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待ち合わせ場所はスマホの中で


うちの家族はどうやら一般的な家庭よりだいぶあっさりした関係のようだ。

福岡、神戸、東京とバラバラに場所に暮らす家族と会うのは年に1度の正月くらい。それ以外の日々の暮らしのなかで連絡をすることはほとんどない。帰省する時と親族の冠婚葬祭くらい。まわりの人に言ったらびっくりされたことが何度かある。

過去の記憶をたどって結婚してた時の奥さんや、今まで付き合ってきた彼女の家族との関わりと比べると、わが家はコミュニケーション量が圧倒的に少ない。

仲がわるいとかではなくそれがうちのデフォルト。1年のうちで一緒に過ごす時間も短ければ連絡も取らないけど帰省して会えば普通に話すし、酒も一緒に飲む。両親とぼくと弟と妹みんな音楽が好きで食べ物にはうるさいことも共通している。ずっと一緒にいるとたぶんお互いイライラするんだろうけど、なんだかんだでぼくは家族が好きだ。

ぼくの青春時代は不良の道には進まなかったもののやさぐれていたから、当時は家族なんて正直めんどくさいと思っていた。だからずっと家族が好きというより歳を重ねて気持ちに変化が出てきたという感覚。そんなこんなで、18歳で家を出てからというのも20年この距離感のスタイルで家族と過ごしてきた。


.....だったんだけど、コロナになって家族との関わりの風向きは変わってきた。

オンライン化の波は世界のあるゆる仕事を変えてしまったように、うちの家族の関係性にもスルリと入り込んできた。


オンライン飲み会というやつだ。

ある日突然、家族LINEに「なんか今流行ってるらしいからオンライン飲み会やってみる?」というLINEが流れた。

関係性はあっさりしているがノリの良いわが家は秒速で「やろう!」ということになり、緊急事態宣言が明けた頃に第1回家族オンラインZOOM飲み会が開かれることになった。


ぼくの仕事はSNSマーケティングなので、仕事柄ここ2年くらいは毎日のように打ち合わせにZOOMを使いオンライン飲み会もたくさんしてきた。一方ぼく以外の家族はコロナによるZOOMデビュー組。

「ZOOMどうやるの?」

「URL送ればいいの?」

と親と兄弟の間で流れるLINEのやり取りを見ながら、なんとかなるやろと思ってるぼくは何も言わずに静観していた。まぁいちいち教えるのがめんどくさかっただけなんだけど......


迎えた第1回家族オンライン飲み会当日。多少ジタバタはしたが65歳を過ぎた両親も無事にZOOMデビューを果たした。両親と弟夫婦と子ども、妹夫婦とぼくで画面越しに乾杯した。

「へ〜これがZOOMなのか、、、」

「バーチャル背景すごい〜〜〜!」

「何、画面に映せるの?」

とキャピキャピする家族の反応が、ぼくには新鮮でおもしろかった。

ZOOMにひと通り慣れたらお互いの近況やたわいのない話をしながら酒を飲んだ。オンライン飲みはたくさんやってきたが家族とのオンライン飲みはまたいつもとは違った感じでお酒が身体の先へと染み渡っていく。普段やるオンライン飲みは長くなりがちだが家族とのオンライン飲み会はきっちり1時間で閉会した。長すぎない時間が泥酔しないでいれて、飲み会の余韻を感じつつその日残った仕事をパソコンとにらめっこしながらダラダラとこなすのが心地いい。


それから2〜3ヶ月に一度の頻度で家族オンライン飲み会が開かれ、オンライン飲み会はわが家の定番イベントへと昇格した。

何100キロと離れているのに家族がスマホ1つで簡単に繋がる、よく考えたらすごい奇跡。ぼくの子どもの頃だったら考えられないこと。

世界は分断されたけどぼくの家族はオンラインでつながった。スマホの中に家族の再会場所ができた。片手に収まるほどの小さくて無機質なデバイスにぼくはあたたかなものを届けてもらいながら今日もまたビール片手にZOOMを繋げる。



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