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桜とトイレと盗撮と

私が住むマンション前の通りの先にある1本の桜の木。
それが部屋の窓から半身の状態で見えるのだが、その見え方も含め、妙に魅力的に映る。
もちろん、それがバーっと立ち並ぶ様も綺麗であり、そういった場にも足を運ぶ。

しかし、意図せず見えてしまっているようなものの方に、喜びや贅沢さを感じることがある。
それは他においても、開けっぴろげにではなく、何故か"チラッ"と見えるものの方に価値を見出す節がある。

何の話しかと問われれば、「男性なら察しが付くだろう」と言ってしまえば、もうわかるだろう。
しかし、不思議と丸出しだと、そういう見方にはならないことが多い。

そこで、私の"丸出し"の思い出を。
高校1年の修学旅行にて、新幹線の通路を5人ほどで歩いていた際、トイレの前に差し掛かかったところで、先頭のやつが何の気無しにそのドアをバッと開けると、なんと違うクラスの女子が入っていた。
カギを掛け忘れていた、あるいは掛けたつもりが、ということだろう。
「キャッ」
「すいません!すいません!」
一瞬のドアの開閉の間に、そんなやりとりが行われていたように記憶する。
そして一瞬だったが、何がどうとかではなく、漠然としたその"丸出し"の状態はしっかりと目に焼き付いた。

私はこれに興奮を覚えるといった感覚にはならなかったが、しかし、こういうのが好きな人はいるし、はたまた未成熟な年齢であれば、これが原体験となって目覚めて、自身の趣向となる、なってしまう場合もあるだろう。

トイレの覗きや盗撮の事件は、しばしば見聞きする。
それは私の"癖"にはなく、やりたいとは思わないが、男性の異性愛者である私には、"気持ち"は理解できる。
もちろん犯罪であり、また、人の嫌がることをしてはいけないといった大前提を踏まえて、すっ飛ばした上での話しである。
ワイドショーなんかでこういった類いの事件を扱う際、コメンテーターの大の大人で「理解出来ないですね」とか「何が楽しいんですかね」なんてことを言ったりする人がいるが(最近はあまり見ないため、そうでもないのかもしれないが)、女性はともかく、少なくとも男性の異性愛者であれば、自身の趣向に全くその要素がなかったとしても、"気持ち"ぐらいは理解できるはずである。
想像し得るあらゆる"癖"の人がいることぐらいは、歳を重ねればわかるはずで、その中において、頻繁に聞くトイレの盗撮は、もはや"メインストリーム"と言える。
ましてや盗撮、広義で覗きであるが、そんなものは古くからの、もはや伝統的な悪事であり、嫌でも皆に漏れなくカメラが付いてくる、持たされているような現代ならば、そんな事件、事象が増えることは容易に想像がつく。
世間体でそういった杓子定規で無難なコメントをしているのだろうが、ただの"むっつり"である。
普段は私も"むっつり"だが、そういった場においてまでも相変わらずの気取った"むっつりコメント"が続く限りは、有意義な議論は行われず、この手の犯罪はいつまでも減ることはないように思う。

ここまで言うと、まるで自身にフラグを立てているようだが、その予定はない、今のところ。
"今のところ"というのも本当の話で、皆が予備軍だとは思っている。
そして、そんなことを全く考えないような人らに限って「魔がさして」とかなるようにも感じる。

昔は「男は狼なのよ、気を付けなさい」と言われていたが、今は「男は予備軍なのよ、気を付けなさい」の方が適当な気がする。

とりあえず、もし、私がコメンテーターならば、
「男性として気持ちはわかりますが、我慢しなくてはならないですよね、トイレだけに。」
とは言いたい。

その修学旅行のトイレ事件の続きだが、顔面蒼白でひどく焦る"悲しき無実の覗き魔"となってしまった彼をなだめながら、とりあえず、とにかくその場をすぐさま離れた。
そして私たちは、緊急臨時会議を行う。

相手方は焦りと恥ずかしさで、こちらにしっかりと目はやっていない様子に見受けられたため、開いてしまったが、別に見てはいない、認識はしていないとの体でやり過ごし、波風立てずに乗り切ることも可能で、そちらの方が不必要に辱めることなく、良いのではないかとも考えた。
しかし、見た、見られたのではないかとの疑心暗鬼の中で過ごすのは無理があり、やはりお互いに良くないとのことで、しっかりとした性格の彼は意を決して1人、謝罪に臨むことを決めた。

実はその彼はバッとドアを開けながら立ち去ったため、顔をハッキリと認識していなかった。
そこで私が付き添い、対象を見つけると、少し離れた場所からしばし様子を伺う。
そして彼女の周囲にあまり人がいないことを確認して、彼が向かった。
お互いのヘコヘコとした様子と、「私の方こそ」といったような言葉がかすかに聞こえたことで、穏便に、水に流せたのだと安心した。トイレだけに。

そして、それはその場限りの出来事として、皆それぞれ胸の内に秘め、しっかりとカギを掛けた。
こうして秘密を共有することで特別な強い絆が生まれた、なんてことは無かったが、変わらずそれなりに仲良く過ごした。
ただ、皆がMIWA製のしっかりとしたカギを掛ける中、ひとり、頑張れば爪で開けられるような、家のトイレのあのタイプのため、しばし、このように簡単にうっかり開いてしまう。

そしてまた掛けた、一応。

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