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魔物の卵たち孵化。成長。

人としてはどんどん理想に近づいていくのに、作家としてはどんどん落ちぶれていく。そのような日々が続きました。

「労働者として優秀になればなるほど、創作能力は落ちていくものなのだな…」

青年は心の底からそれを痛感しながら、どうしようもありません。まるで、クモの巣に捕らわれた蝶が、もがけばもがくほど抜け出せなくなっていくようなもの。

仕方がないので、心を無にするコトで対応しました。少年時代の受験地獄の日々に会得した能力です。心のある部分を殺してしまうコトで、他の領域を救おうと試みたのです。

「労働者は何も考えない。ただ、淡々と命令に従うのみ。昨日と同じように働いていれば、今日は終わる。明日も今日と同じように働くだけ。それを4週間繰り返せば、今月のお給料がもらえる」

青年は世界の一部と化したのです。巨大なシステムの一部となり、自らの役割をまっとうする。それは人としてはたいそう立派なコトでした。ただし、心は壊れていく。

せっかくの持ち味は全て失われ、青年の持つ「特殊性」はどんどん「凡庸性」に塗り替えられていきます。


心を無にして働いていると、ラジオから白鳥英美子さんの歌う「Melodies Of Life」が流れていました。「ファイナルファンタジーIX」の主題歌です。

「ああ…そういえば、遠い昔にゲームざんまいの日々を過ごしていた頃もあったのだな。今のこの生活はあまりにもツラ過ぎる。どうして、このようなコトになったのだろうか?あの頃に戻りたい…」

いつしか青年はそんな風に願うようになっていました。


青年に与えられた能力は「機転をきかせてピンチを切り抜ける能力」

なのに、周りの人たちの影響を多大に受け、努力と根性で事態を切り抜けようとしてしまったのです!

「機転をきかせる」とか「効率よく働く」というのは、努力とは程遠い場所にあります。水瓶にナミナミと水をたたえるように心にゆとりを持ち、時間やお金に余裕があって、遥か遠くを眺めていなければ使えない能力。努力や根性とは最も相性が悪い!

それなのに、一生懸命努力しようとしてしまったのです!周りの人々の言葉に従って!これじゃあ、10代の地獄の時代と同じ!母親の甘言に従って無理やりに受験勉強させられていたあの時代と!

よって、青年は能力を失います。せっかくの持ち味は消え失せ、ただ単にフツーに人々と同じように労働するだけの人間と成り下がったのでした!

トラックの荷台に乗って高速道路を移動し、おしっこしたり。「一緒に世界を変えよう!」と誓ったり。いきなり劇団を立ち上げると言い出したり。アメリカに行って崖を飛び越えたこともありました。だから、おもしろかったのに!

そんな能力は全部全部なくなってしまいました。もはや、そのような度胸も勇気もありません。安定を維持するために、危険なコトなど一切やってはいけないのです。冒険は禁じ手!青年の持つ特殊能力は、今や完全に封じ込められてしまったのです!


蝶の羽はもがれた。

鳥はカゴの中に閉じ込められ、その翼は雨に濡れ、鳴くことさえ忘れた…


ところが…

封じられた作家性は、心の別の部分で再び発現します。人は限界を超えた瞬間、新たな能力を発動するのです。絶望を感じた瞬間、人は生まれ変わる。哲学者キルケゴールがそうであったように。

空想世界に生み出した魔界。その魔界にある魔王の城の1室。床や棚いっぱいに安置された魔物の卵たち。それらが次々と割れ、中から様々なタイプの魔物たちが誕生していきます。ここに来て、ようやく魔物の卵たちは「孵化条件」を満たしたのでした。

※「魔物の卵」は、この時のエピソードで登場


少年時代の受験戦争の日々がストレスとなり「魔界の植物」を誕生させ、育て。青年時代のツラい労働の日々が「魔物の卵たち」を孵化させ、成長させたのです。

この時の経験は、後に壮大なストーリーを紡ぎ出す手助けしてくれますが、それはまた別のお話。別の物語で語るとしましょう。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。