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南遊帖を読みとく

記:いけだ
※資料の画像は、悪用を防ぐ目的で薄いゆきんこを被せています。ご了承ください。

先日、「南遊帖」というものを入手しました。

南遊帖 碧題


画帖に河東碧梧桐の俳句が自筆で書かれ、合わせて高井周耕という和歌山県の画家さんにより絵が描かれたもので、昭和5年6月に制作されたものとのこと……

というのがこの作品の概要ですが、なんと私、この作品に会うのは2度目!

昨年2023年の冬に、神戸は灘区のMORISというギャラリーで「河東碧梧桐展」が開催され、この作品が展示の目玉だったのです。
https://moris4.com/exhibition/archives/kawahigashi-hekigotou-2023/

まさかの再会で嬉しいこと限りなしです。

さて1ページ目を開いてみますと……

いちめんの碧梧桐の揮毫

た、たのしい〜!1ページまるごと碧梧桐の字です。
こちらを読んでみます。

昭和五年六月
南紀風光探勝乃
旅に上る 高井周耕氏
同伴
本巻山水画氏乃
筆に成る 海に非ず川
に似ず 筆致円熟
乃如く又た稚態を
帯ぶ 旧作◯こと録す
依而巻歌辞となす
於天佑丸舩中 碧

要は、「昭和5年6月、高井周耕さんと一緒に南紀(和歌山県の南の方)を旅したよ!この本の山水画は周耕さんが描き、俳句は自分(碧梧桐)が書いて、俳句は旧作だよ!天佑丸でこれを書いたよ!」というようなことを書いています。

次のページからは、その通りに周耕さんの絵と碧梧桐の俳句がかかれています。

釣舟坐をしめる早瀬汐さき流れてよき 碧
勝浦◯島

勝浦……今ではマグロで名高い那智勝浦の景色ですね。何島なんだろうか(読めない)。


このように周耕さんの絵と碧梧桐の俳句がならんで、一番最後のページがこちら。

周耕さんによる跋文です。
長文だ……この綺麗に揃った綺麗な字を船の中で書いたのか?
とにかく、これを読み解けばこの画帖の詳細がわかりそうです。
読んでみよう!

「南遊帖」の跋文を読む

折角だから皆でワイワイ相談しながら解読したい!ということで、Xのフォロワーさんと通話しながら読んでみます。

読めない漢字が多々ありつつ、読み下しはこのようになりました。

余志紀南探勝有歳矣今茲六月俳家碧梧桐先生
自東都来遊一日訪(吾)寿□□□以探勝之計且慫慂
余之同行即□焉碧先生有斯道之会先向□田邊余逢
二日六日追行會□同地夜十一時自文里港頭乗船海上
波静船駛速一行与船員□酒歓談余獨為□□人翌
黎明船着テ勝浦港憩赤島旅館登狼煙山偲旧史更
到那瀑激賞其雄大新宮泊翌暁遡舟□九里峡探
瀞之神峡驚(歎)愕天與之景勝此夜新宮再泊翌□
□汽船向(着)串本港俳友等迎先生艤舟遡古坐峡両
岸奇景次瀞峡鮎魚溌溂使一行鼓腹此夜於
串本有坐談会余加之翌早起到無量寺賞天下之
名画巡覧潮之岬燈台□汽船着帰途船中余
探脳底之印象画(□)帖先生録旧作為之賛是
此帖也記行別有文今記□□以為跋之□

昭和五年 初夏 高井周耕

ちょっとずつ見ていきます。
雰囲気で訳していきます。(明らかにおかしいのあったら教えてください!)


余志紀南探勝有歳矣今茲六月俳家碧梧桐先生
自東都来遊

私は紀南の探勝を志していたところ、今年6月に俳人の碧梧桐先生が東京からいらっしゃった。

一日訪(吾)寿□□□以探勝之計且慫慂余之同行即□焉碧先生有斯道之会先向□田邊余逢
二日六日追行會□

(この辺よくわからず、わかる方アドバイス求む)
先生は6月1日に訪れたので、探勝の計画を話し且つ私は同行したいと頼む。碧先生は斯道の会があり先に行っていたので、田邊で会い、私は6月2日〜6日に先生の後についていった。

同地夜十一時自文里港頭乗船海上波静船駛速一行与船員□酒歓談余獨為□□人
同地(田邊)には夜11時に到着。文里港から船に乗った。海の波は静かで船は速く進む。船員も巻き込んで宴会だったが私は一人でいた。

翌黎明船着テ勝浦港憩赤島旅館登狼煙山偲旧史更到那瀑激賞其雄大□
明け方、船は勝浦港に着いた。赤島旅館で休憩したあと狼煙山に登り、古い歴史に思いを馳せる。更に那智の滝に行き、その雄大さに感激した。

新宮泊翌暁遡舟□九里峡探瀞之神峡驚(歎)愕天與之景勝
新宮に泊まり、翌朝は九里峡を探しに舟で川を遡る。瀞之神峡の景勝は我々を驚かせた。

此夜新宮再泊翌□□汽船向(着)串本港俳友等迎先生艤舟遡古坐峡両岸奇景次瀞峡鮎魚溌溂使一行鼓腹此夜於串本有坐談会余加之
この夜は再び新宮に泊まり、翌朝乗った汽船は串本港に到着。俳友たちが先生を迎え、舟は古座峡を遡る。両岸の奇景は瀞峡の次に良い。鮎は溌溂としていて一行のお腹を満たした。この夜は串本で座談会があり、私も参加した。

翌早起到無量寺賞天下之名画巡覧潮之岬燈台□
翌朝は早起きして無量寺へ、天下の名画を巡覧した。潮岬灯台にも行った。

汽船着帰途船中余探脳底之印象画(□)帖先生録旧作為之賛是此帖也記行別有文今記□□以為跋之□
船で帰る途中、私はこの旅の印象を思い出して画帖に描き、先生は旧作を書いた。これがこの画帖。紀行文は別にあるが、今はここで跋文として記した。



………こんな感じでしょうか。
ここまで見ていくとわかるのが、この旅程は碧梧桐の紀行文「紀州路」と被っています。
これは紀州路の旅の話だったんだ!ついでに紀州路が昭和5年6月1〜6日あたりだということもわかってしまった。
そして紀州路にも「高井周耕氏」が一度登場します。いたんだ………

船の中で宴会してたり、鮎をたらふく食べたり、紀州路に書いてないこともあってニコニコ。

また、この旅では碧梧桐は和歌山県の北の方から巡っているのですが、周耕さんは途中の田邊から合流していることがわかります。
帰りは恐らく串本から船で、これが天佑丸。一体どこへ向かったのか……。
この船で、この画帖が書かれました。記念に合作しようぜ〜というノリで書かれたのでしょうか。
つまり、これ、世界に一冊しかないやつだな?

大事にします……
またどこか展示する機会があればお披露目します!


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