジャングルポケットが友人たちに誘われて見に来たレースは弥生賞(史実では1995年)、そこで見たフジキセキの美しくかつ強い走りに心を奪われる…という場面から始まりますがこのレースのクオリティが本当に素晴らしいの一言。フィルムスコアリングで製作された劇伴「Twinkle Miracle」の盛り上がりと作中のレース描写の融合が見事で、見ている我々もポッケと同じようにその走りに完全に魅了されるという形です。私自身、実際のこのレースをリアルタイムで見た際に受けた感情が蘇ってきたという感じを受けましたね。軽く仕掛けただけの楽勝で、本当に鮮やかだったんです。三冠馬になるとは言わないまでも、ダービーまでは勝ち続けるだろうと思うくらいには…。

 ポッケがトレセン学園に入って同じようにトゥインクルシリーズを走りたいとなり、OPが始まります。大石昌良氏作による主題歌の「Ready!!Steady!!Derby!!」に合わせてトレセン学園入学→フジキセキに出会ってデレデレ→トレーナーを紹介してもらう→トレーニングを積んで札幌でデビューし続く重賞のレコード勝ちまで(史実では2000年)、とてもテンポ良く進んでいくのは爽快ですね。本当に良くまとめられていて、あっという間の導入部終了となっています。この後年末のG1に向けて~となりますが、ここまで見て先が気になった方は是非もっと良い音響と大きいスクリーンの映画館でお楽しみ下さいね!ただし初見の場合は4DXで見ることはおすすめしません。とんでもない揺れに巻き込まれますので話に集中するのは困難かと思います(2回目以降ならかなり楽しめると思います)。MX4Dの方は体験しておりませんが、やはり体験型なので初回向きではないかと思います。

 ここからは読んで下さっている方の段階別におすすめをして参ります。感想はその後に。


これまでウマ娘に触れてこなかった方へのおすすめ

 「今まで一度も見たことがないし、いきなり見ても面白くないのでは?」という疑問を持たれるかと思いますが、全然大丈夫です!よくできたスポ根ものとして見て頂ける作品ですし、予備知識なしでもかなり楽しめると思います(初見の知人も面白かったとの感想でした)。テレビでのアニメシリーズやゲームもありますが、そことは話が繋がっていないのでご安心下さい。ただある程度知っておいた方が面白くなるのも確かですので、この作品と唯一繋がりがある前日譚的な作品「ROAD TO THE TOP」を見ておくと、継続して登場する一部のキャラ達に思い入れが持てるものと思います。こちらは「新時代の扉」の1年前に当たる時期を描いた作品で、YOUTUBEで無料配信されております。計4話の2時間弱で見終わるシリーズですので、ウマ娘ってこんな感じかというのが掴めるんじゃないかと思います。こちらもとても良く出来た作品ですので、よろしければ。とりあえず短い予告編だけ貼っておきますので、「新時代の扉」でも描かれるクラシックレースというのがどういう重みを持つものかなどはこれだけでお分かり頂けるのではないかと…。
 あとはフジキセキとジャングルポケットが何故こういう関係なのかというのは、実馬の馬主・調教師・騎手・厩務員に至るまで同一という珍しい関係で、文字通り「叶えられなかった夢を託された存在」であるということを予め知っておくと面白いかもしれません。

競馬は見ているけどウマ娘は見ていないという方へのおすすめ

 私が一番見てほしいなと思ってるのがこれに当てはまる方です。というのも私自身もウマ娘が始まった当初は、「よくある擬人化ものか~」くらいの感じでどちらかと言えば否定的でした。ただ実際に見てみると競馬の面白さや感動をしっかりと再現しつつ、知っている人ならすぐ気付くような小ネタ(馬自身のみならず騎手や厩舎、馬主周りなど多数)を大量に仕込むなど、明らかに競馬が大好きな人たちが真摯に取り組んでいる作品なのだなと認識が変わりました。競馬ファンであれば描かれる元のレースはもう結果も分かっているわけですが、そこに向けてどう物語を作っていくかや、馬ではなく人の心を持つウマ娘にあらゆる要素を落とし込むことによる面白さがそこにはあります。競馬を題材にした大河ドラマ的な感覚で見て頂くのが、きっと楽しいかと思います。リアルタイムで見ていたレースが描かれれば、その時自分が何をやっていたかとかも鮮明に思い出せたりしますしね。

