見出し画像

「苦悩教室」

199X年…
世界は二極化の一途をたどっていた。
人々は勉学に励み、受験戦争に勝ち残った者は栄華を謳歌し、そうでない者は落ちぶれる。そのような社会だ。
そんな社会を表すかのごとき学校がここも1つ…

学校の廊下。生徒たちの成績が1位から最下位まで全員分、貼り出されている。校内は阿鼻叫喚地獄。

生徒A「うわ~!また数学のテスト、平均点以下だよ!」
生徒B「お前なんて、まだマシだって!オレなんて赤点だぜ!」
生徒C「ああ~あ…なんで廊下に全員の成績を貼り出したりするんだろう。こんなの公開処刑じゃないの。やめて欲しいな…」

ガリ勉君「フン…なにをあわてているのか。実力テストなど訓練に過ぎん。本番は大学受験だというのに。あんな輩どもと一緒の空気を吸っていては、こっちまで脳みそが腐ってしまうわ」

校舎の中では、ギラギラと監視の目を光らせた教師が歩き回っている。

体育教師「そこ!制服のホックが外れておる!オイ!そっちのお前は、スカートの丈が長すぎる!何度注意したらわかるんだ!」

そう言って、巨大なハサミを取り出してジョキジョキと女子生徒のスカートを切って短くしようとする体育教師。

(舞台暗転)

突然、バ~ン!という音と共に観客席の一番後ろの扉が勢いよく開かれる(会場内に、扉から1本の道のごとく光が差し込む)

「何事!?」と振り向く観客たち。

鼻歌を歌いながら、ゲタを履いた熱血番長が扉から舞台に向かって歩いて来る。

熱血番長「ははは~ん♪今度の舞台はどんな戦場だろうな?このオレを楽しませてくれればいいが…」などと独り言をつぶやきながら舞台に向かって歩いて行く(アドリブで、観客に聞こえるようにいろいろ喋る)

「よっこらっせ」と言いながら、舞台に上る熱血番長。

(舞台上にパッと明かりがともる)

         *

そこから、各生徒の紹介。

「勉強に悩む男の子」「ひきこもりの女の子」「イジメにあっている子」「屋上で隠れてタバコを吸っている子」「イジメっ子グループのリーダーも、家庭環境はすさんでいて嫌な目にあっている」などの背景が順番に語られていく。

その都度、熱血番長が舞台の端っこに隠れて、聞き耳を立てている(他の役者は気づかないが、観客からは見えるように)

         *

そして、ある日、事件が起きる。

ジリリリリとけたたましい音で鳴る電話のベル。

教師「はい。○○高校ですが」
謎の声(音声を加工して、誰の声かわからなくする)「テストを中止しろ!」
教師「は?」
謎の声「次回の実力テストを中止しろ」
教師「なに言ってんですか?」
謎の声「要求を飲まなければ、自殺する」
教師「え?え?ちょっと…」
謎の声「いいな。必ず次回の実力テストを中止するんだ。さもなければ、お前の学校は永遠に残る汚名を歴史に刻み込むことになるだろう」

ガチャ。電話が切れる音。

開かれる緊急職員会議。

         *

各生徒の悩みを把握した熱血番長、それぞれの生徒のもとを訪れ、親身になって話を聞いてやったり、得意のケンカ殺法で解決していく。

お互いに本気で殴り合ったあとは、肩を組みながら「アッハッハ!」と笑って仲直り。

         *

紆余曲折あって、ついに学校に脅迫電話をかけてきた犯人が判明する。

なんと!犯人はガリ勉君だったのだ!

