放射線科と仲良くするために -放射線科の仕事って?-

都内で放射線科医として働いているheinと申します。
このnoteは主に医学生や研修医の先生達の為にどうやったら放射線科といい仕事ができるようになるか?という事をまとめたものになります。
前回のnoteはリンクからご覧ください。

正直、自分で思っていた以上に多くの方が読んでいただき、この問題の関心の高さを感じました。今回は放射線科や放射線診断医が普段どんな仕事をしているのか?ということを皮切りにして、次回以降の各検査における放射線科が嬉しい依頼文に繋げていけたらなと思っています。

画面を眺めるだけじゃない

放射線科の医者というとひたすらモニターに検査画像を並べてレポートを書いている。そんなイメージがある医学部生や研修医の方も多いのではないかと思います。
実際、放射線科医の業務は5割ほどは画像をみてレポートを書いていると言っても良いかもしれません。
逆に言うと5割は別のことをしています。抽象的な話をしてもわかり辛いと思うので、「全身倦怠感を訴えている70代の男性」を想定してここから話を進めていきましょう。

検査前確率を上げる努力 is 超大事

患者さんの病気を診断する時に最も多くのことを教えてくれる物はなんでしょうか?多くの場合CTやMRIといった画像診断ではありません。病歴と身体所見でしょう。困ったことに放射線科は病歴や身体所見を直接患者さんから得ることは中々ありません。
前述の通り「全身倦怠感を訴えている70代の男性」を考えてみましょう。全身倦怠感だけだと思いつく病気は多分両手では数え切れないのではないでしょうか?
しかし、数ヶ月続く全身倦怠感で食欲もなく体重も減っていて、実は濃厚な膵癌の家族歴があったらどうでしょう?国家試験ならこれだけで癌かなあと思いますよね。お腹を触ってみたらクールボアジェ徴候がありそうで、採血をしてみたらCA19-9が1500ぐらいありました。ますます怪しいですね。国家試験なら迷わず膵頭部癌を選ぶ所と思います。
ここでいよいよ放射線科の出番となり、画像検査をして癌を探しにいくことになるかと思います。

「(ただの風邪かもしれない)全身倦怠感を訴えている70代の男性」

「全身倦怠感を訴え、濃厚な膵癌家族歴のある、採血で腫瘍マーカーが異常高値で、矛盾しない身体所見のある、70代の男性」

まるで別人なんじゃ無いかと思うほどに癌らしさが違いますね。この2つの状況で画像検査をして膵癌がちゃんと見つかる可能性が同じだと思いますか?絶対違いますね。そうです検査前確率が違うからです。
放射線科は依頼文に書いてある情報から検査前確率を把握します。そして適切な検査をして診断します。

CTやMRIは魔法の筒じゃない

適切な検査をすると言ったって、造影CTを撮ればいいんだろ?と思った方がいるかもしれません。大間違いです。例えば造影CTにしたって、

撮影範囲は?単純CTもいるの?造影ホントにいるの?
造影剤の針の太さは?右手?左手?
造影剤の種類は?量は?注入スピードは?
撮影は何秒後?
CTの線量は?ピッチは?再構成条件は?
息止まるの?太ってるの?

無数にある撮影条件からベストなモノを選び出して目的に合致する検査を行えるよう普段から努力しています。
それなら、なんでもわかる最強の検査をすればいいんじゃ?と思った方がいるかもしれません。無理です。
まず、放射線を使う検査であれば被曝の問題があります。基本的に被曝を増やせば検査の画質はよくなりますが、必要もないのに患者さんにどんどん放射線をあててしまってはいけません。というか目的の情報を得られる最小限にする努力をするべきです。
造影剤の使い方や撮影装置の限界の問題もあります。極端な例を出せば頭部CTA撮りながら心臓CTとかどうやったって不可能です。
大きな病院であれば検査時間は枠が設けられていますよね?MRI検査で思いつく限りのシークエンスを撮ることは理論上はできますが、実質的には時間が許してくれません。そもそも、長時間の検査は患者さんの負担も大きすぎです。
こうした種々の事情を考慮して患者さん全体に適切なリソースを割り振ることを検査をする側は常に心がけています。
話を「全身倦怠感を訴えている70代の男性」に戻してみましょう。この人がタダの風邪っぽいのだとしたら本当に造影必要ですか?そこそこの画質で単純CTを撮れば大体OKでしょう。しかし、他の状況証拠からしてどうやら癌かもしれないとなったら話は変わります。正確な局所評価が必要です。胆道・膵をターゲットとしたdynamic造影CTを、少々被曝が増えても画質をあげて撮影しなくてはいけないでしょう。

レポートはお返事です

既に結構長い文章になってしまいましたが困ったことにまだ読影し始めていません。それぐらい放射線科の仕事は撮影する段階での工夫がかなり大事なんです。その為の情報は誰が持ってるでしょうか?直接診察した主治医です。つまり検査をオーダーした人です。充実した臨床所見なしには最高の検査はできません。検査前に得られる情報から最適な検査を組み立て、ミスなくやり切って初めて読影が始まります。
読影がはじまってからも事前情報は大事です。画像的に膵癌かな?と思ったら今度は手術の可能性がある人なのかが放射線科医は気になります。読影の仕方が変わるからです。必要そうであれば追加の検査を推奨することもあります。緊急性の高い所見であれば直接電話をかけることもあります。
よく言葉のキャッチボールと言われますが、検査とレポートもそうです。だから依頼文というお手紙に放射線科は全力でお返事を作っていきます。それが私たちのプロフェッショナリズムですから。

まとめ

よく私が内科を研修していた時に言われたことがあります。

「オーダーした検査の向こうに人間がいることを忘れるな」

非常に大事なことです。電子カルテでオーダーしたら自動的にレポートが出てくると思ってませんか?それまでにはいろんな職種が介在しています。ちゃんと敬意を持って自分の持っている情報とアセスメントを伝えましょう。そうしたらキッと答えてくれます。
少しぼんやりとした内容になりましたが今回のnoteはここで終わりです。次回以降はシチュエーション別にどんなことを教えて欲しいのか?気をつけて欲しいのか?という内容に踏み込んでいきたいと思います。

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