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面接

法務教官の基本で奥義…
それが面接。

少年の話にじっくりと耳を傾け,
彼らの言葉の奥にあるものを見出し,
今必要だと思う言葉を紡ぎ出す。

法務教官にとって最もメジャーで最もミステリアスな指導方法が,面接だ。

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基本的には1対1。
個室で行われる。

少年院は集団生活で,少年たちは互いの年齢や地元,非行の中身などを明かさずに生活している。ほかの人には聞かれたくない話や,聞かせてはいけない話も少なくない。

でも

自分の生き方を見つめ直し,今後の自分の在り方をきちんと考えるには,自分一人の力では限界があるし…

そもそも集団生活自体,うまく適応できない場合も少なくない。

だから現場の教官たちは積極的に面接をする。

生い立ちの話
異性や交友関係の話
非行と出院後の生活の話

そして

集団生活におけるストレスや悩みなど…面接の話題は多岐に渡る。

多くの少年たちは感情統制もそこまで取れていないので,面接は時に癒やしの場,精神安定の場にもなる。

大抵,どこの少年院にも「精神安定的な面接」の達人がいて,心情を乱して今にも暴れそうな子が,その先生と個室に入るとわずか数分で穏やかな顔になってたりもするものだ。

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当然,法務教官は面接の技法も学ぶわけだけれど…

いくら技法を学んだって,結局…目の前の人の人生をどう捉えるか,というこちら側の哲学も問われる場面なので,面接の手法は人それぞれ。

とにかくじっくり耳を傾け,毎週のように担任と面接する人もいれば…

ほとんど面接せず,珍しく面接したと思ったらあっという間に終わる人もいる。

もちろん常にそれしかやらないというわけではなく,相手の状況によっても変えているし…その「面接の使い分け方」こそが,その人のスタイルや技量そのものだったりもする。

ただ,基本的には…

彼らの内面を知り,課題を見出し,院内での生活状況や出院後の生活に対して的確な指導・助言を行うのが面接の役目なのだろうと思う。

また

じっくりと話を聞き,誠実に向き合うことで,信頼関係を構築することも大事なことだ。

職業指導や体育も,信頼関係のある先生だからこそ,彼らは熱心に取り組んでくれる。

そういう意味では,「きちんと時間をかける」ということも,中身以前の技術の1つなのかもしれない。多くの先生は,座る位置や座り方にもスタイルを持っている。

いずれにしろ…

全国どこの少年院に行ったって,個別面接を軽視する施設はないだろうと思う。

法務教官の基本で奥義だ。

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面接がミステリアスなのは「他の教官の面接」を見る機会がほとんどないからだ。

少年院の教官はそれなりに忙しい。少年と面接できる時間もそう多くはない。だから現場の先生方は,いろんな仕事や日課のすき間を縫うようにして面接している。

また

そもそも1対1だから安心して話せるものを,別の教官がそこにいたら2対1になってしまう。

面接というのは,基本でありながら,なかなか習熟が難しい技術でもあるのだ。

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僕は時々,人の面接を盗み聞きしていた。

個室で面接してるのを窓の外からこっそり聞いたり,カーテンの向こう側で静かに座ってたこともある。

人の面接を盗み聞きするのはよくないかもしれないが…そうやって先輩の面接に触れて勉強になったことはたくさんあった。

社会人になればカンニングも正義。カンニングするチャンスは,なければ自分で作るしかない。

何度か…後輩をあえてカーテンの向こうに待機させたまま面接を始めたこともある。自分の面接を聞いてもらうためだ。

面接はやっぱり,習熟が難しい。

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さて,そんな基本で奥義の面接だけれど…

僕のは少し趣がちがう。
もちろん個室で1対1が基本だけど…
結構な割合でこんなこともやった。

①あえてみんなにも聞こえるところで面接
②2,3名の生徒を同時に面接
③オセロ

少年院は集団生活。
だから共同で使うスペースもある。

そこで面接する。

しかも他の人が静かに勉強してる時間に。

すると当然…

僕と面接されてる生徒の話を,ほかの人も聞くことになる。

もちろん個人情報などはお互いに伏せて,配慮しながら喋ってるけど…そういう時の面接は,最初から狙いの半分を他の生徒に向けている。

例えば

・多くの生徒に共通している課題への指導
・集団に馴染めていない人の現状の共有
・集団全体に対する僕の期待や希望 etc…

目の前の一人に話しているという体で,実はみんなに聞かせるために話している。

常にできることではないけれど,こういう手法を,僕はわりと多用する。

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オセロはもっとおもしろい。

とりあえず普通にオセロする。
んで,大抵圧勝する。
しかもあっという間に。

でも,

目的は勝つことではなく…
観察と分析だ。

手筋,情勢把握のスピード,劣勢時の反応など…オセロ1局でその人のいろんな面が見えてくる。

少年院でオセロなんて彼らは予測もしていないし,大抵は本気で勝ちにくるから「雑念を忘れる」というマインドフルネス的な効果も期待できる。

もちろん…

圧勝することによって健全な遊びでマウンティングすることも,目的の1つではあるけれど。

これが生徒たちにとってただの遊びで終わらないのは…終局後の検討中に,僕から思考回路や過去の失敗を言い当てられたりするからだ。

集団寮のど真ん中でオセロを始めても「遊びなら俺にもやらせてくださいよ!」と少年たちが殺到してくることはない。

過去に対局した多くの子たちが「これはただのオセロではない」とわかっているからだ。

むしろ…

対局前から「俺強いですよ」なんていきがってる人を見ると,多くの”先輩”たちが「あ〜この人も15分後には青ざめてるだろうな」なんて思いながら笑いを噛み殺して静かに様子を伺ってる。

オセロを面接に持ち込んだ当初,そんなことやってるのは職場で僕だけだったけれど,少しずつ真似する後輩が出てきておもしろかった。

さすがに1人で3人同時に相手にするような荒業をやってたのは僕だけだったけども…。

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なんにせよ…

少年院の矯正教育の根幹は,面接にある。

人との結びつきをきちんと育むことができなかった多くの非行少年にとって…面接してくれる職員は,時に親よりも信頼できる存在になる。

面接中に誰にも言ったことのない葛藤を口にして涙を流す人もいる。面接で受けた指導を自らノートに書き留めて読み返している人もいる。

非行少年の自己改善の基盤は法務教官との信頼関係にあり…その信頼関係は,きめ細やかな面接から生まれることが多い。

面接は,法務教官の基本で奥義だ。

放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。