屋上に立つガリ勉君。フェンスを乗り越えて、今にも地上に向けて飛び降りようとしている。

ガリ勉君「おしまいだぁ!僕はもうおしまいだぁ!」

生徒「なんで、あんなことをしたんだ!お前、いっつも校内に貼り出される順位表で学年1位だったじゃないか!」

ガリ勉君「耐えられなかったんだ!僕は耐えられなかったんだよ!両親や先生や周りの人たちがかけてくる重圧(プレッシャー)に!」

熱血番長「バカ野郎!たかが勉強ごときで命を無駄にするなッ!」

ガリ勉君「たかが…勉強?僕にとっては、その『たかが勉強』が命よりも大切なモノだったんだよ!」

そう言って、ついに本当に飛び降りようとするガリ勉君。

「キャ~」と叫び声を上げる生徒たち。

熱血番長「フッ…フハハハハハ!」と大声で笑い声を上げる。

ガリ勉君「なっ、何がおかしいんだ!」

熱血番長「おかしいさ。だってそうだろう?勉強だとか成績だとか、そんなものはなぁ…軽いもんなんだよ!お前の命に比べれば!鳥の羽みたいにな!」

その言葉を聞いて、フェンスの向こう側でガックリとうなだれるガリ勉君。

熱血番長、即座に駆け寄りガリ勉君を助け出す。

         *

その後、謹慎処分になったガリ勉君、引きこもりの少女、イジメっ子グループのメンバーなどなどクラスメイトを全員集めて、夜の学校に立てこもる熱血番長。

食料品を買い込んできて、教室の入り口には机を積み重ねてバリケードを設置。

集まる教師たち、近隣住民。

校長先生「やめなさい!君たちのやっていることは重大な校則違反であり、法律にも反する行為だ!」

熱血番長「やめるもんか!お前らがクソつまんない校則とやらを変えるまではな!」

119番に通報し、やって来る放水車。

教室の窓に向けて容赦なく強烈な水が放水される。

対抗する生徒たち。

戦いは何日も続き、結局、学校側が折れて厳しい校則は撤廃されることに。

立てこもっていた生徒たち「やったんだ!僕らはやったんだね!」「世界は変えられるんだ!信念を持って行動すれば!」などと口々に感動の声を上げる。

熱血番長「そうさ。世界は変えられる。学校なんていうチッポケな世界に閉じこもってる必要はない。お前らは翼を広げ、広く大きな世界に飛び立てるだけの無限の可能性を持ち合わせてるんだ!たとえ、このあと、どんな事態が待ち受けていようともな…」

その瞬間、窓から朝日が差し込んでくる(照明で朝日を表現)

「番長…!?」「番長!」「番長!」「熱血番長バンザ~イ!」

立てこもった生徒たち一か所に集まって、肩を抱き合って喜び合う(ついでに、胴上げなんてしちゃうかも)

         *

バリケードを解き、ぞろぞろと学校の運動場へと出ていく生徒たち。

校長先生からお達しがある。

校長先生「我々にも非はあった。我々も古い時代の人間だ。厳しいルールで縛り上げ、子供たちを自分の思い通りに教育…もはや、そのようなやり方は、通用せんのかもしれんな。これからの時代は、君らのような若い者たちが作っていくべきなのだろう」

続けて、それぞれの生徒たちの処分が告げられる。罪状に応じて、停学期間1ヶ月、3ヶ月…といった感じで。

校長先生「そして、首謀者たる熱血番長…この者を退学処分とする。以上!」

「ええ~!そんな!」「なんで番長だけ退学なんだよ!」「ズリイよ!」などと生徒たちの間から叫び声が上がる。

その言葉を制す熱血番長。

熱血番長「いいんだ。これでいいんだ。お前たちは、もうお前たちだけでやっていける。終わったんだよ。このオレの役割は…」

そう言って、ゆっくりと舞台を降りる熱血番長。そのまま観客席の後方へと向かって歩き始める。

舞台上から、口々に叫ぶ生徒たち。

「番長~!」「行かないで番長!」「戻ってきてくれよ!」「もっといろいろ教えてくれよ!」

熱血番長「な~に風が吹いただけさ。ヒュルル~ンってな…」

そう言って去っていく熱血番長。中央の通路をゲタを履いて歩みを進め、やって来た時と同じように観客席最後尾の扉から出ていく。まるで、別の世界への扉をくぐるように…

             ~完~


noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。