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「僕の改革 世界の改革」 第33夜(第5幕 16 ~ 20)

ー16ー

「まあ、お茶でもどうぞ」と、僕はシノザキ博士にお茶を出す。
すると、さっそくシノザキ博士からダメ出しを食らった。
「いかんな…」
「え!?」
「食べ物・飲み物…口に入れる物には気を使うように言ったじゃろうが」
「そういえば、そんなコト言っていましたね」
「こんな大量生産品を飲んでいてはいかん!」
「ハァ」
「茶は飲み物の基本じゃ。特に厳選された素材を使わねばならん」
「ハイ…」
「そして、水じゃ。水は全ての基本じゃ。水がうまければ飲み物もうまい。水がうまければ料理もうまい。水がよければ人の体も心も健康でいられる。水には気を使わねばならん!」
「わかりました…でも、そのコトはまた今度にして、今日は何の用件でいらっしゃったんですか?」
「おうおう、そうじゃったのう」


ー17ー

それからシノザキ博士は、いきなり本題を切り出した。
「まさか、お前さんが『革命家ポルトーテス』の名を継ぐことになるとはな」
「ご存知なんですか?この名前の前の持ち主を?」
『革命家ポルトーテス』とは、今の僕の名前だ。名前屋に前の名前を売って、新しくこの名前を買ったのだ。
「ま…まあ、有名なヤツじゃったからのう…」
「有名なのに革命には失敗した?」
「有名無名はあまり関係ない。多少の足しにはなるじゃろうが、それだけでは世界は変わらんよ。それほどこの国、そしてこの世界は病んでいるということかも知れんが…」
「では、どうすれば?」
「あきらめることじゃな」
「あきらめることで世界が変わるんですか?」
「いや、世界を変えること自体をあきらめるということじゃ。そんな大それた行為自体、あきらめた方が賢明じゃよ。それよりも、ただ静かに生きていけばそれでいい。それが本当の幸せというものじゃ」
「でも、実際に世界は変わり始めていますよ。現に…」
「いずれ、それも終わる時が来る。その先にあるのは悲しい結末じゃよ」
「だけど…」
「そうなる前にやめておいた方がいい。結果はわかっておる。失望するだけじゃよ。希望が大きければ大きいほどな」
「どうして、そんなことが言えるんですか?」
「『経験者は語る』と言ったところかのう…」
「???」
「とりあえず、忠告はした。忠告はしたぞ」


ー18ー

「もしかして…」
僕のその言葉をさえぎるように、シノザキ博士は言った。
「ワシはあそこへ帰る。あの街へ」
「あの街というと『無気力生物の街』ですか?」
「そうじゃ。お前さんたちはそう呼んどるのう。じゃが、あそこはいい街じゃぞ」
「『いい街』ですか…」
「そうじゃ。いい街じゃ。お前さんにも、やがてあの街のよさがわかる時も来るじゃろう」
「ハア…」
「それじゃあのう。暇ができたら訪れるがいい。ワシの所を。そして、あの街を…」
そう言ってシノザキ博士は去って行った。

僕は最後にリンのコトを聞こうと思ったが、やめた。
リンの体は博士に任せた。きっと、約束通りに処理してくれたことだろう。それ以上に話すコトは何もない。アレもまた、過ぎ去りし青春の1ページなのだ。


ー19ー

シノザキ博士が去り、部屋で1人紅茶をすすっていると…
何年かぶりにあの声がした。時々頭の中に響いていた、あの声だ。ほんとうにひさしぶりだった。
『さて…計画は順調に進んでいるかな?』
「進んでいるさ。でも、時々不安になる」
『何を不安になるコトがある?不安なコトなど何もありはしないだろう』
「あるさ。山ほど」
『フム…それが心の弱さか』
「そう。心の弱さだ。でも、心に弱い部分なんてあって当然だろう?それが人という生き物だもの」
『昔…聞いたようなセリフだな。だが、お前にはそんなモノは必要無い。弱さなど存在してもらっては困るのだ』
「そりゃ、弱さなんてない方がいいかも知れない。けど…」
『ない方がいい…ではない!!あってはならぬのだ!!もう2度と同じ過ちを繰り返さぬ為に!!』
「過ち?2度と?どういうコト?」
『今にわかる。思い出す。お前がその世界で全ての役割を終え我々の元に帰って来たならば。その時に』
「でも…」
『いずれにしろ、お前にできないはずはない。できないコトなどありはしない。いかな、ここが力を封じられた世界だといえな!!』
そう言って声は消えた。


ー20ー

『心の弱さ』か。そして『過ち』とは…一体なんのコトなのだろう?
昔、心の弱さによって大きな失敗をした?僕が?
それに『力を封じられた世界』って?元々、別の世界の住人だったってこと?
でも、何も思い出せない。きっと、世界を改革することができた時、全ては明かされることだろう。そのためにも今は全力を尽くさねば…

それにしても…以前は邪魔だったあの声が、不思議なコトにその時の僕には懐かしく聞こえた。
「『ほんとうに大切なモノ』というのは、その瞬間には疎ましく思えたりもするけれど、長い時間を経てみると心の底に染み入ってくるモノなのかも知れない」
そんな風にすら思った。

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