【YMS】子どもの頃から大好きだった作家のお家に行った話①

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、外出禁止になってから2カ月が経とうとしている。散歩とランニング、買い物に行く以外はほぼ家に引きこもる日々。しかし思ったほどの余裕もなく、時間が足りないと感じるほど毎日なんだか忙しい。

私はいま、ワーホリでイギリスに来ているのだが、滞在場所にブリストルを選んだのには理由がある。それは、小学生の頃から大好きな作家、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(以下DWJ)が住んでいた街だから。詳しくは以前の記事に書いている。

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(最近はDWJの原本を読んでいる)

これから綴るのは、外に出られなくなる直前のできごと。私はDWJの息子さんと知り合い、彼女が数年前まで住んでいたその家に、上がり込むことに成功してしまったのだ。ダイアナの描く世界に心奪われ、それ以来ずっと憧れていたこの国に来てわずか半年。まるで物語の中にいるような、不思議な体験だった。

どこから話そうか。そもそも、ブリストルに来た当初はDWJを知ってる人に全然出会わなかった。児童文学界では有名なはずだが、やはり本を読む人でないと認知度は低いようだ。正直、DWJが住んでいた家を見ることすら不可能に思えた。

年が明けてすぐ、1つ目の出会いがあった。日本語を勉強中だというイギリス人。もう何度目だろうか、いつものようにDWJのことを話すと、なんとネットで調べてその家を見つけ出してくれたのだ。あまりにもあっさりと何でも分かってしまう時代に感謝しつつ、早速その家を見に行くことにした。

それは本当に素晴らしい瞬間だった。その家は、まるで隠されているかのように、わかりにくく入り組んだ道の先にあった。けっこう大きいが、もちろんただの普通の家だ。イギリスではよく見る、いくつかの建物がくっついたような形の家。カラフルな外壁が並ぶ中、そこは飾らないグレーだった。

4カ月近くたった今でも、感動で何も言えなくなった感覚を思い出せる。その時はしばらく外から眺めただけだったが、家の前にあった公共のガーデンをそっと歩きながら「ここにダイアナが座っていたかもしれない」などと考えて涙が溢れた。きっとこの時のことは死ぬまで忘れないだろうな。

さて、なんとか家は見つかった。次は、そうだな、ご家族に会えたら嬉しいな。なんて、さすがにそれは無理か。DWJ本人に会う、という夢はとうに叶えられなくなってしまったが、かといって他にどうしたいという望みもない。ただ、彼女が見ていたものに少しでも触れられれば、それでいいと思っていた。

ところが、予想に反してこの物語は急展開を迎える。家を見に行った日から数日後、私は何人かとパブで飲んでいた。そろそろ帰ろうと席を立ったとき、語学学校で出会った日本人の友達が声をかけてきた。

友「DWJが好きってほんと?」

私「うん、だからブリストルに来たんやで」

友「私DWJの研究をしてる人と知り合いで、その人の手伝いでDWJの書斎に入ったことあるで」

私「えっっっ!!!??????」

例えるならば、何日も帰って来ない飼い猫を心配して探し回っていたら、隣の家でミルクを飲んでいた、みたいな衝撃。こんなに身近に?しかもダイアナの書斎に入った?あまりにも刺激が強すぎて、その日はそれ以上なにも聞けずに家に帰った。

後日、その知り合いの人を紹介してもらい、早速メールをしていると、DWJに関する資料や論文を送ってくれた。どうやら本人とも面識があったらしい。なんと、私はDWJの友達に会えたのだ。それからすぐ、繋げてくれた日本人の子とその人(以下友人Aさん)と3人でコッツウォルズに行ったりして遊んだ。

そもそも、その友達はどうやって友人Aさんと知り合ったのか。実はもう一人、私は面識のない日本人の方がいて、その方がある日カフェで日本語を勉強している友人Aさんに声をかけたのがきっかけだったそうだ。それから2人は友達になり、その人が日本に帰るときに、私も知っている日本人の友達を紹介した、ということらしい。

つまり、とある日本人が友人Aさんと偶然知り合い、その人がたまたま日本人の友達を紹介し、偶然たまたまその友達が私と同じ学校だった、ということだ。これを奇跡と言わずしてなんというか。商店街の福引きをやったら5回連続で温泉旅行が当たった、くらいの強運だ。

知り合ってからしばらく経った頃、友人Aさんからディナーのお誘いメールが来た。DWJの息子さんとその奥さんが友人Aさんの家に来るらしい。さらに、「その次の日にDWJの書斎を調べるので、よければ手伝ってくれませんか?」と。

ああああ、ついに。まさか、本当にダイアナのご家族と会えるなんて。もはや今後一生、福引きなんてポケットティッシュでいい。その日までの数週間は、想像すると何も手につかなくなるのであえて考えないようにしながら、でもたまに抑えきれずにニヤニヤしながら、ぼんやりと過ごした。

(②へつづく)

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