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カブの旅 第8話「亘理へツーリング②」

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 さて、気を取り直して(なぜ気を取り直す必要があるのかについては、「亘理へツーリング①」をご参照下さい)。

 国道10号線は荒浜辺りを通る海沿いの道だ。松島に行った時の野蒜海岸付近もそうだけど、宮城の海岸はまだ工事が続いているところが多い。
「……しかし海沿いだからか? 風が強いな」
 おまけに片側一車線で、工事のためかトラックが対向車線をばんばん走っていくので、すれ違うたびに風圧がぶつかり、車体がぐらっと揺れるのでめちゃ怖い。
(体重が軽い私のウィークポイントだな、風は)
「だよなあ」
(スクリーンでも買って付けたらどうだ?)
「考えとくよ……」
 どんなスクリーンがいいかな、と考えたかったけど、強風の中の走行は運転に集中せざるを得ず、僕は背を丸めてひたすら風と戦った。

 名取を過ぎ、仙台空港の下を通るトンネル抜けていく。
 その付近でぬっと離陸する飛行機が視界に入ってきた。圧力を感じるほどの飛行機の近さと大きさに、思わず「おおっ」と声が漏れる。
「こういう時カメラを装備していれば、いい絵が撮れるのにな」
(アクションカメラも買うか?)
「ほんとツーリングすると欲しいものが増えるのな……」
 お財布と相談だ。

  *

 気温5度かつ強風の最中の走行に鼻が凍えてもげそうになりつつも、なんとか亘理に到着。お昼前になっていたので、まずは目的地である『旬魚・鮨の店 あら浜』へ。

 『あら浜』は元々亘理で営業していたが、震災以降は仙台駅前で店を出していた。約2年ほど前に亘理店の営業を再開したようだ(仙台店も継続して営業している)。
 お寿司や海鮮丼など、海鮮料理全般を出しているが、中でも亘理町が発祥の郷土料理『はらこ飯』で有名なお店だ。
 が、はらこ飯は基本的に秋のみなので(春は銀鮭はらこなるものがあるが)、季節柄やっていなかった。この時期は牡蠣飯とほっき飯が季節の丼ものとして提供されていた。
(せっかくだから牡蠣飯にしよう)
「なんでおまえが決めるんだよ。まあいいんだけど」
(なぜって、食べたいからに決まってるだろ)
「いや食べるのは僕だし、そもそもおまえは食べられないだろ」
 バイクなんだし。それともあれか? エンジンオイルの代わりに天ぷら油を入れたら走った的な逸話で、食べられたりするのか?
(もちろん厳密には食べられないが、主の味覚と同期することで味わうことはできる)
「味覚を同期!? そんなこともできんの!?」
(カブは何でもできるぞ)
 ここにまたひとつ伝説が増えてしまった……恐るべしスーパーカブ。
 というわけで僕(とカブ)は牡蠣飯、T氏は小盛りの三種の海鮮丼が楽しめる特選海鮮三種というものを頼んだ。

 ぷりぷりで肉厚な牡蠣ももちろんよかったが、個人的には牡蠣の味が染みこんだお米がとてもおいしかった。

  *

 海が近いのでせっかくだから行ってみた。
 鳥の海なる入り江付近をうろつく。

 快晴の冬の海は空気が引き締まっていて気持ちがいい。
 人はまばらだがちらほらいた。釣りをしている人が多かった。

 亘理荒浜海水浴場の方に来ていたが、入り江の向こう岸なら堤防のもっと先端に行けるようだったので、入り江をぐるっと回ることに。

 その道中に、何やらぽつんと謎の人工的な小山があったので寄ってみた。

 舗装されたスロープがあったので、バイクでぐるぐる回りながら登ってみる。

 すると頂上には何やらベンチらしきものがあった。

 ただの見晴台か? と思いきや、そのベンチらしきものに説明文があった。

 なんと、この中にはここをテントにできる道具が入っているようだ。
 つまりここは緊急避難所だったというわけだ。
(勉強になったな)
「本当だな」
 ふと気になった。
「ところで、おまえは震災の時何してたの?」
(何って、走ってたさ。カブだからな)
「そんなのわかってるよ。どこにいたのかってこと」
(どこでもいいだろう。大事なのは、まだ走れるかどうかじゃないか)
 カブがどこか遠い目をしながら言う(目がどこにあるのかわからないけど、何だかそんな気がした)。
 何か話したくない事情でもあるのかもしれない。察した僕は、それ以上の詮索は野暮だとやめることにした。

 入り江の反対側は、海水浴場ではなくテトラポットがないためか、波が荒々しい。

 堤防の先端までは、ほとんど道とも言えない石ころだらけの荒れ地だったが、バイクでどうにか行けた。
 地図で言うとここ(なぜかiOS純正マップだと堤防が離れ小島のようになっているが、実際はきちんと陸続きだ)。

「よし、写真を撮ろう」
 海をバックにカブを写そうと、カブを堤防の端に移動させる。 
(今回は忘れなかったな)
 前回松島に行った時は、風景ばかりでカブの写真を撮らなかった。バイクごと撮るという習慣がまだなかったのだ。
(かっこよく撮るんだぞ。クールにな)
「写真の撮り方なんて知らないって……まあせいぜいがんばるよ」

 せいぜいがんばった結果、どう見ても釣りに来たカブ野郎の記録写真にしか見えなかった。

 こうして亘理ツーリングは終了した。

  *

 帰りは10号線より若干内陸側の6号線を通って仙台まで戻った。
 そういえば、途中からグーグルマップのタイムライン機能を使って、経路を記録してみたんだった。

 亘理の鳥の海周辺をぐるぐる回ったことがよくわかる。

 あと画像でわかる通り、長町のIKEAに休憩で寄った。IKEAの一階で軽食が食べられるのだが、100円前後でドリンクバーやホットドッグが頼めて休めるので、ツーリングのちょっとした休憩におすすめかもしれない。
 ちなみに流行のサメのぬいぐるみはやっぱり売り切れだった。

その分活字を取り込んで吐き出します。