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2つの名勝句集

記:いけだ

先日、芦屋の虚子記念文学館に行きました。


碧梧桐とその周辺ばかり調べてるので、虚子まわりのお弟子さんのことはあまり知らず、四S聞いたことあるけれども!の状態だったのが、誓子と秋桜子(こっちがホトトギス抜け出す方)グループと、素十と青畝グループ(こっちが保守派)でまた分かれていくのね〜などという理解を得られました。
近代俳句界隈もややこしいですが勉強していかねば……。

その青畝展の展示品の中で目についた本がありました。

高浜虚子 選『日本新名勝俳句』
出版:大阪毎日新聞社ほか

日本新名勝俳句……?
この名前に見覚えがありました。
でも知ってるのと違う、知ってるのを思い出してみると……

里見禾水編『新撰 日本名勝俳句集成』箱
本は布製の表紙で、背に碧梧桐の書(箔押し)

これ!!
この本、碧梧桐が表紙と序文を書いているのと、「名勝」ごとに俳句が掲載されている趣向が楽しくて、古本屋で探し出して購入していたのでした。

さすが、「名勝」ごとに俳句を集めるとは、日本一周した碧梧桐を表紙に据える本だけある〜と思っていました。
そして日本中の名勝に関する俳句を集めたと称する割に、なんだかやたら碧梧桐門下や周辺の俳人の俳句が多い気がしたり、六朝風の字の挿絵(挿字?)があったり、碧門色強めだな……とは思っていたのですが。

表紙を開いてすぐの見返し。いちめんの六朝体の圧。
弟子の碧童さんの字。


虚子記念館で『日本新名勝俳句』を見て、アッ!と思いました。

虚子編の『日本新名勝俳句』は昭和6年出版、
碧梧桐が表紙を書いた『新撰 日本名勝俳句集成』は昭和8年出版なのです。

勝手に思ったことですが、虚子側で作った名勝句集に対抗して作られたのが『新撰 日本名勝俳句集成』……?

碧梧桐側が虚子側を意識してたかはどうかはわかりませんので比較するのものでも無いかもしれませんが、同時代の似たようなテーマで作られた本として比べてみると中々面白いです。

編者

虚子側は、出版が大阪毎日新聞や東京日日新聞といった新聞社なので、企画は恐らくこの新聞社。公募された俳句を虚子が選句したので、編者は虚子ということになります。

碧梧桐側は、里見禾水さんという方が編者。この方、碧梧桐が続三千里のたびのときに山陰・鳥取で出会った俳人。碧梧桐は序文で「著者は予と二十年来の俳友である。」と書いています。

選句方法

虚子の方は、目次を見ると山岳、渓谷、……温泉とカテゴリに分けられています。カテゴリ内の名勝は権威のある専門家が選んだようで、その名勝ごとに俳句を公募、それを虚子が選句しています。当時の日本中のあらゆる俳人の俳句が掲載されています。

碧梧桐の方は、目次を見るとカテゴリは五畿七道で、俳句は「古今俳人錦繡の麗句を撰出」だそうです。編者である禾水さんによる選句なのではないかと思います。古今俳人の俳句、なので虚子の俳句もしっかり選ばれています。
名勝の数自体はこちらのが多そうです。

『新撰 日本名勝俳句集成』目次の一部

本編の構成

虚子側のほうは、始めに名勝名が挙げられてから、俳句・俳人の住む場所・俳号とズラリと並んでいます。俳句は10万3207句応募があった内、1万句くらいが掲載されており、一つの名勝にかなりの数の俳句が並んでいます。
つまり、少なくとも1万人はこの本を買ったのでは……新聞社、商売が上手……
新聞社主催の、日本全国のみなさんの全国で詠んだ俳句を一冊の本にまとめました!みたいな趣向だと感じました。

碧梧桐側は、名勝名のあとに名勝の説明があります。それから俳句・俳号と並びます。歳時記の名勝バージョンのイメージです。
歳時記っぽいので、名勝についての解説とかそこで詠まれた俳句参考にしたいな〜という時に開きたい感じです。

挿絵

虚子側は小川芋銭による墨で描かれた挿絵がたまに入ってます。

碧梧桐側は碧門やその周辺の俳人による俳句が挿絵?挿書?として書かれています。

この挿絵の挟まれるタイミング?が、なんとなく似通っている感じがして、禾水さん、意識したのか……?と勘繰っています。私が知らないだけで、こういう形態の本はこういう挿絵が挟まれるものなのかもしれませんが。


昭和の初め、似たような本が似たような時期に刊行されたのは偶然なのか意識されたものなのか……。はたまた、当時旅行ブームとかがあって流行りに乗った形なのかも?同じようにご当地作品が載った短歌集や詩集もあったりして?
全然調べずに好き勝手書いておりますが、先行研究どこかにあるかもしれませんね……。(い)

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