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碧梧桐探訪記 秋田 見られない句碑を見に行く編

記:いけだ

碧梧桐の句碑を探訪することから始まった碧梧桐探訪舎。

大体の句碑のもとに訪れて所在を確かめて来ました。

句碑チラシの裏。大体を探索しました。

全部ではなく、大体……。
そう、まだ行ったことのない土地があったのです。

秋田県!!


句碑の建つ「対川荘」

ずっと行けていなかった、秋田県の句碑。
単に遠いから……という理由だけでなく、重大な理由がありました。

☆行っても見られない————!


秋田県の句碑は、「秋田県雄勝郡羽後町西馬音内」という土地にあります。あきたけんおがちぐんうごまちにしもない。

西馬音内といえば、盆踊りで有名な町ですが、明治時代、ここには柴田政太郎という素封家がいました。

彼は大変多趣味で、「果」という号をもち、篆刻をやったり、昭和になると刀剣をつくったりしています。趣味で刀匠やってる………?(?)「柴田果」で検索すると、刀のページがずらりと並んでいます。
多趣味な彼は勿論俳句もやっていて、俳号は「紫陽花」でした。この名前で、三千里の秋田編にはたくさん登場しています。

西馬音内に、対川荘(たいせんそう)という建物があります。現在登録有形文化財で、かつてこの紫陽花さんの、柴田家の別荘でした。
碧梧桐は対川荘に招かれ、1週間と少しほど過ごしました。
対川荘の景色を、碧梧桐はこのように書いています。

八月十二日。半晴。
予の宿泊する家は、この地の素封家柴田氏の別墅である。特に風景に富むというのではないが、四方田の中にあるので自ら市塵と相隔っておる。家の側に、小菊を寄植にしたのが花壇の中にあって今花を咲きそめておる。 その花が白の一色なので目もさめるようである。毎朝この花の側近くの井戸に帰って冷水磨拭をやる。下りた靄の薄らいだ辺から、日の光が漏れる頃じゃ。

 小 集
鬼灯や桑の下草まだ青き 千紫
鬼灯を口にして怨辞甚し 沙弥
鬼灯を摘みとりて蕎麦白き方に出づ 碧梧桐
夜、柳渓来る。(羽後雄勝郡西馬音内にて)

河東碧梧桐著『三千里(下)』
講談社学術文庫 1989.8初版

三千里には残っていませんが、碧梧桐はこの景色を「一色に菊白しきるまじと思ふ」と詠み、揮毫を紫陽花さんにあげたのでしょう。

碧梧桐句碑は、この俳句、この時の字で、対川荘の敷地内に建っています。
建って……いるはずです。

この建物は、現在私有地。
公開されておらず、敷地内に入れません。

どうにかして句碑を見たい! 

句碑がそこにあるはずなのに、見られない。
碧梧桐句碑をほぼ見て来ましたが、あるのに見られないのはここだけで、なんとも歯痒い。(資料に記載があるがおそらく無くなっているのはある)

なんとか……どうにか………!見たい……見せてくれ〜〜存在を確認させてくれー!!

問い合わせです。

とりあえず役所のほうに……。と電話。
羽後町歴史民俗資料館に繋げてくださるも「私有地で立ち入りができません」とのこと。やはり……。
句碑の画像をお持ちだということで、手続きを経てお借りしました。
句碑サイトに掲載している画像が、お借りした画像です。

別件で、秋田県の文化人にお詳しい方とやりとりする機会を得、お伺いしてみたところ、なんとその方が教育委員会にも問い合わせてくださったのですが、やはりNOとのこと。いやはや大変お手数おかけしました。

だめか…………ならば最終奥義!
持ち主に聞く!!


お問い合わせしているうちに、そして検索しまくっているうちに、現在の持ち主が判明していたのでした。
以前歴史資料館に問い合わせたときは、持ち主は海外にいて連絡が取れないとのことだったのですが、ネットで検索していると、恐らく日本に戻っていらっしゃるみたい?
会社のメールアドレスが載っていたので、思い切って、お尋ねのメールを送信!!



お返事……ありませんでした!


地元でやれるだけのことはやりました、あとは「見られないことを確認」しに行くのみです。

見えないものを見ようとして

秋田県までやって参りました。深夜バスで仙台に早朝着、レンタカーで山形を通ってさくらんぼを食べつつ、秋田着。


対川荘は住宅地に囲まれています。不審者になりかねないので、静かに探索です。

Googleマップのストリートビューでよく見た道だ!と変わった感動を味わい、ひとまず敷地の外を散策……と、ここで現地に行かないとわからなかった発見が。
対川荘はその名の通り、川(西馬音内川)に対しています。その敷地と川の間の河川敷が、遊歩道になっていました!
この遊歩道はGoogleストリートビューに登録されていない道。
知らない道だ!と進んでいくと……

あ!
対川荘!!

