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「僕の改革 世界の改革」 第11夜(第2幕 11 ~ 15)

ー11ー

なんと!『彼女』に出会った。
でも、声をかけることができなかった。もちろん、そこに後悔はしていない。あえて、自分からそうしたのだから。
それは、こんな感じの出会いだった…

今日の午後、調べものをするために図書館に寄った時のコトだ。図書館は4階建てのきれいな建物だった。
図書館の中で僕は1人の女性を見かけた。
「彼女だ!」
間違いない。今、2階への階段を上がっていったのは、まぎれもなく『彼女』だった。
彼女は僕に気づいただろうか?気づいていて、あえて逃げていったのだろうか?それとも、ただ単に2階に用事があったから上がって行っただけなのか?

僕は急いで螺旋状になった階段を駆けのぼる。だが、途中でふと気づく。
「こんなコトでいいのだろうか?こんな所で彼女と出会ってしまっていいのだろうか?早い!まだ、早過ぎる!」
そう思い直した僕は、ゆっくりと階段を降り、図書館をあとにしたのだった。


ー12ー

こんなコトで、ほんとにいいのだろうか?こんなにチンタラ行動していていいのか?
彼女がこの街にいるとわかった途端、僕は急にやる気になってきた。
「早く立派な隊長になって、彼女に会いに行かなければ!」と。

そして、僕はリンにこう提案した。
「ねえ、リン…こうしていても仕方がないし外に出かけようよ」
「何しに?」
「昔使った『無気力レーダー』を使おうよ。それで、無気力な人を見つけに行こう。もしかしたら、前みたいに新しい仲間になってくれるかも知れないじゃないか」
「そうねぇ。それもいいかもね」と、リンも同意してくれた。

もう1人の隊員の大木さんも、こう言ってくれる。
「そうしてくださいな。留守中は私がここを守っていますから」
「じゃあ、さっそく準備して出かけよう!」
「OK!」


ー13ー

僕らは、無気力レーダーのスイッチをオンにしてから歩き始めた。無気力生物になりかかっている人に近づくと、レーダーが反応するのだ。
レーダーは、すぐには反応しなかった。どうやら、この街はまだあまり無気力生物には侵攻されていないようだ。

「そういえば、一番最初にあなたに会った頃にも、こうやって一緒に2人で街へと出かけたわよね」と、リンが話しかけてくる。
「なつかしいな。もう、あの頃が遠い昔のようだ…」
「そうね。時はアッという間に過ぎって行ってしまうわ」
「特に楽しい時はね」

「ねえ…」と、リンが何かを言いかける。
「何?」と、僕。
「もしも…」
「もしも、何?」
「もしも、ある日突然何かが起きたとしても、その時はショックを受けずに、あなたはやるべきコトをやって生きていってね」
「なんのこと?」
「だから『もしも』よ。あなたは、それだけの使命を背負っているのだから」
「そのコトだけど…ほんとに僕にそんな力が存在しているのかなぁ?」
「存在しているわ」
「そうかなぁ?全然そんな気がしないんだけど」
「そんなコトないわ。あなたは間違いなくこの世界を変える力を持った人よ!」
アレからいろんなコトがあったが、いまだにそんな気は全然しない。相変わらず僕は家を出た時と変わらず、あたりまえの普通の人間でしかないような気がしている。
こうして、今、この部隊の隊長になっているコトにすら、全く実感を感じていないくらいなのだ。

ピピピピピ!!!
突然、無気力レーダーが鳴った。


ー14ー

僕らはレーダーの反応する先へと向かった。
レーダーの示した先では、学生服を来た不良っぽい男が、ウンコ座りしてタバコを吸っている。

「確かにやる気なさそうだ…」
そう思いながら近づくと、相手の方から話しかけてきた。
「ああん?ナンダよ、あんたらは」と、学生服。
「君は学生かい?」
「ああ、そうだよ!なんか文句アンのか!」
「いや、文句っていうか…」
「あなた、こんな時間に何やってるの?学校は?」
リンが口をはさむ。
「アアン?そんなものフケたよ。カッタリイ」
「ダメねえ…そんなやる気のないコトじゃ」
「ナンダよ、テメエらは!いきなり現れて説教しやがって!さては、センコウか!」
「僕らは無気力な人間を探して、気力を与えて回っているんだ」
それから、僕は彼に僕らの軍隊の主旨を説明し、連絡先を書いた名刺を渡してやった。学校で勉強する気はなさそうだが、えらく威勢のいい男だった。

そうして、僕らは無気力レーダーを頼りに別の仲間を探そうとしたのだが、その日はもうそれっきり。レーダーはウンともスンとも反応しなかった。

ただ…
僕もリンも、そんなに期待はしていなかったのだが…
数日後、学生服の彼とは再び出会うことになる。


ー15ー

基地に帰ると、大木さんが僕を手招きで呼んだ。
「おかえりなさい。待っていたんですよ」
「何かあったんですか?」
「実は、私、前にいた会社で電子機器の開発を行なっていたんです。で、今回、無気力レーダーを研究させてもらったんですけど…」
「それで、何かわかったんですか?」
「ええ、これを見てください」
そう言って、大木さんは、なにやら小型の機械を見せてくれた。
「無気力レーダーを元に作った『気力反応レーダー』です。基本的な構造は同じです。ただ、エネルギーの流れを逆にしただけですから」
気力反応レーダーの使い方を、大木さんが教えてくれる。
「使い方自体は、無気力レーダーと同じです。ただ…」
「ただ?」
「近くに、やる気のある人がいると、すぐにそれに反応してしまうのです。ですから、わざと、感度を鈍くしてみたのですが…それでも、一番気力の強い人に反応してしまう性質自体は変えられません」
「一番気力の高い人って、たとえば、僕とかリンとか?」
「そうです。ですから、現行のままではあまり役には立たないと思われます」
「な~んだ。役に立たないんだ…」
「しかし、研究を重ねて、今に実戦投入できるレベルにまで持っていって見せますよ」
「わかりました!期待していますよ。がんばってください!」
そうして、僕は大木さんから、あまり役には立たないと言われた試作品の機械を受け取った。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。