 事前に疑問点はいっぱい出てくると思うので箇条書きで説明します。
・この世界では、ウマ娘たちのレース(特に作中扱われるトゥインクルシリーズ)は野球とサッカーを足して割らないくらいの国民的人気スポーツです
・やや紛らわしいですが、競馬と違って年齢が同じ=世代も同じではありません。飛び級進学がいたり、史実親子のジャングルポケットとトーセンジョーダンが同じクラスだったりもしますので深く考えなくていいです。
・画面中に山ほど出てくるウマ娘たちも大体ご存じの名馬です。オリジナルキャラも数名いますが、サラブレッドに逆輸入されてたりもします(ビターグラッセ等)。ウマ娘化されていない子たちは別の名を与えられています(作中名ペリースチーム=クロフネ、ウマレナガラノ=ボーンキング等)。
・基本的にはレース展開や結果は史実通りです(別作品で数例例外あり)。実況もフジや関テレ等メジャーどころのものを概ね再現しています。題名の「新時代の扉」も言うまでもなくこれですね。史実をしっかりリスペクトした上でいい感じのIfがあったり、人間であることによる関係性の構築などが魅力となっている訳です。
・レース名やスケジュールは基本史実に合わせていますが、本作品ではG3のラジオたんぱ杯3歳SをG1ホープフルSとしています。実際現行ホープフルSの前身ではありますし、馬齢が違うとかラジオたんぱもラジオNIKKEIになってたりとか当時のホープフルSが中山のOPだったりとかの事情があってそのままだと訳が分からないでしょうし、ここら辺は妥当な改変かなと思います。
・ウマ娘たちはG1で独自の勝負服を、G2以下では体操服を着用しています。前述のグレード改変は演出込みで勝負服にしたかった部分もあるかと。
・終盤急に出てくるライブに!?となるかと思いますが、実は描写がないだけでどのレースでも勝者をセンターにした「ウイニングライブ」が都度行われている世界です。そういうもんだと思って下さい。
・エンドロール時に流れる珍妙な曲?…これは長いこと見ていても良く分からないのですが、あらゆるウマ娘コンテンツの最後に流れる格式高い曲なのでそういうもんだと思って下さい。
 大体こんな感じでしょうか。是非、一度先入観抜きで見てみて下さいね。

既にウマ娘ファンの方へのおすすめ

 この欄要りますかね…。一番見に行くべき対象は、もちろん既にファンの方です。これまでに幾つもの作品を観たり、ゲームアプリで遊んだ方なら観るかどうかを迷う必要は一切ない映画ですので。現存するウマ娘やトレセン学園関係者(プレイヤー的な何かも含め)もは出ていないキャラの方が圧倒的に少ないくらいで、画面中の至る所に見るべきものがありますので、複数回見ることが前提になっているような作りです。RTTTの再編集版も素晴らしかったですが、こちらは最初から映画館のスクリーンと音響で見ることを想定して作られた作品ですから、是非配信待ちなどと言わず映画館に足を運んで体験しましょう!少なくとも、アグネスタキオンやフジキセキがお好きな方は何をおいてもまず観に行ってほしいと思う次第です。虹結晶目当てに前売り券買ったものの腐らせるなんていうのは、あり得ない損失ですよ!あと、史実は知っていても知らなくてもいいと思います。知っていれば知っていたなりの面白さがありますし(どう描かれるのかとか)、知らないなら知らないでワクワクできるでしょうし、後から調べる楽しさもあると思いますので。その人の立場でしかできない楽しみ方が、きっとあると思います。


感想本文 ※ここから文体変えます

 映画新時代の扉は主人公ジャングルポケット(以下ポッケ表記)が真の「最強」を目指す物語であり、同時に4戦4勝の無敗でターフを去った天才たち(フジキセキ・アグネスタキオン)の再生の物語でもある。素晴らしい表現力をもって史実をしっかりと描写しつつ、あってほしかったIfを巧みに描いた、実にウマ娘らしいとても良い作品だったというのが個人的な感想。