遊歩道から見えるあの赤い屋根は対川荘です。ここに碧梧桐が泊まったんだなあ。

そして問題の句碑は………緑の生命力が凄くて見つかりませんでした!!
歴史資料館でお借りした画像も真正面から近くで撮ったもののみで、写真から探す手法「背景に映るものを特定して探す」もうまくできません。句碑の側に松が植っているのですが、松らしき木も見当たらず。

ぐるりと敷地の外側をまわります。

住宅街側、立ち入り禁止の柵
あらゆる立ち入り禁止

「本当に立ち入り禁止で、中に入ることができない」を確認できたため、今回の現地調査はこれで終了。
雨も降って来たので退散です。

図書館調査

さてこの句碑は、どういう由来でいつ建てられたのでしょうか。
それについては文献頼りです。秋田県立図書館で確認です。

書庫の本も取り寄せて、唯一見つかったのが古い新聞(昭和52年〜)の切り抜き。「秋田いしぶみ散歩」と題した、秋田県内の歌碑句碑の特集をまとめたもののようです。

記事を読むと……三千里で碧梧桐が秋田県内に長期滞在したこと、碧梧桐はどういう人かの説明があった後。

「西馬音内に句碑が柴田果(紫陽花)ら有志の手により建ったのが明治四十年八月だから、碧梧桐はまだ県内滞留中のはず。その碑面には「一色に菊白しきるまじと思ふ」の句が、六朝の書を得意とした俳人にふさわしい独特の書体で刻まれている。
(略)
場所は、築山、池、芝生などが美しい川原田公園一隅で、対川荘の右手。佐藤信淵文庫に続く小道の傍ら、赤松の幹の側に立っている。高さ一・一〇㍍、幅四五㌢の関口石の碑本体はむしろ小ぢんまりした感じだが、周囲の静かな環境にマッチして風格のある風情を備えている。」

秋田魁新聞 夕刊 
昭和52.11.13

この記事からわかるのは、以下の通り。

  • 明治40年8月に建った

  • 川原田公園の隅、対川荘の右手。佐藤信淵文庫に続く小道の傍ら、赤松の幹の側にある

明治40年8月!?
もし本当にこの年月で建ったのだとしたら、あらゆる碧梧桐句碑の中で一番早く建った、つまり一番古い句碑いうことになります。貴重すぎるよ〜〜なんで見れないんだ………。

そして場所。新ワード「川原田公園」が出てきました。
もともとこの地域の字名は「川原田」らしく、現在も対川荘近くに「川原田館」という旅館があったりします。
「川原田公園」は、対川荘も含んだ、先程から「敷地」と表現しました庭園のことを指すようです。現在では検索してもヒットしません。
かつては桜の花が有名だったみたいです。

今回は調べられませんでしたが、昔の西馬音内マップとかで川原田公園の詳細が載っているかもしれません。ここに対川荘、佐藤信淵文庫、桜の木、河東碧梧桐句碑……。

謎の残る句碑建立時期

対川荘まわり散策の前に、実は羽後町歴史民俗資料館に立ち寄っていました。
そう、句碑の写真をお貸しいただいたところです。

そのことをすっかり失念して来館したところ、展示のガラスケースの中に碧梧桐揮毫の軸がかかっていてデカい声が出てしまったのですが、(3,4回に分けて数ヶ月に一度展示替えをしているコレクション展で、偶々碧梧桐軸が出ているタイミングだったのでした)撮影許可を得るために手続きを行います。

私✏️(名前や住所を書く……)
職員さん「あれ、以前お問い合わせくださった方ですか」
私「?? お問い合わせは色んなとこにしてますが……(??)」
職員さん「あの、対川荘の句碑の」
私「あっ!!!!!」

恥ずかしながらそこで気付きました、私ここに問い合わせしてたのか!!

すると職員さんは、奥からすてきなものを持って来てくださいました。

拓本句碑パネル 順番待ちのすがた

拓本パネルだ!!!拓本をパネルにするというアイデア……なるほどね……(何かに気付いた顔)

腰の位置くらいの高さ(筆者は身長165cmくらい)

句碑(本物)と記念写真撮りたかった……と悔しく思いつつ、この拓本で、今までの写真では見えにくかった部分がよく見えることに気付きました。

丁未六月建之

建立時期です。
丁未、十干十二支のやつだ。Wikipediaでそれらしい年を検索すると……

明治40年。

あれ?句碑には6月と書いていますが、碧梧桐が西馬音内に来たのは明治40年8月です。
資料の新聞の記載も明治40年8月でしたし、どういうことだ。

図書館での資料探しの時に、当時のローカル新聞「秋田魁新聞」も確認しましたが、資料にあった「明治40年8月」に特に記載はありませんでした。(碧梧桐が秋田入りした時などは小さい記事になってたので、句碑が建ったら記事になりそうという想定での確認でした)

別の資料では「明治48年」とか書いてあるし……それはさすがにめちゃくちゃだよ……(明治は45年7月30日まで)

一体何が正しいのか、この句碑はいつ建ったのか。句碑の裏に由来が書いてあったりするのか。

———句碑をいつか見ることができる日が来るのか!

(一旦 完)

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