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「僕の改革 世界の改革」 第47夜(第7幕 23 ~ 27)

~23~

長い旅路の果て、僕は再び『白き夢』の本拠地である真っ白な神殿の前に立つ。
思えば、いろいろなコトがあった。いなくなった『彼女』を追いかけて、様々な人たちと出会い、別れてきた。でも、もうそれも終わり。

『いよいよ最終決戦というわけか』
心の底に声が響く。男の声だ。
「邪魔しないでくれ。これから僕は大事な時間を過ごす。だから、誰にも邪魔して欲しくない」と、僕は声の主に向かって答える。
『邪魔などしないさ。たが、覚悟だけはするがいい。この先に待つものがなんであれ。どのような真実と向かい合うにしろ』
そう言って、声は消えた。


~24~

僕は手にした真っ白な鍵を使い、次々と扉を開け、神殿の最深部へと降りていく。以前訪れたと同じように。

そこには『白き夢』そのものである『彼女』が待っていた。
「来たわね。終わりの時が。この世界で最後に会うのは、やはりあなたしかいないと思っていたわ」
僕の姿を見て、彼女はそう言った。

2人はジッと相手のコトを見つめ、しばらく黙ったままだった。
けれども、ついに彼女が口を開く。
「あなたをこの世界から消してしまおうと思ったのに…どうやら失敗したみたいね」
「リンが助けてくれたんだ」
「そう…あの子が」
「どうして、そんなコトを?僕を消そうとしたりした?」
「そうね…こうなったら、ほんとうのコトを話しましょう。できれば、あなたには何も知らないまま消えて欲しかったのだけれど」
「何も知らないまま?」
「そうよ。何も知らないまま、消え…そして、何も思い出さないで欲しかった」
僕が黙っていると、彼女は続ける。
「でも、あなたは、この世界で名前を買い、その代金も支払った。そうして世界に革命をもたらした」
「確かに」
「結構なことね。でも、あなたは、それがどういう意味を持つか知らない」
「どういう意味を持つんだい?」
「それはね。こういうコトよ…」
そして、彼女は真実を語り始めた。


~25~

「私は、この世界で自分にできるコトを精一杯やろうとした。無気力化しかけている人々を救おうと、全力を尽くしたわ」
「それが『並木さやか』であった頃の君?」
「そうよ。名前屋から『並木さやか』を買い、懸命に努力し、1人でも多くの人を救おうとした。でも、ムダだとわかった…」
「ムダ?」
「どんなに一生懸命がんばっても、人々はどんどん無気力化していく。きりがなかった。だから『並木さやか』を売り払い、今度は『白き夢』を買ったの」
「君は『白き夢』でも、どうして人々をこの世界から消そうとする?」と、僕は尋ねる。
「果たして、それはほんとうに間違った行為なのかしら?」
「それはそうさ。死を望むなんて間違っている。それは断言できる!いくら無気力化がイヤだとしても」
「ここが、現実の世界でないとしても?」
「え?何を…言っているんだい?」
「私はただ、人々を現実の世界に引き戻しているだけ。それだけなのよ」
「???」
「それに、『死』と『消滅』は違う。人々は死ぬわけじゃない。ただ、消えるのみ。それは、元いた世界に戻ることを意味する。たまに、この世界に舞い戻ってきちゃう人もいるみたいだけどね」
『死にゆく詩人』のコトだ。彼も1度、この世界から消滅して戻って来た。

僕はしばらく考えてから、彼女に問う。
「この世界って一体?君は別の世界の住人だとでも言うのかい?」と、僕は問いかける。
「そうよ。私も、あなたも、そしてこの世界に住む多くの人々も。みんなみんな別の世界から送られてきたの」
「じゃあ、僕が持っている記憶は偽物?君と暮らした日々も?」