 たまたま見たフジキセキの走りに憧れて自身もトゥインクルシリーズで走りたいという初期衝動、圧倒的な強さを持ったライバルに二度敗れてからの精神的な挫折、そこから立ち直り自身の原点を思い出して挑み掴んだ栄光。この映画は間違いなくポッケが主軸であり、主人公の物語であった。
 自身の力に自信を持っていたものの、あまりにも強大で結果的に勝ち逃げしてしまうことになるアグネスタキオン(以下タキオン表記)の強さの幻影に苦しむという展開自体は想像通りだったが、その描き方が実に丁寧で素晴らしい。実馬ジャングルポケットのダービー勝利後の咆哮は有名だが、幻影を打ち消したいが為の不安の叫びと表現したのが見事(実馬の方も他馬が引き上げていく中で取り残された故の狼狽とも言われる)。合宿中も徐々に食事量が減っていったり、走らなくなったりと精神的にかなりやられている描写が極めて自然に織り込まれているのも実に丁寧。そうして自身の心の闇に囚われるポッケが、憧れの存在だったフジキセキと共に走ることで原点を思い出す展開は王道だが、それがとても美しく心を打つ。ラストのジャパンカップに流れる劇伴「BEGINNING OF A NEW ERA」が冒頭の弥生賞で流れた「Twinkle Miracle」と同じモチーフを使った曲なのもこの辺りを意識しているものと思われるが、その後に流れる楽曲「Beyond the Finale」との繋ぎ含めて映像・音楽含め全ての演出が一体になっている感が本当に素晴らしい。自らの闇を握り潰し、世紀末覇王との勝負を制した後に発せられたポッケの叫びは、今度こそ紛れもなく「勝利の雄叫び」であった(特にここは主演藤本さんの演技力も素晴らしかったことを書いておきたい)。

 次にフジキセキとタキオンについて語っていきたい。実馬はいずれもサンデーサイレンス産駒の中でも傑作と名高く、奇しくも4戦4勝と無敗で怪我の為にターフを早々に去っている。冒頭にも書いたが、見ていた者としては無事ならダービーまでは堅そうかなというのが当時の感想。種牡馬として大成功しているのだから良いのは確かだが、やはりターフでその走りを見たかった気持ちはないかと言えば噓になるのも事実。本作品ではスタンスこそ違えど、この2人がポッケの走りを通じてレースへの復帰をするというウマ娘らしいIfを見せてくれる形となる(ただし具体的にレースは描写せず、ご想像にお任せしますというこのスタイルが個人的にはとても望ましい)。ここをしっかりと描くことが本作品のもう一つの大きなテーマなのかなと感じた。

 まずフジキセキはその出番及び台詞の多さで相当驚いたし、素晴らしい存在感で映画の魅力を引き上げてくれた。その瞳や若干憂いを帯びた感を受ける表情が常に丁寧に描かれており、常に影や柳の下にいるような描写も印象に残る(ご丁寧に浴衣の柄も柳)。柳には舞台の幕だったり小野道風の有名な逸話だったり、中国における意味合い等の意図なども含まれているかもしれないが、もう表舞台にはいない者としての描かれ方になっている。冒頭の弥生賞の美しい走りは、その先を知っている者ならばこれが最後のレースになることも分かっており、それ故に悲しさを覚える場面でもある。そんな彼女が自らを慕って飛び込んできたポッケの走り及び自身が叶えられなかったダービー制覇を通じて過去の辛い想いを振り払い、挫折からポッケを立ち直らせる為に柳の下から陽の当たる場所へと返り咲き、諦めることなく再起を目指すその姿はとても魅力的に映った。

