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「僕の改革 世界の改革」 第21夜(第3幕 11 ~ 17)

※推奨曲(「僕」が揺りイスに揺られながら繰り返し聞いていた曲のイメージ)


ー11ー

リンが心配して、部屋を訪れる。
僕は揺りイスに揺られて、音楽を聞いていた。でも、やる気なんて、これっぽちも起きやしなかった。
おそらく、このまま永遠にイスに揺られながら生きていくのだろう…
その時の僕は、そんな風にしか考えられなかった。

かろうじて、僕はリンにこう言った。
「今はね、無気力化していった人たちの気持ちがよくわかるんだ…」
「何を言ってるの!あなたは、これからじゃない!」
「終わったんだよ…何もかもが…」
「終わってなんていない!これから始まるのよ、何もかも!」
「ムリだよ…もう…」
そう言うと、リンは黙って部屋を出て行ってしまった…
それでいい。それでいいんだよ。誰も彼も何もかもが、僕から離れていってしまえば、それでいい。


ー12ー

僕は、部屋の中でいつまでも同じ曲を聞いた。
繰り返し繰り返し同じ曲を。
何度も何度も何度も何度も…

やがて、この曲すら必要なくなるだろう。
いずれ何もなくなって、僕はただ揺りイスに揺られて消えて行くだろう。いつか見たあの街の廃人たちのように。

それが僕の人生…
僕の人生の終わり…
それでいい…それで…


ー13ー

再びリンが部屋を訪れる。
何度来たって同じなのに…

僕は、相変わらず同じ曲を聞き続けていた。
そんな僕にリンは語りかける。
「いい?よく聞いて。これで最後になるかも知れないから」
僕は、何も答えない。
「人は誰でも同じような経験をするの。人には言えないようなつらい経験をね。そして、大抵は子供の頃の純粋な想いを失って、それでも生き続ける。それが生きる気力を失ってしまった人々…」
やはり、僕は何も答えない。
「でも、中にはね。そのつらい経験に耐えて、なお子供の頃の純粋さを持ち合わせたまま生きていける人たちがいるの。それが私であり、そしてあなたであるの」
それでも、僕は答えない。
「そして、あなたは、その中でもさらに特殊な存在。もっともっとずっと先へ行くことのできる人なのよ」
無視し続ける僕をよそに、構わずリンは語り続ける。
「だから、あなたにはどんなことをしても生き残ってもらわなければならないの。たとえ、どんな犠牲を払ったとしても、それでもね…」
結局、僕は黙ったままだった。
「言いたいことは、それだけ。ほんとうにどうもありがとう」
そう言って、リンは部屋を出て行った。


ー14ー

次にリンがやってきた時、シノザキ博士も一緒だった。
僕は虚ろな目で2人を眺め、ボ~ッとした意識の中で、2人の会話を聞いていた。

「プラスがマイナスになるコトはある。マイナスならば、エネルギーを与えて、プラスに変えればいい。じゃが、『虚数』では、どうしようもない。虚しさは、どんなにエネルギーを与えても、虚しさに違いはないのじゃ。唯一、方法があるとすれば、それは…」
「虚数に虚数をかければ、整数に戻るわ」
「やれやれ、ご存知じゃったか。しかし…今の彼に虚しさを与えるコトは並大抵ではない」
「わかっているわ。感情的にどう思っていようと、あの人は、心の底でどうしようもないくらいのショックを与えられた。それほど、あの人にとって『彼女』の存在は大きかったというコトなのでしょうね」
「『表層心理』と『深層心理』ですな。そこまでわかってらっしゃるなら、今の彼に虚しさを与える難しさも理解できるはず」
「そうね。だったら、同じくらい大切なモノを、もっと決定的な形で失わせてみたら?」
「同じくらい大切なものを…決定的に?」
「そうよ」
「まさか!」
「そう…博士が思っている通り」
「やれやれ…ワシはこの仕事を最後に引退させていただきましょう。それが、ワシにできるせめてもの罪滅ぼしですじゃ…」
「何を言っているの。あなたは人助けをしているのよ。それも、この世界を救う助けをね」
「いいや。もしも、ワシがまっとうな医者じゃったら、こんな方法は使わずに、人々を無気力から救う研究でもしとるじゃろうて…」
「今はこれが精一杯なんでしょ?だったら、仕方がないわ。さあ、やってちょうだい!」
リンは決心したような声でそう言った。


ー15ー

もう1度、リンが語りかけてくる。
断片的な意識の中、いくつかの声が聞こえた。
「無気力化してしまったあなたを取り戻す方法は1つしかないわ」
「あなたを記憶の底の世界に連れて行く」
「そして、私もついて行ってあげるわ」
半分眠っている僕に、リンはそう語りかけた。

そして、僕は夢を見た。
繰り返し流れる同じ曲をバックに、哀しく切なく…そして、懐かしい夢を。


ー16ー

どこかの遊園地…
人々は、影となり踊っている。
ここは、影絵の世界なのだろうか?

ひとつの影から、実体が飛び出してくる。
それは『彼女の姿』となる。
続けて実体化する影たち。
一瞬にして、世界は影絵から現実へと変わる。

周りには、大勢の子供達。
人々は、何人かずつグループになる。

同じグループになる僕と彼女。
グループごとに人々は散っていく。
いなくなる彼女。
気がつくと、僕はひとりぼっち…

現れる別の女性。
そして、次の夢…


ー17ー

おかしな夢を見た後、今度はハッキリとした夢を見た。
あるいは、それは夢ではなかったのかも知れない。
新しく現れた女性は、僕に語りかける。
「あなたは、私を知っているはずよ」
「君は?」と、僕は問う。
「さあ、思い出して」
「え~っと…」
「私は誰?私の名前を呼んで」
「リン…リンだろ」
「そうよ。私はリン」
「そうだ…思い出した」
「さあ、旅を続けましょう」
「旅?」
「そう、旅よ。あなたは、世界を変える力を持つ者」
「世界を…変える?」
「そうよ。そして、私がついていってあげられるのは、あと少しだけ。だから…」
その瞬間、パッと視界が開けた。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。