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正しさで傷つける大人。

正しい言葉が
丁寧な言葉が…
常に適切とは限らない。

僕は昔からそう考えている。むしろ…適切で丁寧な言葉が、子どもを傷つけたり、伸びしろを奪うことすらある。

週末のセミナーではきっと、そういう話もすることになる。

少年院でこんなことがあった。

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手に刺青の入った少年。月一で実施している篤志面接委員(外部のボランティア)との面接を終え、寮に戻ってきたが、めずらしく表情が暗い。すぐに声をかけて事情を尋ねると、面接で刺青のことが話題になり、それでヘコんでしまったとのこと。

詳しく面接の内容を尋ねる。
委員はこんなことを言ったという。

君は手に刺青が入っているね。わかってると思うけどそれはとても目立つ。仕事するにも困るだろう。…どうするつもりなんだい?

話を聴きながら僕は「ほらな」と思いました。「正しくて丁寧な言葉が傷つけることもあるじゃねぇか」と。

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教育の現場で指導者が子どもの身体的な特徴を話題にするのは基本的にNGだ。それは少年院も例外ではなく「デブ」「ちび」などは禁句。必然的に彼らの多くが入れている刺青も、あつかいの難しいものになる。

刺青は簡単に消えるものではなく、また自然発生するものでもないため、身体的特徴であると同時に個人情報にもなる。テレビなどに少年院や刑務所の中の人が映る時、手などにモザイクをかけることがあるのはそういう事情だ。刺青から個人を推測することができる…ということ。

しかし

刺青が就労などの障壁になるのも事実であり、また反社会的な人から接触されやすくなるため、出院後の生活のためには「刺青をどうするか」も重要な指導項目のひとつ。

つまり刺青は「ちび」や「デブ」以上にあつかいが難しい身体的特徴でありながら、触れないわけにもいかない大事な話題なのだ。

当然、「イジる」のではなく丁寧かつ誠実に話題にしていく必要がある。…基本的には。

その点、先に紹介した篤志面接委員の話しぶりはまったく間違ってない。誠実に向き合い、穏やかに会話する中で真剣に話題にした。ところがそれが、その子の心に大きなプレッシャーをかけた。

あまりにも真剣にきかれて、答えに窮したからだ。

声をかけた僕に対する彼の言葉はじつに印象的だった。

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放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。