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目眩に慣れてゆく

良性発作性頭位めまい症という病気になった。

夕食前、リビングの床に寝転んで膝を曲げて左右に捻じるストレッチを始めた途端に天井がグワッと揺れて吐き気を催した。夜は便器にしがみ付いて何も出なくなるまで嘔吐を繰り返した。以前に何度か脱水症状にかかり立ちくらみと嘔吐を繰り返した事があったのでそれだと思って備蓄していたOS-1(経口補水液)を飲んだ。疲れ果てて布団に入るといつものように眠ることが出来た。
翌朝目覚めも普段通りでキッチンで朝食の準備に取り掛かった。トーストにハムとチーズをのせて家族分用意する。トースターに入れようとドアを開けたところで突然の目眩。やっぱりダメだとその場にへたり込んで、ずり這いでトイレに急いだ。そのまままた嘔吐。朝食の準備を妻に託し布団で昼まで寝ていた。寝転んでいると症状は落ち着いていて、そろそろ大丈夫かなと立ち上がったところでまた目眩。昼にもまた吐いてしまった。
これは脱水症状の時と様子が違うと感じ始め、妻が息子と娘を小学校・保育園に送り届けて帰ってきたところで病院に付き添ってもらうことにした。近くの内科がどこも休みだったのと、原因不明でどこで診てもらうべきなのか分からなかったので救急に行くことにした。歩ける状態ではなかったのでタクシーを呼んでもらい後部座席で寝転んで送ってもらった。病院に着いても座って居られないので妻に手続きを託しベンチで寝ていた。
診察室に通されてすぐにベットに寝かせてもらい血液・脳・目・耳の検査の後、点滴を打ってもらってしばらくするとベットで座る姿勢になる事が出来た。医師からは良性発作性頭位めまい症という病名を告げられ、三半規管に耳石(じせき)が混入してバランスをとる機能が低下しているという説明を受けた。治りを早くするために薬を処方してもらったが目眩にはしばらく慣れるしかないと言われまたタクシーに乗って帰宅した。
気分は最悪だったが常に目眩の感覚があるという状態が珍しいので机に向かって絵を描いてみた。もともとガイド無しでは構図が上手くとれないので三半規管の機能が低下しているのかどうか判断することは難しかった。何にしても体のバランスがとれないという時に耳を意識するというきっかけになる面白い経験になった。絵は脳と目と手だけで描いている訳では無さそうだ。三半規管のリンパ液に浮かぶ耳石の行方を気にしながら今日も絵を描いている。(田渕)

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