マガジンのカバー画像

25
運営しているクリエイター

2016年6月の記事一覧

ゆれ続ける

流れ去る景色に滲んだ背骨を縛られて
やがて肉体に対する嫌悪は怒りに変わり
時間は輪郭を持たない影たちに付き添われ
暗い瞳で硝子に映る見知らぬ顔を覗き込む

部屋

いってきますと
後に残した空白に声をかける
たぶん部屋はいつまでもそのままに
欠けた心の帰りを待ち続ける

読書

窓辺に枕を置いて横たわり
読みかけの開いた頁を胸にのせ
眠るわけでもなく目をつむり
休日の昼の明かりをめくり読む

眠る前に

おやすみなさいと
誰に言うでもなく口に出してみる
すると遠く離れていた眠りが
そっと優しく側に横たわった

柔らかい月

口から零れた昨日の私を拾い集めて
ひと欠片ずつそっと指先で繋ぎ合わせる
繰り返し行われてきたささやかな儀式は
足元に積み重なってゆく幾つもの体と共に
見慣れた顔を過ぎ去った輪郭の裡に失くし
組み上がった歪な姿に乾いた声を聞く
恐れは消え覆う土の温かい静けさだけが
閉じた瞼を柔らかい月に向かって開かせる

坂道

足元に広がる空に向かって
水底の小石の中を落ちていく
体は月明かりにはためいて
暗い水面は澄んだまま
僕の重さに流れる風が驚いた