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「僕の改革 世界の改革」 第30夜(第5幕 プロローグ ~ 5)

ープロローグー

全てを失った僕に、もはや迷いなどなかった。ただ目的を果たすだけだ。この世界に『改革』をもたらすという目的を…

そのためには何を犠牲にしたって構いはしない。どうせ失う物などもう何もないのだから。


ー1ー

僕は僕の街の僕らの基地に帰って来ると、ガムシャラになって働いた。それまでの休暇の分を取り戻すかのように。
起きている時も寝ている時も『改革』の2文字が頭の中に刻み込まれて消えなかった。

そんな生活が何日か続くと、リンに対する想いも薄れていった。
何週間か過ぎると、誰に対してどんな感情を持っていたかすら思い出せないようになっていた。
何ヶ月か経った頃には、記憶すらなくなりかけていた。

全ては記号化しつつあった。
『リン』とか『シノザキ博士』というような言葉を耳にしても、そこになんの感情も抱けはしないのだ。
意味はわかる。意味はわかるけど。それがどのようなモノか説明することはできるけど。でも、あたたかさとか冷たさとか、幸せだったり心が痛んだり…そういった感情が全く湧き上がって来ないのだ。それは、もはや辞書に明記されている単語と同じだ。いや、それ以下だろう。

不思議な感覚だった…
それまで自分のコトで精一杯だった僕が、今度は他人のコトに全力を尽くしている。まるで、自分とは全く違う別の人間になったかのようだ。個人的感情なんて心の中から消滅しまったのかも知れない。


ー2ー

突然、心の底に声が響く。
『だから言ったろう。遠回りはやめておけ…と』
例の声だ。
『最初からムダだというコトはわかっていたはずだ』

僕は、心の声に反発する。
「ムダなんかじゃなかったさ」
『ムダだよ。人ひとりの感情などというモノは。現に今、思い出せもしないだろう。あの頃の感情を』
「それは…」
『もっとも、遠回りするコトも成長の1つではあるがな』
「そうだよ。アレは必要な遠回りだったんだよ」
『理解しているならいい。それよりも、早く進むコトだな』
「進んでいるさ。精一杯やっている」
『そうだな。まあ、よくやっている。ボチボチ予定通りだ』
「予定通り?」
『そうだ。予定通りだ。世界はあらかじめ決められた流れに従って動いているのだ』
「流れ?」
『細かいコトは決められんがな。大きな流れは誰にも変えられん。それが世界というモノだ』
「改革…たとえば、僕が世界に改革をもたらすというのも?それも、決められた流れなの?」
『そうだ。それは、この世界で最も大きな流れの1つだ。それは決めれたコトなのだ。予定調和というヤツだな』
「予定調和…」
『早く改革を終わらせるんだな。そして、早く帰って来い。我々のもとに』
そう言って、声は消えた。

あの声はなんなのだろう…
『予定調和』『決められたコト』『改革』『世界の改革』
全ては最初から決められたコトなのだろうか?それは決して変えられないコト?
僕はやはり人形師に操られる操り人形に過ぎないのだろうか…


ー3ー

『世界改革連合』
それが、僕らの所属する組織の正式名称となった。
僕は名前屋から買った『革命家ポルトーテス』の名を掲げ、改革を進めていく。
「世界から無気力を排除せよ!この世界に気力を満たせ!!」
そんなスローガンまで唱えられるようになった。

何年もの時が、瞬く間に過ぎて行く。
これまで影の存在であった僕らの組織は、知名度も増し、活動範囲も全国規模ヘと広がっていった。
時と共に組織は大きくなっていき、参加するメンバーも増えていく。資金はどこからともなく集まり、名実共に文句のつけられないほど組織は肥大化していった。


ー4ー

そういえば、いつだったか忘れたが、仕事で『並木さやか』に会った。
でも、それは『彼女』ではなかった。同じ姿をしていたけれど、中身は全くの別物とういう感じだった。僕にはわかった。でも、みんなにはわからないようだった。なぜだろう?
まあ、どちらでもよいコトだ。どうせ僕にはもう関係がない。


ー5ー

ある時テレビをつけると、画面には首相が映っていた。
相も変わらず実現しない改革論ばかりを並べ立てている。
この数年、首相も内閣も官僚も何度となく入れ替わったが、やっているコトはほとんど同じだった。
「これではな…」と、僕はひとり呟く。

これでは何も変わらない…
さすがに、それは誰の目から見ても明らかになっていた。

昔は政府や政治家の言うコトに耳を傾ける人々もいたが、何年経っても変わらない国の政策に、ほとんどの民衆は半ばあきらめかけた状態だった。誰が何をやっても変わらない。それでは、誰もがあきらめたくなるというものだ。

それどころか、課せられる税金は増々重くなっていく。
一体、何に使っているのかわからないお金が増えていく一方で、政府の収入は減っていくばかりだった。
そこで、やむなしに増税。企業も自社の利益を確保する為に仕方なくリストラ。失業者に新たな就職先は見つからない。
全てが悪循環であった。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。