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「僕の改革 世界の改革」 第27夜(第4幕 19 ~ 22)

ー19ー

それから、3人でスープを飲み、ストーブの火であたたまった。
やがて、雨はやんだ。
僕は小屋を出て、お礼を言ってから2人のもとを去った。

「僕には、こんな生き方はできない!」
歩きながら、僕はそう思った。
彼のためにストーブの灯油を買ってくることも、スープを作ってやることも、そのためのお金を稼いで来てやることも。でも、「これが、この人たちの生き方なのかも知れないな…」とも思った。

この暗く荒んだ世の中で発現した、ひとつの生き方。
詩人が何もせずにボ~ッとして生きて…そして、かろうじてながら生きて、その代わりに美しい詩を生み出す。
それがひとつの生き方だと言うならば、彼のコトを助けて、お金を稼いできて、灯油を買ってきて、灯油を入れて、ストーブに火をつけて…そして、時々、美しい詩を聞く。世界で、ここでしか聞けないような詩を。それも、ひとつの生き方なのかも知れない。

人の生き方は、人それぞれだ。
誰もそれを咎める権利など持ち合わせてはいないのだ。ただ、どういう生き方が自分に合っているかという、それだけのコトで…
人は環境に応じて自分に一番合った生き方を見つけていくのだろう。


ー20ー

それから、数日歩いて…
僕は、ようやく『無気力生物の街』へとたどり着いた。

さっそく、僕は『シノザキ博士』を探し始めた。だが、博士はなかなか見つからなかった。
元々、あまり交流を求めないこの街の人々のコトだ。ほとんどの住人が、他人に関する情報など関心はないようだった。
だが、そんな中でかろうじて次のコトを知った。
「『彼女』は、もうこの街にはいないらしい」

僕が探し求めているのは、リンであり、そのためのシノザキ博士だ。
だが、それでも…最後までこの街に残ると言い張っていたあの彼女が、もうここには居ないのだと知ると、何だか寂しい気持ちになってしまった。
僕は、まだ心のどこかで彼女に惹かれ続けているのだろうか?


ー21ー

そんな風に情報を集めていた時のコトだ、酒場でこんな話を耳にした。
「おい。この街にも、名前屋が来るらしいぜ」
「名前屋?えらく珍しいな」
「そうだろう。こんな寂れた街なんかに」

名前屋?
『名前屋』ってなんだ?

不思議に思った僕は、思い切って彼らに尋ねてみた。
「あの…すみません、名前屋ってなんですか?」
すると、酒場にいた内の1人の男が答えてくれた。
「お前さん、名前屋を知らんのかい?」
「はい…」
「もしかして、新参者かい?」
「ええ…まあ」
「名前屋っていうのは、この世界で、まだ名前を持っていない者に名前を売ってくれるのさ」
もう1人の男も教えてくれる。
「あとは、不必要になった名前を買い取ってくれたりな」
「そ、そんな便利なお店があるんですか、この世界には!」
「まあ、便利かどうかはわからんがな」

そういえば、『彼女』が言っていた。
「あなたには、この世界での名前が必要なのよ」と。
そうか。名前なんて、どうすれば手に入るのか分からなかったが、これで謎が解けた!!
まさか、その辺に落ちているわけもないし。やはり、自分で決めるしかないのかと思っていたが…名前は、名前屋から買えばいいのか。
隊長(僕自身)が決めてくれた『ナンバー24』だなんて、しょせんは記号に過ぎないし。彼女も言っていたコトだ。この際、名前を買ってしまおう。


ー22ー

名前屋は、2日後にやってきた。
それは、背の低いオヤジで、お世辞にもカッコイイとは言えなかった。世間では、醜いと言われている部類に属するだろう。オヤジは、屋台を引きながらゆっくりと進んでいた。その風体は、まるでラーメン屋のようで、歩みはカタツムリのように遅かった。
さっそく僕は名前を買いに行った。

「おじさん、名前が欲しいんですけど…」
そう言って、僕は名前屋に話しかけた。
「アイヨ!」
客は、僕以外に誰もいなかった。
「その前に、どういうシステムか説明して欲しいんですけど…」
とりあえず、僕はそう尋ねた。
「お客さん…名前を買うのは、はじめてかい?」
「ええ、そうなんです」
「そうかい。じゃあ、最初から説明してやろう」
「お願いします」
「まず、この世界には、名前を持っている人間と、持っていない人間とが存在する」
「ハイ」
僕は、うなずきながら返事をする。
「名前を持っていない人間は、名前を欲しがる。ここまで、いいかい?」
「ハイ。ちゃんと理解したつもりです」
「そうかい。では、次へ行こう」

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。