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カブの旅 第9話「風防」

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「JA07のショートバイザーってないの?」
 亘理へツーリングに行ってから数日後、強風かつ寒風の中の走行に命の危険を感じた僕は、カブに風防を取り付けることを決心した。
(あるはずだがな。ないのか?)
「JA10とかJA44用のはあるんだけど、なぜかJA07用だけ見当たらないんだよなあ」
 Amazonや楽天どころか、メルカリとかにもない。
(ロングスクリーンじゃだめなのか? それなら汎用のがあるだろう)
「いや、さすがにロングはちょっと見た目の許容範囲を超えちゃうというか……」
 車体カラーが緑だったりアイリスオーヤマのリアボックスを付けたりしている時点ですでにおしゃれさの欠片もない状態だったけど、その上ロングスクリーンを付けるのは個人的に許せなかった。
 ……しかし、深夜の自室でMacBookをぽちぽちしながら、バイク(カブ)と会話している(独り言を呟いているようにしか見えない)僕って……客観的に見て大丈夫なのだろうか。もしかしたらこれは放送してはだめなシーンかもしれない。
(だが、ないものは仕方なかろう)
「そうだな。仕方ない、ここは他の型番のものを買おう」
 ポチってAmazonのカートに入れる。
(おい、そんなあっさりと買ってしまって大丈夫か? 互換性あるのか?)
「さあ?」
(主よ……調べてないな?)
「大丈夫だって。同じカブなんだし」
 型によって多少の違いはあるだろうけど、取り付けられない程ではないだろう。
(知らないぞ、私は)
 カブの呆れた声を聞きつつ、購入を確定する。
 結局買ったのは、在庫のあるショートバイザーの中で一番安かった、旭風防のSPC-08、つまりJA10用の風防だった。

 結論からいうと、全然大丈夫じゃなかった。

  *

「……入らない」
(何がだ?)
「ネジが……入らないってやばくない!?」
 それは風防を取り付ける一番最初の工程だった。
 ミラーの支柱を外して抜いたところに、スクリーンの土台となる金具を浮かせるネジを付けるのだけど、そのネジの径が合わなかったために入らなかったのだ。
(そのくらい先に調べておけ、馬鹿者)
「ごもっとも……」
 ……が、多少の違いははじめから覚悟していたことだ。のっけからつまずいてしまったのは想定外だったが、なんとかして取り付けられないかと、説明書と部品を穴があくほど読み込む。
 すると、この取り付けられなかったネジは、単にスクリーンの高さを保つためのものだとわかった。それがないとスクリーンの位置が低くなり、カブのライトに当たってしまい取り付けられないおそれがあったが、試しにネジなしでその後の工程を進めてみたところ、ぎりぎり(というかもう接触してしまっているが)設置できることがわかった。
「ていうか、よく見たらこのスクリーンの形状、角目ライト用になってるんだな。ということはせめて丸目ライトのJA44用を買っていれば……」
(ライトに接触することはなかったかもな)
 がっくりきた。まあ後で調べてみたら、JA44もJA07とはネジ穴径が違ったので、どの道苦労する世界線を歩むことは変わらなかったのだけど。
「まあいいや。とりあえずは付いたんだし」
 気を取り直して、各部増し締めをし、
「できた!」
 ショートバイザーを装備したカブを見て、僕は思わず叫んだ。
「すごい!」

「驚くほど地味だ!」
(地味って言うな。質実剛健と言え)
「物は言いようだな!」
 だけどカブの言う通り、これぞカブというような実用性を極めてきた感じがする。
 そして思ったよりも悪目立ちしていないのはよかった。
(カブの見た目なんて誰も気にしてないから何でもいいだろう。肝心なのは、これで走行感がどうなったかではないか)
「確かに」
 またしてもこいつの言う通りだ。
 そしてその走行感には一つ懸念があった。
 ネジ穴径が違ったためにネジが付けられず、本来は隙間があるはずなのに、スクリーンと車体が接触してしまっていることだ。こんな感じに。

 となると、走行中の振動でガタガタ鳴ってうるさいのではないかと予想された。
(それは実際に走って確認してみるしかないな)
「じゃあテストランといくか」

  *

 というわけで近場を走ってみたところ。
「うーん…………微妙」
 まず振動音はかすかにするようなしないような……よくわからなかった。低回転域だとたぶんしない。ただ高回転域だとエンジンの振動が激しくなるので、その段階になるとさすがにビーンといったびびり音がかすかにするような気がした。
 断言できないのは、高回転域、つまり速度が出ている時はエンジン音や風切り音もそれなりにしているので、それらの音に紛れてよく聞こえないためだった。
(よくわからない程度の音なら、気にしなければいいだろう)
「まあそうなんだけど、本当にかすかに聞こえるから逆に気になるというか……」
 うるさかったのなら直したんだけど。しかしこの程度だと全部ばらして一からやり直す気になるかというと……まあこのままでいいか。
(で、肝心の風の抵抗はどうだったんだ?)
「正直、それもよくわからなかったんだよなあ」
 この日も風が強かったからかもしれない。あるいは僕のヘルメットがジェットタイプだからか。
 ショートバイザーのサイズ的に、スクリーンにぶつかった風は大体顔から頭の上に抜けていく。なので首から上は今までと変わらず風に当たるため、体感的に改善された印象はさほど得られなかった。
 ただ手をスクリーン内と外に出し入れすると風の強さがまったく違ったのは確かで、胸あたりはほぼ風に当たっていなかった。これは空気抵抗的にはプラスだろう。面積の大きい胸に受ける風圧がなくなった分、長距離走行時の疲労は軽減されるのではないかと期待できた。
(なら遠出してみないとな)
「そうだけど、おまえは走りたいだけだろ」
 散歩したがりの犬かこいつは。それもちょっとひねくれた。
「ま、暖かくなったらな」
 仙台は最近雪が降った。仙台市はさほど積もらないけど、郊外や隣県はよく降るし積もる。バイクには厳しい季節だ。
 早く春が来ればいい。

(スパイクタイヤ履けば雪道でも走れるぞ)
「買わないからな!」

その分活字を取り込んで吐き出します。