 タキオンについては他媒体同様に「ウマ娘の極限の可能性を追求する」ことに執着する人物だが、最も近いのはマンハッタンカフェ(以下カフェと表記)の育成シナリオにおける立場だろうか。自身の脚で走り切り可能席の先に到達したいというプランA、他者の走りにそれを委ねるプランBを用意して臨む姿勢は造形的に近い。カフェのアドバイザーとして可能性を追求した先に結局は自身の脚でとなるそちらよりも更に没交渉で良く言えば孤高、悪く言えば孤独である。自身が理論上最速の走りをすれば脚がもたないと知りつつ、それでもなおその残光を見せつけてターフを去ることになるが、この辺りは名馬の肖像からの造形なのかなと感じる。無期限休止宣言をした後も菊花賞のレース映像を繰り返し見つつ脚を動かしたり、外で練習するウマ娘たちの声を疎ましく感じたりと、心の底では走りたい衝動から逃げられないという部分も細かく描写されていく。唯一自分に対して真っすぐに立ち向かってきたポッケからの併走への誘いに対してらしくない乾いた言葉を返し、ジャパンカップでのその走りを見て矢も楯もたまらず駆けだし、「誰かではなく、自分の脚で証明しなくては意味がない」という結論に辿り着くが、ここに至る描写がとても巧みで素晴らしかった。この惜しまれつつも早々にターフを去ってしまった天才たちの再起・再生も本作品の肝であると思う。


名馬の肖像、映画で描かれたタキオンを想起するのは自然なことと思われる

 作中数多く描かれた、レースシーンについても触れておきたい。見せ方が良くないと単調な流れになってしまう所を、各レースごとに見せ方を変えたり表現を変えることでしっかり魅力的に見せることに成功している。例えば冒頭の弥生賞は走者の心情やモノローグを排し、観戦側の反応も比較的少なく抑えるというウマ娘作品の中ではかなり珍しい見せ方をしている。その上で静と動の切り替えがあり、フジキセキの固有スキル「煌星のヴォードヴィル」を思わせる演出を入れるなど、「見ている者の心を奪う、心に焼き付くレース」に仕上げているのが実に見事だと思う。他にも年間無敗の絶対王者テイエムオペラオーの凄みを余すことなく表現した有馬記念、音速を超えるかのようなタキオンの走りをこれでもかと見せる皐月賞、ポッケと同期ダンツフレーム(以下ダンツ表記)の全力のぶつかり合いを見せる日本ダービー、カフェの心象風景を具現化させたような菊花賞(タキオンが動画で見ているのが実際のレース時の映像)、そこまでの全てを集約させた大迫力と感動のジャパンカップと大舞台の描写が本当に素晴らしかった。ジョッキーカメラの視点を意識したような描写だったり、ハロン棒を定点としてカメラの映像を動かしたりなど工夫に満ちていて、視覚的な楽しさも文句なし。実況の本泉さんのメリハリの効いた語りや叫びも盛り上げの重要な要素だった。

 劇伴についても改めて少し。本作品のBGMはほぼ横山克氏によるもので、様々なジャンルを取り入れているにもかかわらず統一感を感じるのが凄い。どれも一点ものの曲であり、サントラを聴いているだけで映画の内容が綺麗に思い出されるくらいには作品との一体感があって、間違いなく映画のクオリティを上げている要素であると感じる次第。ダービー後の所で一か所だけアニメシリーズの曲「寂しくなんかなかった」が使われた所にちょっと違和感があったのが唯一の減点要素かも。楽曲回りも素晴らしいが、長くなってしまうのでその辺りはまたライブがあった時にでも語りたい所だが、いずれも歌詞や譜割りまでしっかりと考えられた素晴らしい曲揃いだよとだけ。

 長々と書いてきたが、「四の五の言わずに劇場で見なさい!」という感じの素晴らしい作品なので改めておすすめしておきたい。何かに打ち込んだことがあったり、諦めてしまったことがある人やそれでも諦めたくない人、頑張り続ける人には確実に刺さるものがある作品だと思うので是非。作中に出てくるプリズム(サンキャッチャー)は、置き忘れたり落として傷ついてしまったとしても、光を受けることでまた強く輝きだすという心や夢の象徴、いわば「夢の煌き」なのだろうと勝手に解釈しているが、そうしたものがきっと見る人全ての心にあるはず。そんなことに気付かされる作品だと思う。

登場人物たちについて※作中後の史実ネタバレあり注意

 登場人物たちについてちょっと思う所を書いたり、史実・実馬周りを書いたり。もしかしたらいつか描かれるかもしれない作中後の話も書くので、見たくない方は飛ばして下さい。※メイショウドトウやアドマイヤベガ辺りを省いているのはごめんなさい

