刑務所への出張
少年院は,法務省矯正局が管理する施設。
少年鑑別所や刑務所と同じ「矯正施設」というくくりだ。
刑務官
法務技官
法務教官
これらの法務省矯正局所属の職員のことを俗に「矯正職員」と呼び,合同で研修を行うこともある。
護身術や逃走などを想定した訓練では,刑務官の方に少年院まで来ていただいてご指導いただくことが多いけれど…
反対に,法務教官が刑務所に出向いて,受刑者への教育活動のお手伝いをさせていただくこともある。
僕も一度,担当させてもらった。
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法務教官が刑務所で教育指導のお手伝いをさせていただく場合,その内容は刑務所ごとに違っていて,正直僕も詳しくはないけれど…
僕の場合は,普通に勉強を教える担当でした。
当然,平日の日中に授業を行うので…全員が受けられるわけではなく,希望した人の中から特に許可された数名(僕の時は6名だったかな…)が刑務作業を抜けて授業を受けに来る。
内容は義務教育から高卒認定試験レベルで,教材の指定は特にない。
指定された教科の参考資料を持参し,授業前に担当の刑務官の人にコピーしていただいて,90分くらい授業をした。
僕が担当した時の受講者は20代から70代。
受講態度はとてもよくて,刑務官の立ち会いもない教室で,6人の受刑者と僕だけで勉強する。
教室の中にトイレがついていて,時々,きれいな挙手で用便を申し出て小便をする人はいたけれど…基本的には和やかで,時々休憩を挟むとそれぞれの少年院での経験などを教えてくれた。…ほとんどの人は少年院に何度も入っていたと思う。
法務教官をしている僕よりも,少年院に詳しいんじゃないかと思う人もいた。
そんな人達が,中学校の教科書とかのコピーを使って,真面目に授業を受けている。
『すばらしき世界』という映画が大変話題を読んでいるけれど,刑務所の塀の中にはほんとに,いろんな人がいた。
彼らがどんな罪を犯し,被害者がどうなっているのかもろくにわからないまま僕は授業をしていたけれど…
教室の静かで和やかな授業風景だけを映像で流せば,夜間中学みたいなもんで,まさか刑務所だとは気づかないかもしれない。刺青が入ってるのが多数派であることを除けば,見た目には普通の授業風景だ。
僕は,少年院でやるのと同じように,時に冗談や小話を挟みながら,楽しく学びあった。
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映画の中でも描かれていたけれど…受刑者の人たちは,塀の中で実に自然な笑顔を見せる。
朝鮮戦争を取り上げたとき,まさにその時代を生きていた受刑者の人から当時の経験を話してもらったのは,ほんとに貴重な体験だった。あんなことはなかなか学校ではできない。
僕が接したのは特別に許可が出る…つまり模範的な人なのだから,それが全員ではないことくらいわかっているけれど…でも,「普通の人たちなんだけどなぁ…」と思ったりもした。
それとおんなじことを,少年院に来た外部の人たちも思うのだろう。
ゲストスピーカーや行事の参観で少年院を訪れた人たちの多くは,熱心に話を聞いて積極的に質問したり,仲間と協力して行事に打ち込む彼らの姿を見て,「普通の高校生みたいなのにね」と口々に言う。
どうせ教官が見てるから真面目なフリしてるんだろ…と思う人もいるだろう。確かにそういう人もいなくはない。
けれど…
日々彼らと向き合い,彼らの日記や作文を読んできた僕としては,大半の子が本気でゲストの話を聞き,行事に打ち込んでいたと思う。少なくともその瞬間,「普通の高校生みたい」だったのは事実だ。
だからきっと,刑務所で接した彼らも同じなのだろう。少なくともあの瞬間は,普通の中学生や高校生みたいに勉強していたし,普通の中高生にはない経験を,本気で僕に語ってくれたと思う。
ほんの1年…
月に1回ずつ刑務所を訪れて,極めて一部の受刑者に少し勉強を教えたくらいでわかったようなことを言うつもりはない。
刑務所では日々…刑務官の方々の,僕らとは比べ物にならないほどの緊張感の中での勤務が続いている。
あの空気感を文字で伝える技量は,今の僕にはまだない。
ほんの少しだけど,刑務所の中に仕事として足を踏み入れた…そのことは僕の中でも大事な経験として記憶されている。
刑務官のみなさん,この国の治安の最重要の基盤を支えるお仕事…いつもありがとうございます。
へいなか
放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。