見出し画像

もしも、あそこでホストになる運命を選んでいたら…

青年は、ホストクラブで働く運命を選べなかったコトをちょびっとだけ後悔しました。

「ああ~あ、わずか半年とか3ヶ月でもいいから、ホストやっておきたかったな。そうすれば、結果がどうあれ間違いなく貴重な経験になっていたはずなのに…」

選べなかった運命での経験は、きっと「世界最高の作家になるため」大いに役に立っていたことでしょう。

なので、ここから先はあくまで「空想の物語」です。実際には存在しない「あり得たかもしれない可能性の物語」

         *

突然、家に電話がかかってきて、「何やってるんですか?早く出勤してください」とホストクラブの人から連絡がありました。

青年は「え?合格してたんですか?連絡が来ないものだから、てっきり落ちたのかと思ってました」と、驚きます。

仕方がないので、急いで支度をして新宿の歌舞伎町へと向かいました。成人式の日に使った例のスーツを着て。

明日は派遣会社の紹介で朝早くから東京ビッグサイトまで出かけなければなりません。けれども、この調子だと、とてもじゃないけど無理そうです。おそらく、今から始める仕事は朝方まで続くでしょう。そこから別の仕事に向かうのは、どう考えても無謀でした。

新宿までの電車の中、そのようなコトを考えていると、アッという間に電車は新宿駅に到着しました。青年が住んでいる幡ヶ谷から新宿までは、京王新線でわずか2駅しかないのです。


駅を降りると、歌舞伎町にあるお店まで早足で向かいます。降りたのが南口だったので、徒歩だと結構距離があります。15分以上はかかったでしょうか?

どうにかこうにか目的のお店に到着し、カランコロンという音と共にお店の扉をくぐると、一斉に「いらっしゃいませ~!ようこそお越しくださいました~!」とお店で働いている男性陣が声を上げます。

「なんだか、ブックオフみたいシステムだな…」と青年は心の中で思いましたが、声には出しませんでした。

「なんだ、男か…」と全員が失望の表情をしたのを青年は見逃しませんでした。

「実は、今夜からこのお店で働かせてもらうコトになった者なのですが…」と説明すると、「ああ、君か」とお店のマネージャーがやって来て、ホストクラブの「いろは」を教えてもらうことになりました。

「基本的にお店は売上制になってるから。基本給も出るけど、微々たる額だからね。まともに生活したいなら、お客様をいい気持にさせて、ガンガンお酒を売ってよね」とマネージャーに言われます。

「働かざる者、食うてよし」の能力もあるので、さしあたって生活には困っていません。それだけでも、圧倒的に有利な立場にいました。

青年は瞬時に察します。「あ!これは営業の一種だな!」と。家庭や会社を回り商品を売り込んだり、テレアポとして電話をかけて契約を取る。あのタイプの仕事です!それならば経験があるし、お客さんの方からやって来てくれるので、飛び込みの営業よりは遥かに楽でしょう。

…とはいえ、いきなりお店に出してもらえるわけではありませんでした。最初は雑用から。先輩ホストの身の回りの世話やトイレ掃除など、直接仕事に関係ない作業ばかりやらされます。

青年は「早くお店に出してもらって、かわいい女の子のお客さんたちと会話したいな~」と思いましたが、ここはジッと我慢の子!何事も基礎から学んでいかなければなりません。


そんな生活が何日も続き、ようやく青年も実際に接客するコトが許されます。最初は「ヘルプ」という先輩ホストの横について細かいお世話をする役割から。

初めての日は、さすがにドキドキしてまともにしゃべれませんでした。

それと、当たり前の話なのですが、お客としてやってくる女性は若くてきれいな人ばかりとは限りません。年配の女性も大勢やって来ますし、お世辞にも見た目がいいとは言えない人もいます。

でも、決して外見で差別してはいけません。青年は過去の経験からそれを知っていました。営業でもテレアポでも、見た目や声の質で中身が決まるわけではないのです。「いかにお金を払ってくれるかどうか?」が重要!

むしろ、何かしらの欠点を抱えていたり現実の生活に不満があるからこそ、このようなお店にやって来るのだし、それが解消できた時に大枚もはたいてくれるわけです。

「この仕事…相手の女性を幻想世界に引き込み、心をトロトロに溶かしてあげるコト!無理にお金を払わせるのではなく、自分から望んでお金を払いたい気持ちにさせる。それが理想の攻略法!」

青年の持つ特殊能力「マスター・オブ・ザ・ゲーム」は、早くもホスト業界の神髄を突き始めていました。

(次回に続く)

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。