ジャングルポケット

 前述した通り本作品の主人公であり、物語の軸となっているヤンチャ系ウマ娘。難しい役柄だったと思うが、新人である藤本侑里さんが、劇中のポッケの成長に合わせて成長していくような感じを覚えた。史実ではジャパンカップの勝利で2001年の年度代表馬に選出、翌年は海外遠征なども検討されたが勝ちきれないレースが続き(改装の為に東京コースのG1レースがなかったのも不運だったが)、有馬記念後に故障等もあり若くして引退。種牡馬として複数のG1馬(この辺りは後述)を輩出するなど活躍した。種牡馬引退後の2021年に逝去、23歳とこの世代では比較的長生きな部類。

アグネスタキオン

 本作のもう一人の主人公的立ち位置にあるマッドサイエンティストウマ娘。劇中最後のジャパンカップまでは全く瞬きをせず目を見開きっぱなしにしているなど、やや人外感がある描写で描かれる。「その先の可能性」に辿り着くのが誰であってもいいという態度を取っているが、ポッケの走りを見て「自分の脚でなければ意味がない」という結論に到達し、レースを見ずに走り出す。リアリストではあるが(むしろそれ故に)ロマンティストでもある人物。史実上では劇中で描写された皐月賞後に屈腱炎で引退、種牡馬入りしている。産駒ではダイワスカーレット(桜花賞・有馬記念等G1を4勝)やディープスカイ(ダービー・NHKマイルC)等、優秀な産駒を多数輩出し内国産馬では難しかったリーディングサイアーにも輝いている。しかしながら、急性心不全で11歳という若さで逝去。

マンハッタンカフェ

 自身にだけ見える「お友だち」を追いかけるミステリアスなウマ娘。ポッケが主人公として描かれる本作では想像以上に出番が少なく、やや割りを食ってしまった感あり。設定が色々と複雑であること、活躍がこれ以降であることを考慮すると致し方ないとは思う(ゲーム版の育成シナリオは本作の下敷きになってはいるので可能ならばそちらを見て頂きたく)。史実ではこの直後の有馬記念を制し、翌年には天皇賞春も制して現役最強の座につく。その後は宝塚記念を回避して凱旋門賞に挑戦するが、13着と敗れる。その際屈腱炎を発症したこともあり、引退して種牡馬入りとなった。産駒はヒルノダムールのように天皇賞春を制したステイヤーもいるが、グレープブランデー(フェブラリーS等)やジョーカプチーノ(NHKマイルC)等あまり似ていない適正を持った優秀な子も多く、外見だけでなくその継承力も父サンデーサイレンスに似ている部分があったと言って良いかと思われる。17歳で逝去。

ダンツフレーム

 本作のプリティー要素を一手に引き受けているダンツ。主要人物が皆何かしらの幻影を追いかける中、目の前のライバルたちを見据えて懸命に努力する愛すべきウマ娘。彼女が「真ん中に立ちたい」と言うのは、勝者がライブのセンターに立つという意味も勿論あるだろうが、これも名馬の肖像からの引用であると思われる(下図参照)。そこにある文章を読めば、CVが舞台Sprinter's Storyでアンサンブルを務めていた福嶋さんである意義も納得できるというもの。史実では翌年の宝塚記念を制覇し、強いライバルたちと戦ってきた実力を示して見せた。引退後は種牡馬入りが予定されていたが撤回、地方競馬で再起を図っていたが振るわず再度の引退。その後乗馬となったが、重度の肺炎を患い7歳という若さで逝去。

「舞台」を強調したダンツフレームの名馬の肖像がこちら
フジキセキ

 ポッケの良き先輩であるフジキセキは、前述通り既に表舞台からは退いている立ち位置。やや憂いを帯びた表情が多いが、現役復帰を決意後は本来の自信に満ち溢れた表情に変わるのがとても良い。ペットボトルを渡す側から受け取る側に変わったり、トレーナーのナベさんのサングラスが現役時代の物に変わったりとここのドラマもまた美しい。ナベさんのモデルは渡辺栄調教師、回想に出てくる師匠はコダマやシンザンを育てた武田文吾調教師と思われる。史実では冒頭弥生賞を最後に屈腱炎で引退、種牡馬入り。カネヒキリやキンシャサノキセキ、イスラボニータ等G1馬を多数輩出してその潜在能力が確かであることを示した。

