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「僕の改革 世界の改革」 第12夜(第2幕 16 ~ 18)

ー16ー

僕らは、軍から「住む家」と「生活に必要なもの」を与えてもらっていた。それ以外も、頼めば大抵のものは調達してくれる。
この組織には、何かいろいろと物資や資金を提供してくれるスポンサーがいるようだった。

軍には専用の食堂もあったが、忙しい日や遠出した日などには、コンビニでおむすびを買って食べることもあった。
僕はコンビニでの買い物は嫌いではない。

おむすびをパクつき、ゆで卵をかじる。
「う~ん、リンは『量産型の食事は好きではない』と言っていたけど、コンビニのおむすびも、なかなかおいしいものだ」

そんなことを考えていると、基地から連絡が入った。
「もしもし」と、僕は電話に出る。
「あ…大木ですけど。隊長さんですか?」
リンと僕を除いたら、唯一の隊員『大木さん』からだった。彼は、僕のコトを『隊長さん』と呼ぶのだ。
「至急、基地へ戻ってきてもらえますか?」
「ハイ。では、すぐに帰ります」と、返事をして僕は電話を切る。
珍しいな…至急、戻ってこいだなんて。
一体、なんの用事だろう?


ー17ー

急いで基地に帰ってみると、待っていたのは、何日か前に無気力レーダーに導かれて出会った『学生服姿の男』だった。
「この人、新しい隊員だそうです。今朝、入隊の希望があったそうです」
大木さんが、そう説明してくれる。
「この軍隊は、誰でも仲間に入れてしまうんだね」
「そのようですね」
「きっと、人手不足なんだろうな」
「そうでしょうね」

大木さんと軽く会話を交わしてから、僕は新しい隊員の方に向きなおる。
すると、相手の方から話しかけてきた。
「おう、あんたがリーダーかい」
「一応ね」
「言っとくが、オレは働かねえぜ」
「ハ?」
「だから、オレは働かないって言ってるんだぜ」
「働かない…って、じゃあ、なんでここに来たんだい?」
「別に。ただ、あんたがくれた名刺の所にやってきたら、入隊をすすめられて…それで、メシ食わしてくれるていうから入ってやっただけだ」
「なんのこっちゃ」
「ただ、よう…これだけは言わしてくれ。オレも昔っから、こんなだったわけじゃねえ。マジメに一生懸命働いてたこともあったんよ。だがよ…ある日、突然、バカバカしくなったんよ」
「突然?」
「そうさ。突然さ」
「どうして?」
「理由なんざねえ…いや、理由はある。だが、あんたなんかに言っても、わからねえだろうよ」
「そんなコト…言ってみなけりゃ、わかんないだろう?」
「そうか?なら、言わしてもらうがよ。こんな世間に愛想が尽きたのよ」
「愛想が尽きた?」
「おうよ。考えてもみてみろや。こっちが、どんなに一生懸命働いたって、入ってくる給料はスズメの涙ほど。それよりも、ノウノウとイスに座って、口だけ出してる奴らの方が、よっぽど金もらってる。こいつはバカバカしくてやってらんねえ!…そう、思ったんだよ」
「なるほどね。何となくわかるような気がする…」
「ま、そういうわけだ」
そう言って、学生服男は空いているイスにドッカリと座り、両足を机に乗せて居眠りを始めた。
「ほんとに…なんのこっちゃ?」

大体、彼は学生じゃなかったのか?
学生なのに働いているということか?
それとも、働いているのに学生をやっているのか…

どっちでもいいか。
僕は面倒になって考えるのをやめた。


ー18ー

「やる気レーダーの改良に成功しましたよ」
ある日、大木さんから、そう声がかかる。
「これで『特にやる気のある地点』と『特にやる気のない地点』とを、鮮明に知ることができるようになります」
見ると、基地の『大パネル』には天気予報図のようなものが映し出されている。
「この台風みたいなのが、やる気のなさの原因のようですね。幸い、この街には、まだいません」
「僕らが、前に住んでいた街は?」
そう、僕はきいてみる。

大木さんが機械を操作し、パネルに僕らが以前に住んでいた街のマップが表示される。
「ありゃあ!こりゃ、ダメですね。台風のドん中だ。しかも、しだいに勢力を増してきているようだ」
「困ったな…でも、いずれはなんとかしないと」と、僕。
「そうですね。ただ、現状では手の出しようがないですね、これでは」
「ちなみに、やる気のある人たちは?」
「それは、これですね」
そういって、大木さんが指さしたのは、小さなポツポツだった。
「こんな、ちっちゃいの?」
「そうです。でも、1つ1つは小さくても、数は結構多いですよ。それに…ほら、これなんか!」
そういって、大木さんが示したのは、ゴマ粒くらいの大きさだった。他のが砂粒くらいの大きさなのに対してゴマ粒。
「あんまり変わらないんじゃ…」
「いえいえ、そんなコトはありませんよ。拡大して見てみますよ」

大木さんが、ゴマ粒と砂粒を拡大して見せてくれる。すると、確かに何十倍もの大きさがある。
「確かに…でも、台風に比べると、やっぱりあまりにも小さいんじゃ…」
「それは、そうですよ。だから、無気力な台風に対して、やる気の台風で対抗するんじゃないですか!」
「それは、どうやって作り出すの?」と、僕は他人事みたいに尋ねる。
「それこそが、隊長さんの仕事じゃないですか!」
「ヘッ…そうなの?」
「そうですよ!しっかりしてください!期待してるんですから…」
「でも、どうすればいいのかな。ほんとに…」
「そうですね…とりあえず、この大きなやる気の人に会ってきたらどうですか?」
「あ…そうだね。それはいい。そうしよう」
「それに、もしかしたら、その人が新しい仲間になってくれるかも知れないでしょう?」
「そうだ、そうだ!そうすれば、大きな戦力になってくれるよね!」

大木さんの提案に乗り、僕はさっそく準備を進めた。

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