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140字小説集 調べても調べても(12月のまねきねこ座)

 Twitterで毎月開催されている140字小説コンテスト「月々の星々」に参加しています。12月の文字は「調」。本文のどこかに「調」の漢字をいれます。応募数はひとり5本まで。12月の星々の参加記録です。

no.1

旅先では地図アプリに頼りきりだ。名所も食事もお土産も予定通り。ホテルまであと少しでスマホの電池が切れた。記憶を頼りに歩く。案の定迷う。へとへとになって喫茶店でカフェオレを頼む。事情を聞いた店の人が笑顔で電源を貸してくれる。道を調べようとして、やめる。いいか。もう少し迷ったままで。

「調べ(ない)」
 方向音痴のため、どこにいくにも地図アプリが必須です。地図しかなかった時期には、まず地図を入手し、出発駅と目的地を結ぶ最も単純で大きな道に色を塗り、そこまでやってなお、180度逆を歩いていた、なんてことが何度もありました。
 地図アプリを入手した後も、途中でスマホ本体を落としたり、目的地自体が移転してまったく別の場所にあったり、応募作のように電池が切れたりして、まともに辿り着ける確率は50%ぐらいです。だから、「迷った時にどうするべきか」のスキルだけは非常に高く、しょっちゅう道を教えられながら生きています。ごくたまに、普通に辿り着ける日もあります。でも、なんとなくそんな時はもの足りないです。特に旅行先はそうですね。もう少し迷っていたかったな、という日もあります。痩せ我慢かもしれませんが。


no.2

「ああもう!」閲覧机で子供がひとり声を上げた。「調べても調べても分かんないことばっかり!」冬休みの宿題だろうか。調べ物なら手伝いますよと声をかける。話を聞いてあたりをつける。数冊紹介したら目を輝かせた。司書の仕事で一番好きな瞬間だ。本当に、調べても調べても、分からないことばかり。

「調べても調べても」
 昔から調べ物が好きな人間です。実用に役立ちそうにないことばかり知っています。大きくなって気づいたけれど、調べ物が嫌いな人もいます。答えがないの嫌みたいです。答えがないから面白い、と私は思う。おたく気質なんでしょう。大抵のことに答えなんてないのに。だからずっと調べて、考えていたい。本当に、調べても調べても、分からないことばかり。


no.3

朝から娘が落ち着かない。髪をツヤツヤさせて「友達のとこ行ってくる」という。見送る。部屋の掃除をし、買い物を済ませ、トンカツを揚げた。夕方娘が頬を染めて帰宅した。夕飯を見て言う。「カツ丼?」頷いて向かいに座る。「取り調べ室みたい」「そう。調べはついてる。白状なさい、今日のデートを」

「取調室」
 年頃の娘さんがいらっしゃる方の話を聞いていると、娘さんの恋愛ごとを事細かにご存じの方(気軽に話す方)から、なんか隠されっちゃてる方まで、幅広いです。お父さんかお母さんかで関心のあり方も違いますね。恋バナ好きのお母さんが娘さんの恋バナをあれこれ話すのはなんか微笑ましいです。恋愛の先輩として指導したいこともたくさんあるらしい。なんか微笑ましくてニコニコしてしまいます。(大人すぎて聞いてるこちらが赤面しちゃうようなのもたまにあるけどね)


no.4

家族揃って年末の歌番組を見る。流行りの歌と、いつもの歌。まだ小さな姪が「これ知ってる!」と言って歌い出す。随分古い歌謡曲だ。音程が酷く外れていた。不思議に思って聞くと「おばあちゃんに習った」と得意げに言う。台所からそばを茹る母の鼻歌が聞こえてきた。姪の歌そっくりの、調子っ外れで。

「調子っぱずれ」
 音痴です。遺伝だと思います。
 「自分があっているかどうか分からない」類の音痴で、歌っていて音が外れていても平気です。誰かに指摘されないと分からない。
 歌自体は好きなので、家事をしながら歌っていたりします。これもたぶん遺伝(相伝?)。母親のくせです。皿洗いの手伝いをしながら母の歌を真似していると、音痴が音痴の歌の真似をして、なんともいえない新しい歌が出来上がります。家族だけの歌です。

no.5

旅のお土産に調味料を買う。読めない文字にどきどきしながら、何度もガイドブックと見比べる。トランクの奥に閉まって漏れ出さないかひやひや。帰って宝物みたいに台所に飾る。ちょっと変な匂い。買った時は気が付かなかったのに。いつもの料理に少し足してみる。一口食べて思い出す。遠い地のこと。

 旅行先でお土産に調味料を買うことがよくあります。お味噌とか醤油とか。不思議と、帰宅した後の方が地元との違いに気が付きますね。液体調味料は瓶なので持ち帰る間中冷や汗ものだけど、いつも楽しい。いいお土産です。

 12月の星々のみなさんの前応募作が、こちらから(これは最後の方)読めます。いろんな方が応募していらっしゃいますので、140字小説にご興味ある方はぜひご覧ください。