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みんな仲良く世界を平和に(ナチュラル・チャーム)

母子寮のボランティアは、相変わらずあの人と青年の実質2人で支えている状態が続いていました。

内山さんに加えて浜田君も加わりましたが、どちらも戦力としては役に立ちません。内山さんが午後6時くらいにやって来ますが、ただイスに座って眺めているだけだし。浜田君にいたっては来る時間も遅く、イスに座っているか机に伏せて寝ているだけだからです。

「この2人は、一体、何をしに来ているのだろう?」と青年は不思議に思いました。

これは、あくまで作者による推測に過ぎません。なので、実際に2人の気持ちを言い当てるコトは不可能です。そもそも人の気持ちなんてうつろいやすいし、記憶なんていい加減なモノなので、今となっては本人でさえ正確に覚えてはいないかもしれません。

それでも、作者が分析型特殊能力「ディケンズの分解メス」を使って判断したところによると…

内山さんと浜田君、2人とも青年と同じ心境だったのでは?

聖母のような彼女の姿を見に来ていたのでは?

ただ、青年は身を粉にしながらボランティアの任務をまっとうしていたのに対し、2人とも「ただそこにいた」だけだった。

例のあの人にはそのような能力がありました。男女問わず人(特に男性)を自然に魅了し、引き寄せてしまう。そうして、自分の思い通りに操る能力。本人さえも自覚していない潜在レベルで、自らの夢や目的の為に自然と手伝わせてしまう。

そういう能力です。

この特殊能力に名前をつけるならば「みんな仲良く世界を平和に(ナチュラル・チャーム)」

彼女の最終目標は「世界中の人々が争わず、安定し平和な世界を築き上げる」こと。その為にならば、普段の温厚な性格を豹変させ、果敢に敵に立ち向かうことさえもできる。自らの人生を犠牲にし、人々に尽くすことだって可能。

そう!あの日、クリスマス会の代わりに徹夜でクッキーを焼いたように!

世界を平和に導くため、自然発生的に発現させた能力。それこそが魅了系操作能力「ナチュラル・チャーム」だったのです。


この時にはみんな(青年を含めて)この能力の偉大さ、そして抱えているリスクに誰も気づいていませんでした。

ただ、青年だけは気づいていました。「あの日、徹夜でクッキーを焼いてきてくれたコトには何か異常さを感じる。崇高ともいえるレベルで自己犠牲ができる人なのだ」と。

この時の青年は、それを「長所」だと判断しました。様々な面から同時に物事を見て、いろいろな角度から状況を判断することのできる彼でさえ、この時には1面からしか物を見ることができなくなっていたのです。

まさに「恋は盲目」


今になって思い返せば、あのまま操作され続けていてもよかったのかもしれないな…とも思います。

青年があの人に「理想の女性像」を見ていた時、実はあの人もまた青年に「理想の男性像」を重ね合わせていたのです。

だったら、彼女が望む「理想の人」になってあげ、ボランティアを続けたりマジメに働いたりしてあげてもよかったはず。子供時代に受けてきた傷を癒してもらい、代わりに母親や世界に対する恨みを捨て、身を粉にして世界のために尽くす。

そうすれば、ほんとうに世界を平和に導くことすらできたかもしれません。何年も何十年も先の未来に…


でも、あの頃のあの青年には、それはできませんでした。ここまで読んできた読者のみなさんなら、その理由はわかりますよね?

だって、その人生は退屈過ぎるもの。飽きっぽい生来の性格がその選択を許さなかった。「世界平和」や「安定した人生」なんて、退屈以外の何ものでもないでしょ?

そう!彼が目指してたのは神様みたいな存在じゃなかったんです!むしろ、それとは全く逆!この世界を滅ぼす「伝説の悪魔」だったんです。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。