フ~ッと一息、長いため息をついてから彼女は答える。
「そうね。その記憶は、ある意味で偽物だし、別の意味で真実だとも言えるわ。でも、人の記憶なんてそんなもの。いい加減なものなの。誰だってね」
「記憶はいい加減…」と僕は復唱する。
「そうよ。だから、そこのとこはあまり重要じゃないわ。重要なのは、ここが現実の世界ではないというコト」
「現実ではない?この世界が?」
「そう現実ではない。かといって、完全に空想というわけでもない。ここは作られた世界。『現実と空想の狭間の世界』なのよ」
「現実と…空想の…ハザマ…!?」
「そうよ」


~26~

僕は、しばらくの間、次に発する言葉が見つからなかった。
だが、ゆっくりと考えてから、さらに質問をした。
「じゃあ、この身体も偽物ということ?」
「どうかしらね?本物だとも言えるし、偽物だとも言える。物質的には確かに存在しているのかも。でも、それも重要じゃないわ」
「じゃあ、何が重要なの?」
「人はこんな世界にいつまでもいちゃダメってコトだけ。こんな夢みたいな場所にい続けちゃいけない。それでは、何も解決しない。しっかりと現実を見て、前に進まないと!」

再び、僕は語る言葉を失った。
でも、それでもがんばって次の質問をたぐりよせる。
「元の世界はどんなとこなの?」
「さて、どんなところかしらね?それは帰ってみればわかることよ」

しばらくの沈黙の後、白き夢のリーダーである彼女は語る。
「ここは、ある人が作り出した世界」
「ある人?それは誰?」
「それは『あなた』よ」
「!?」
「正確に言えば『別の世界のあなた』」
「どうして、そんなコトを?」
「それは、私にもわからない。あの人はいつもそう。いつも人にはわからないコトばかりする。彼の思考は人が理解できるほど単純じゃないの」
「その人は君にとって大切な人?」

今度は、彼女の方が考える。
しばらくの沈黙の後、彼女は答える。
「正直、そういう時期もあった。あの人のコトを心の底から信じていた時期も…でも、今はそうじゃない。盲目的な信用は、いつか破綻をきたすの。そして、その後には不毛な関係が残るだけ。でも、私は今も信じている。いつか、あの頃が戻ってくると。お互いがお互いに信じ合えていた、あの頃が…」
「何か、悲しい関係だね…」と、僕は答える。そのくらいしかかける言葉が見つからない。
「そうね。悲しい関係。お互いが望んでもいないのに、顔を合わせればいがみ合ってばかり。不毛な関係よ。ほんとうは戦う理由などないのよ。戦う理由も、戦う必要もどこにもない。ただ、必要があると思い込んでいるだけ…」

僕が黙っていると、彼女はひとりで続ける。
「人は、自分の人生を疑ってしまったりしてはいけないの。そうしなければ、世界そのものが崩れて消えてしまうのだから」
「世界が消える?」
「そう。それを失ってしまったから、みんな、やる気をなくしてしまったのね。『自分の生き方』『信念』そういったものを失い、無気力化した。世界中の人々が無気力化すれば、世界そのものが消えてしまう」
「世界が消える、か…」
「私だってそう。どんなに気丈に振る舞っていても、ほんとうは目標なんて持っていなかったのかも知れない。『私らしい人生』なんてどこにもなくて、ただ周りに流されていただけ。『人々の幸せのため』と信じ、周りに流されていただけなのよ」
「それはいけないコトかな?人々の幸せを願うコトは。少なくとも僕は好きだったな。みんなのために自分を犠牲にして生きる君の姿が…」
「あなたにはそう見えたかも知れない。でも、それはほんとの私じゃない。周りに流されて作られた表面上の形だけの姿」
「『人は、外から見ているだけでは、真実の姿はわからない』というわけか」
「そうよ。だから、私も目標を持たないと。生きていくための目標を。形だけではなく、表面だけではなく、真実の姿を手に入れるために!」


~27~

さらに、しばらくの沈黙が続き、もはやお互いに語る言葉がないと知った。

最後に、彼女は僕にやさしくキスをした。
そして、ゆっくりと消えていく彼女。

「さようなら。別の世界でまた会いましょう。別の関係として…」
それが、この世界で最後に耳にした彼女の言葉だった。

あとには、ただ僕ひとりだけがポツリたたずむのだった…

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。