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カブの旅 第17話「仙台大観音」

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 ここ数日の寒波の経験から、やはりちゃんとした防寒グローブがあった方がいいと思い、早速Amazonでこちらを購入した。

 値段の割にはなかなかしっかりとした生地とつくりで、裏地が起毛のため肌触りも良い。今日は気温6度だったが、バイク走行にも十分耐えられる防寒性能だった。手のひら側には滑り止めがついているので、アクセルをクイックにコントロールできる。スマホも操作できるので、コスパ的には言うことない商品だった。

 そんなグローブの試走もかねて目指した先は、仙台市泉区中山にある、仙台大観音。
 その名の通り仙台にある巨大な観音像のことで、どのくらい大きいかというと、具体的には高さ100mもある。エヴァンゲリオン初号機(新劇場版だと80mらしい)より大きな観音様が、座して(立って?)街を見下ろしているというわけだ。地元の住民にはもうそこにあるのが日常になっているけど、見慣れない人からしたらびっくりする光景かもしれない。

 で、かくいう僕もその異様な存在をすっかり受け入れていたので、もはや視界に入っても見ないくらいになっていたが、ふと思い返してみたところ、実際に行った記憶がひとつもなかった。
 というわけで、今回もまた『意外に行ったことのない地元の観光地』シリーズだ。

  *

 中山は仙台中心部から北方面、山側の方にある。よって中心部から向かうとなかなかにきつい坂道を登ることになる。
 その手前の水の森付近から、すでに仙台大観音が望める。

 仙台中心部からでも、高いところからなら見えるらしい。

 桜ヶ丘を過ぎた当たりから、坂がきつくなってくる。
「お、意外にぐいぐい登るな」
 車体が軽いおかげか、ひょっとするとノーマルの軽自動車よりも軽快なくらいだ。
(ふん……あまり舐めてもらっては……困るな……)
「でも余裕ってわけじゃないんだな……」
 さすがに低速ギアで引っ張らないと登らなかったから、カブはエンジンを回すのに必死そうだった。

 坂を登り切れば、もう仙台大観音がある大観密寺だ。

 入口付近は潰れた遊園地のよう。

 そして観音様。

 観音像入口は竜の口になっている。

 内部にはエレベーターがあり、上の方まで行ける。

 参拝は無料だが、ただし『ご参拝なさる皆様にはお札(守護札)を受けて頂いております』らしい。これが500円かかるので、実質入場料は500円だ。
 僕はおもむろにカブまで戻り、エンジンをかけて発進した。
(入らないんかい!)
 するとカブに突っ込まれた。
 口調が変わっているけどいいのだろうか。
「え? うん、まあ」
(エレベーターで登れるのだろう? 行ってみたらいいではないか)
 まあ、100mの高さから望む仙台の街は、さぞいい眺めなことだとは思う。
 思うけど。 
「うーん……でもいい景色ってさ、わざわざお金を払って見るものじゃないと思うんだよね。なんていうかこう、山を登ったあとにとか、バイクで走っている最中にとか、そういうふとした時に見る風景の方が、趣があっていいと思うんだよ。プライスレスっていうかさ」
(なんか良いこと言っている風だが、単に500円払いたくないだけじゃないのか)
「うーん……」
 まあ、それは否定できないけどね。

  *

 でもやっぱり、帰りに中山の坂を下る時に見えた、仙台市街を見下ろす風景の方が——カブと走りながら、粘るエンジン音を聞きつつ、冬の風を浴びてああ寒いなあなんて思い、ヘルメットのバイザー越しに陽光を受け、目を細めて見た車道からの眺めの方が——よっぽどいい景色だったと思うよ。

その分活字を取り込んで吐き出します。