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キリギリスにはキリギリスなりのやり方というものがある

それからも、青年は自分にできるコトを一生懸命やりました。あの人への想いはあれども、何をどうすればいいのかがわからなかったからです。

あまりにも環境が違い過ぎたし、生き方も違い過ぎました。青年が歩んでいるのは非常に特殊な人生であり、あの人が進んでいる道は「普通の人の人生」なのです。

頭の中には常に「アリとキリギリス」のお話があり、自分はキリギリスとしての役割を果たすしかないと信じていました。でも、キリギリスにはキリギリスなりの努力の仕方や技術習得のための修練というものがあります。ただ、遊んでばかりはいられません。そうしなければ、よい演奏はできないのです。

本やマンガを読み、映画を見て、英語や中国語やフランス語やドイツ語やイタリア語の勉強をし、もちろん自分の作品も執筆します。アイデアは山のようにありましたが、実際に小説の形にするのは大変でした。絞り出すようにして、どうにかこうにか短いお話をいくつか生み出します。

あの人とやり方は全然違いましたが、青年には青年なりの努力の方法というものがあったのです。その先にはきっと成功があり、成功をつかみさえすれば、きっとあの人も認めてくれるだろうという希望がありました。

ただ、それには時間がなさ過ぎました。せめて、あの3年間を無駄に終わらせなければ…

26歳の時に「このままでは見込みがない!」とズバッと判断して、さっさと東京を離れ実家に帰っていれば。そうすれば、事態は全然違っていたかも。

でも、今さら後悔しても、どうしようもありません。タイムリミットが迫る中、青年はあの人の心がどんどん離れていくのを感じていました。

せめて、もっと電話でもしてあげればよかったのかもしれません。けれども、あの人はあまりにも忙し過ぎたし、青年はあまりにも気を使い過ぎました。結果、メールを送るばかりで、やがてその返事も来なくなってしまいました…

そして、運命の日がやって来ます。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。