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そうだ アメリカ、行こう。

舞台「苦悩教室」は、一応の成功に終わりました。けれども、一番見て欲しかった人にまともに見てもらえなかったコトで、青年は失意のドン底へと落ちていきます。

さらに、本来持っていなかった能力を無理やりに発揮してしまったため、次の1年間は何もやる気が起きませんでした。「大きな力には、大きな代償がつきまとう」のです。

毎日毎日、人並み以上に何時間も寝るのですが、全然疲労が回復しません。心も体も疲れ果ててしまっており、疲労感が抜けることはありませんでした。


…とはいえ、得たモノが大きかったことも、また確か。

少年時代より「究極の作家」を目指してきたのに、ずっと口ばかりで、まともに小説1つ書き上げたことのなかった青年が、みんなの力を借りながらとは言え「苦悩教室」という演劇のシナリオを生み出したのです。

これは、長編小説1本を完成させたに等しい経験となりました。


もう1つ。少年時代に見た夢。

「『魔界の王』が、なぜアレだけ絶大な力を持ちながら、仲間を必要としたのか?」

ついに、その答えを得たのです。

ここでまた1つ、チェックポイントを通過したことになります。

※この時の疑問


「なるほど。何かを破壊するのは簡単だ。それは1人でもできる。けれども、何かを創造するのはとてつもなく難しい。世の中には1人ではできないコトがあるのだ。だから、仲間が必要だったんだ」

「苦悩教室」での経験は、そのような教訓を与えてくれました。

たとえば、歴史的遺産を爆弾でこっぱみじんに破壊するのは一瞬です。でも、巨大な建築物を完成させるためには「大勢の人々」と「莫大な資金や資材」「膨大な時間」を要します。

「きっと、あそこも1つの魔界だったのだろう…」

青年は、あの頃の体験を思い出しながら、そんな風に考えるのでした。

         *

疲労感の抜けないまま、うつらうつらとしながら、青年は半分夢の世界で暮らします。この時に1匹の蝶を生み出しました。まるで荘子の「胡蝶の夢」のごとく。

最初、それは紫色の蝶でした。でも、それが本格的に活動し始めるのは、まだ先のお話。詳しくは、いずれ未来で語ることといたしましょう。


それよりも、今は過去を回想するべき時。

青年は、これまでの体験を思い出しながら、自らのたどってきた道を反芻(はんすう)します。

11歳の時に地獄の底に叩き落され、修羅や鬼たちとの戦いに明け暮れた日々。

地獄を脱するために、自らが地獄の鬼たちを統べる「魔界の王」を目指したこと。「世界最高の作家」そして「理想の女性」

その理想の女性に出会い、「世界を変える戦い」と称して40日近くも半分一緒に暮らし、あそこまで接近しておきながら、結局は人生を添い遂げることができずじまい。

「一体、どのルートを通れば、正解にたどり着くことができたのだろうか?」

青年は、そればかり考えて暮らすようになります。

「あそこで別の選択をしていれば、全く違った人生を歩むことができていたのではないだろうか?」

何度も何度もそんな風に考えるのですが、どこで選択を変えようとも、結局どこかが欠けてしまうのです。

たとえば、高校生の時に我慢して受験勉強を続けていれば、トラックの荷台に乗って東京にやって来ることもなかったでしょうし、ボランティアに参加することもなかったはず。当然、彼女に出会うことすらありませんでした。

もっとフツーに恋をして、みんながやるように一緒に映画に行ったり遊園地や水族館に行ったり、お決まりのデートコースを楽しんでいれば、恋愛は成就したかもしれません。

でも、そうすると劇団を旗揚げすることもなければ、「苦悩教室」を上演することもなかったでしょう。「究極の作家」への道は閉ざされ、いつまでも「作家になりたい」という夢を語るだけの口だけ人間で終わってしまっていたはず。

何かを満たせば、必ず何かが欠けてしまうのです。世の中、思うようにはいきません。

「何もかも全てを満たすのは無理なのだろうか…」

青年は、1人部屋の中でそんな風につぶやきました。

それから、1つの経験を思い出します。

「そういえば。アメリカに行ったコトもあったな…」

半年ほど前。舞台の台本も執筆の途中で、練習も本格化してきた時期に、3人でアメリカに行ったことがありました。「青年」と「弟」と「友人」の3人です。

ここから先は、その時のコトを語るといたしましょう。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。