人という生き物は、慣れてくると増長し始める

「世界を変える戦い」も半分を過ぎた頃、この辺りから段々とおかしくなってきます。40日近くあった、あの人との半共同生活も20日を過ぎ、青年も慣れてきてしまったのです。

人ってのは愚かな生き物ですよ。「やってくれるのが当たり前」になってくると、やってくれないと不満を持つようになり、「もっと!もっと!」と欲張るようになってしまうのです。

最初は、あの人がご飯を作ってくれるのがうれしくてうれしくてたまりませんでした!お皿だって洗ってくれるんです。しかも、青年の家の台所は水しか出ません。給湯器がついていなかったからです。

なので、いつも青年はヤカンでお湯を沸かしてから、お皿を洗うようにしていました。でも、どういうわけだかわかりませんが、彼女はその行為をかたくなに断るのです。

「いいから!私にまかせて!」と言って、水でお皿を洗い続けます。季節はまだ3月の上旬。水は身を切るような冷たさです。

「そんなコトをしたら、手が荒れるんじゃないの?」と思っていても、彼女は意地でも冷たい水でお皿を洗い続けます。そういうところも朝ドラのヒロイン気質なのです。

最初は青年も手伝おうとしました。でも、「役割分担だから」とあの人に言われて、妙に納得してしまい、台所作業は全部彼女にまかせることに決めました。

それ自体は悪くなかったのかもしれません。でも、段々とそれが当たり前になり、青年は普段自分が使う食器さえも洗わなくなっていきます。それどころか部屋の掃除もろくすっぽしなくなり、徐々にホコリや髪の毛が積もっていくようになりました。

その上「ああ~あ、部屋の掃除もやってくれればいいのにな。気が利かないな~」などと思うようになってしまったのです。


ある時、こんなコトがありました。

「身体にいいから!」と言って、あの人が大きな柑橘類の果物をいくつか持ってきてくれたのです。

あの人は、よくそういうコトをしてくれました。自分が好きなもの(和菓子屋さんの豆大福、駅前で売っていたサーターアンダギーという沖縄のお菓子など)をわざわざ買ってきてくれたりするのです。

でも、今回は柑橘類でした。大きなミカンみたいな果物。はっさくとかオレンジとかそういう類の。包丁で切らないと食べられないんです。なので、めんどくさくなってそのまま何日も放置してしまいました。

今回も偉そうに「もう!包丁で切らないといけないんだから、切ってお皿に盛って出してくれればいいのに!そしたら、美味しく食べるのに!」などと考えてしまっていたのです。

そして、いくつか持ってきてくれた果物の内、2つほどを浜田君がもって帰りました。彼女は、そのコトをたいそう喜びました。

何日も経って台所に放置されたままの柑橘類は、どんどんしなびていきます。「このままだと、どうせ食べないな」と思った青年は、そのままゴミ袋に入れてしまいました。きっと、彼女はその姿を見てとても悲しんだでしょう。

普段の青年なら、決してそんなコトはしなかったはず。でも、この頃にはもはや頭が回らなくなりつつあったんです。

毎日毎日あの人はやって来て心が休まる暇もないし。スケジュールは常にイベントでいっぱい。大好きなゲームセンターにも行けません。その上、浜田君は家に来ても寝ているだけだし、青年が立てた企画にはいちいち口を出すようになっていました。何を提案しても文句ばかりつけるのです。

1つ1つはたいしたコトありません。でも、いくつもの悩みが同時に襲ってくると、人は混乱してしまうのです。そうして、疲れ果て、やる気を失い、せっかくあの人が来てくれているというのに畳に横になるようになってしまい、その時間はどんどん増えていきました。

青年自体が浜田君化し始めたのです!

そして、青年は増長し、あの人がご飯を作ってくれたり冷たい水でお皿を洗うのが当たり前になり、あまつさえ「部屋やトイレの掃除もしてくれないかな~?」などと思うようになっていったのでした。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。