テイエムオペラオー

 作中でも描かれるように前作RTTTの翌年を重賞8連勝(G1が5勝・G2が3勝の内訳)と完璧な戦績で制圧した「世紀末覇王」。有馬記念勝利は劇中の通り。翌年連勝は止まりメイショウドトウ(宝塚記念)や天皇賞秋(アグネスデジタル)に敗れてはいるが、立ちはだかる最強ウマ娘という立ち位置は妥当。「自身が輝く為には周りも全て輝いていなくてはダメで、輝きの中で競い合って互いを高め合うことがより自身を強くする」というスタンスは、アプローチこそ違えどタキオンの考えと行き着く場所が同じなのが面白い。史実ではこの後の有馬記念でカフェに敗れ(5着)、名勝負を繰り広げたドトウと共に引退。種牡馬としては残念ながら上手くいったとは言えず、自身のような強い後継を出すことは叶わなかった。

ナリタトップロード

 前作RTTTの主人公であるトプロも沖田トレーナーと共に登場、辛くともひたむきに頑張る人気者である。史実では菊花賞勝利後の翌年に当たる前年はオペラオーに負け続け未勝利、描写があるその翌年は阪神大賞典を勝利し常に3着内に入る善戦で作中ラストのジャパンカップも3着となっている。現役最終年はG2を3勝、天皇賞秋を2着するなど安定しており引退レースとなった有馬記念の人気投票でも1位となっている(4番人気4着)。予定していた香港ヴァーズ出走を取りやめ、その支持に応え向いてはいない条件の有馬記念に出る辺りも皆に愛された馬らしい選択だった。RTTTで皆の期待を裏切ってしまうことを恐れたトプロに沖田トレーナーが言った「応援するさ!お前さんがナリタトップロードだから。戦い続けるから、応援したくなるんだ」という台詞は、ここに掛かっているのだと個人的には思う。引退後種牡馬入り、ベッラレイア等重賞勝ち馬を出すも、9歳の若さで心不全で逝去。

ポッケの友人3人組のシマ(左)メイ(中央)ルー(右)

 作中でポッケを慕う可愛らしい3人娘は、全てジャングルポケット産駒が元ネタ。シマはジャングルポケット斉藤氏の持ち馬の地方馬オマタセシマシタ、毎回トレーニングでボロボロになっている辺りが可愛らしい。CVが「推しの子」ルビーの伊駒さんなのは何かしら意味を込めているのかな?メイは名前だけ見るとジャガーメイル(天皇賞春)かと考える所だが、長身の花飾り牝馬ということでトールポピー(オークス・阪神JF)と考えるのが自然か。ルーはオウケンブルースリ(菊花賞)で間違いなさそう。いずれにせよ実名での登場ではないので、また別の機会の登場もあるのかもしれない。

最後に

 まずはここまでこの長い文章をお読み頂いた方に、そしてこの素晴らしい作品に携わった制作陣の皆様に、心よりの感謝を申し上げます。こういう素晴らしい映画を見てしまうと、どうしてもその次を期待してしまいますね。地続きになる02年世代も面白そうですが、個人的にはカツラギエースを主人公にした作品が見たいですね!同期のミスターシービーが蹂躙するクラシック戦線、その後一つ下から皇帝シンボリルドルフが出てくるという状況も含め、きっと最高に燃える物語になると思いますので。長年見ていることもあって、リアルタイムで見ていない世代の物語がどう映像化されるのか凄く興味があるんですよね…。またいつか、こうした感想を書ける日が来ることを楽しみにしています。

 追記:ウマ娘触れてこなかったけど面白かったなーと思ってくれた方、アプリ版もまた違った楽しみがあって楽しいですよ。ハイレベルな対人戦で勝ちたいみたいな感じの取り組み方でないなら、素晴らしいストーリー等を堪能できると思います。各キャラごとに育成シナリオがあり、基本的には史実をベースにしつつIfの世界を楽しむこともできます。例えば本作の主人公ジャングルポケットのシナリオは映画とはまた別機軸の方向で、次々に有力なウマ娘たちが強く輝きを放っては消えていく01年世代という視点で描かれています。ご興味があれば、是非。

冒頭から映画のBGM「Twinkle Miracle」が流れるのは反則ですね

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