ショートショート　１億円の低カロリー

　打者が勢いよくバットを振り抜いて、白球が宙を飛ぶ。ファースト、セカンド、センター。諦め笑いの守備陣の遥か上。叫び声を上げる観客席よりも高く。ドームの天井が見えて、天井に掲げられた水着の女の看板に当たる。『ここ、何と１億円（なのにビールは低カロリー）』。

　バブル世代の品のないキャッチコピー（あの看板の広告料が１億円なんだってさ。）の看板に使われたお陰で、知らない人にも「１億円の低カロリー」って指さされる人生だ。アレにあたったホームランは１回だけ。だから何度も忘れた頃に流れては指差される。とっくにモデルなんて引退して400万（年収）の高カロリー（見た目）だってのに。

　居酒屋で久しぶりにあの嫌な呼び名を聞いた。睨みつけようとしたら、あたしじゃなかった。男の人。見たことある。ホームラン打った人だ。もの凄く嫌な顔していて、吹き出しちゃった。立ち上がった。話したかった。二人あわせて２億円。ハイカロリーに悪口と行こうよ。

ショートショート　No.130

ショートショートnote杯参加作です
※複数回参加予定です。現在２作目。