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ウイルスvs人間

2021年2月。

青年が児童館で子供たちと遊んでいた頃からすると、遥か未来の時代。世界は相変わらず凶悪なウイルスと戦い続けていました。

男は相変わらず漆黒の闇のような真っ黒なノートパソコンを前に、キーボードを叩き続けています。

「やれやれ、思ったより長くなってしまったな…」

昨年の8月から毎日書き続けていた小説は半年を越え、200話に近づこうかというのに、まだ終わりが見えません。

「ま、残りの部分はたいした話でもないし、サクッと終わらせてしまうか。それよりも…」

それよりも、世界の話題は1年前に発生したウイルスの対応でもちきりでした。いつ終わるかもしれない戦いに、皆、ほとほと疲れ果てていたのです。

「『マスター・オブ・ザ・ゲーム』と『ディケンズの分解メス』は既にゲームの攻略法を提示している。あとは、人々がその攻略法に従うかどうかだけ…」

男が持つ2つの特殊能力が示した解答。それは、実にシンプルなものでした。

「全世界からウイルスの感染者をゼロにすること」

それがゲームのクリア条件です。

そう!これは「ウイルスvs人間」というゲームなのです。ゲームは誰よりも得意。毎日必死になって情報を集め続け、とっくの昔にゲームのクリア条件もクリア方法も導き出していました。

ただ、難しいのは全員の意思統一がはかれないところ。一致団結して人類が協力し合い、ウイルスに対抗しなければならないのに、人々の意見はバラバラで迷走し続けているのです。

「これじゃあ、いつまで経っても終わらないよね。本気でやれば、3ヶ月で終わる戦いなのに…」

「ウイルスの感染者をゼロにする」というクリア条件を満たすためにはどうすればいいか?「感染者を隔離して、みんなが家から出ないようにすればいい」だけ。ただ、それだけなんです。

ところが、多くの人たちは「そんなの不可能だ!」とか「そんなやり方は、経済的に大きなダメージを与えてしまう!」と思い込んでしまっているのです。

そうして、中途半端な感染対策を施し、それなりに経済を回してしまった。結果、どうなったか?

戦いは泥沼の戦争状態に陥り、余計に経済的大ダメージを与えてしまったのです。短期的に見て「正しい!」と思われていた戦術が、長期的に見ると実は大間違いだったのです。

「いいとこまでいってたんだけどなぁ…」と、部屋の中で男はひとりつぶやきました。

去年の6月。日本は、それまで発令していた「緊急事態宣言」を解除してしまいました。途端にみんな油断して、以前の生活に逆戻り。大勢で会ってお酒を飲んだり、旅行に行くようになってしまったのです。

「あそこで、もう1ヶ月我慢してればな…」

あまつさえ、政府が補助金を出して旅行に行くことを推奨したものだから、余計にウイルスの感染は拡大してしまいました。

その結果、冬の到来と共に爆発的に感染は広がり、再び緊急事態宣言を発令することになってしまいます。

「これじゃ、イタチごっこだよ。感染者が減ってきたらルールを緩め、みんなが油断して、また感染が広がる。感染者が増えると、またルールを厳しくする。その繰り返し。残念だけど、そのやり方だとゲームクリアできないんだよね」

仮にクリアするとしても、非常に長い時間がかかってしまいます。短期間に厳しい政策を敷いて、完全にウイルスをゼロにする方が、実は目的達成には早道なのに。

それをやってのけたのが、中国とオーストラリアでした。ウイルスの発生源となったあの中国の武漢でさえ、今はマスクなしで太極拳をやったりジョギングをしているそうです。

逆に、ウイルスを甘く見て、マスクの装着も徹底しなかった国は日本の10倍以上のダメージを負ってしまいました。たとえば、アメリカやイギリスのように。

特にアメリカは、2500万人以上の感染者を出し、50万人近くが亡くなりました。


そして、今…

今度は「ワクチン」というのが開発され、ウイルスの感染を抑えようとする動きが生まれています。

でも、これって実はクリア条件が結構難しいんです。第1に「みんながワクチン接種しないといけない」んです。完全にウイルスを抑え込むには、人口の9割近くの人がワクチンを打たなければならないと言われています。

第2に「ワクチンには期限がある」んです。その効果がどのくらい持続するかは不明ですが、効果内に全員がワクチンを打たないといけません。でないと、また最初からやり直し。

さらに言えば「ワクチンは現在のウイルス向けに開発されている」というのもあります。「変異株」と呼ばれる新しいタイプのウイルスがぞくぞくと誕生していて、あまりにも変異が進み過ぎると、現在のワクチンでは効かなくなったり、効果が薄れたりします。

実際には、ワクチン接種に加えて「マスクなどの感染対策」や「リモートワーク」などの社会システムの変革も併用して、ウイルスを抑え込もうとしているのですが…

いずれにしてもクリア条件は「新規感染者および現在感染者をゼロにすること」なのです。1人でも感染者がいると、そこからまた広がっていくのですから。

ここの所がわかっていない人が大勢いるので、ますます意思統一がはかれなくなっていくんですね~


…とはいえ、日本人はワクチンに対して怖れ過ぎだとも言えます。

もちろん、異質な物質を体内に取り入れるので「怖い!」と思う気持ちはあって当然ですし、長期的にどのようなリスクがあるかはまだわかっていません。

それでも「ウイルスに感染した時のリスク(亡くなる・後遺症が残るなど)」に比べると、遥かに安全と言えるでしょう。人数を比べてみれば一目瞭然です。「ウイルスに感染して亡くなる人の人数」と「ワクチンを打って亡くなる人の人数」を。


まとめると、こうなります。

・「ウイルスvs人間」の戦いに人間側が勝利するためには、感染者をゼロまで追い込まなければならない。

・いきなり全世界の感染者をゼロにするのは無理なので、国境を封鎖し(最低限の物流のみは残す)各国が1国ごとにウイルスを撃破してゼロに追い込んでいく。

・中国やオーストラリアなど、実際に感染者ゼロを達成している国は存在している(新規感染者が1人でも出ると、再びロックダウンなどの対策を行いゼロに追い込んでいる)

・ワクチンはリスクもあるが、恐れるほどではない(それよりも、ウイルス感染リスクの方が遥かに高い)

・ワクチンでウイルスを完全に抑え込むという攻略法は意外と大変(なので、他の感染対策と併用する)

・短期的に「経済損失」と見える方法が、実は長期的に見ると経済的にも有利に働く

これが「マスター・オブ・ザ・ゲーム」と「ディケンズの分解メス」が示したゲームクリアの最短ルートでした。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。