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「苦悩教室」以後

舞台「苦悩教室」の本番当日には、あの人も応援に駆けつけてくれていました。

ところが、ここで1つ致命的な失敗をしてしまいます。わずかな金額だったのですが、料金を取っていたのです(たぶん200円くらい)

「せっかくクオリティの高い芝居をやるのだから、1円でもお金をもらう!」という青年のプライドがあったために!

結果、どうなったかというと…

「全然お客さんが入らない…」

青年は非常にショックを受けました。当たり前と言えば当たり前なのですが、内容がどんなに素晴らしかったとしても、お客さんの入りには関係ないんです。だって、まだ見てないんだもの!見てない舞台は評価しようもないし、お金を払う気にもならないんです!

そこで直前になって「無料でいいので入ってください」というコトになってしまいました。

あの人もホールの前で「お願いしま~す!見ていってくださ~い!おもしろいお芝居なので!」と呼び込みをかけてくれています。青年は、その行為にとても感謝しました。

あの人のおかげもあって、どうにかこうにかボチボチ席が埋まります。500人以上入るホールに100~200人くらいの観客だったでしょうか?


本番が始まると、あとはどんどん時間が過ぎていきます。それとは裏腹に青年の心はいたって冷静でした。淡々と与えられた音響の任務をこなし、的確なタイミングで曲や効果音を流します。

加えて、音響室から舞台裏に指示を出します。その際、1度だけ怒鳴った記憶があります。舞台転換の際にモタモタしていたので、「とにかく急いで!」みたいなコトを言ったはず。

実は、ここが本番になるまでわからなかった部分なのですが、暗転(舞台上の明かりを全て消している状態)中に、舞台装置を入れ替える作業がかなり難航したんですよ。だって、暗がりで周りが見えないんだもの。

今回の芝居では、舞台美術自体は非常に簡素なものだったのですが、それでも「教室のシーン」と「別のシーン」を入れ換える際に、机やイスを移動しないといけないんです。真っ暗な中でやるのは大変だったんですね~

でも、みんなよくやってくれたと思います。


もう1つ覚えてるのは、音楽をキッカケに「次のセリフをはく」ってシーンがあったんですけど…そこで、青年はわざと曲を流すのを遅らせたんです。場の雰囲気を重視して。

この辺が現場にいないとわからない部分だと思うのですが、「芝居って生き物」なんですよ。だから、「役者が応用を利かせてアドリブで対応するように、音響もアドリブでなんかやっていいだろう」と思っちゃったんです。

すると、いつまで経ってもキッカケの曲が流れてこないものだから、舞台上の役者さんたちが場をつないでくれたんです。本来、台本にはないセリフなんかをしゃべって。

この間、わずか数秒だったと思うんですけど、遠く離れた場所から見てても、みんなが慌ててるのが空気で伝わってきました。

おそらく、あの時、舞台に立ってた人たちは「あ!音響ミスしたな!」と思ったでしょうが、アレはわざとだったんです。舞台の流れを読んだ上で、軽くイジワルしてみたんですね。

「あ~、わずか1秒タイミングがズレるだけで、役者の人たちは慌てるんだ~」と勉強になりました。青年には本番中にも、こういった行為を行うだけのゆとりがあったんです。


そして、舞台「苦悩教室」は無事に公演を終了します。

ふと時計に目をやると3時間以上が経過していました。当初「2時間程度かな?」と思っていたので、1時間以上もオーバーしていたわけです。おそらく、舞台転換に時間を食ったせいでしょう。

公演終了後、ホールについているプロの照明さんに「このホールに長いコトかかわっているが、歴史上最低の芝居だったよ」と言われました。

逆に、お客さんから回収したアンケートは100%に近いくらいの回収率で、「素晴らしい演劇でした!」「こんなに感動した舞台は生まれて初めて見ました!」「来年も絶対にやってください!」などなど絶賛の嵐でした。

この結果を見て、青年は「してやったり!」と思いました。プロから酷評され、お客さんには感動が伝わる!それこそが青年の目指した演劇の姿だったからです。

演劇だけではありません、小説もマンガもアニメも映画も全部全部同じ!プロの評論家や編集者なんて関係ない!そんなもの素通りしてダイレクトに読者や観客を震撼させる!それこそが青年の目指した「究極の作家」の姿そのものだったのです!

この瞬間、「創作の神」に届いた気がしました。短いナイフの切っ先だけ。先っぽだけに過ぎませんでしたが、確実に攻撃はクリティカルヒットして、神にかすり傷を負わせたのです!

数多(あまた)の人間たちが果敢に挑み、ありとあらゆる作家・芸術家・マンガ家・演出家・監督などなどが挑戦し、敗れ去っていったあの創作の神に!ほとんどの者たちが、歯牙にもかけられず目を合わせてさえもらえなかったあの神に!わずかとはいえ、傷をつけることに成功したのです!

「いつか、また挑んでくるがいい。遥かに成長した姿で…」

創作の神は、去り際にそんな風に声をかけてくれさえしました。


ただし、1つだけ…

もっと大事なコトが抜けて落ちていました。

あの人の反応です。あの人は、舞台本番中に「受付」をやってくれてたんです!つまり、まともに見てかったんです!

そんなものどうでもいいから、舞台に集中していて欲しかったのに!どうせ途中で入ってくる人なんてほとんどいないんだから、受付なんて必要なかったんです!

きっと、1年前のコトを覚えていたのでしょう。だから、自分なりに責任を果たそうとしちゃったんです。そういう性格の人だったんです!

※この時のコト


途中、受付を交代してもらい、一部分は見てくれてたらしいのですが、最初から最後まで通して見ないと感動が伝わらないんですよ。そういう風に作ってあるんだから…

青年はガックリきました。

「何のために、ここまで苦労して…」

1年近くの時間を費やして。劇団の旗揚げ公演を含めれば1年半も苦労に苦労を重ね、幾多の困難を乗り越えてここまでやってきたのに。一番肝心な人に見てもらえてなかったなんて!

青年は完全に燃え尽きてしまいました…

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。