【YMS】イギリスで暮らしはじめて3カ月が経っていま

“お父さん、お母さん、お元気ですか。私はとても元気です。生活の方もなんとか軌道に乗って、少し自信がついたみたい。落ち込むこともあるけれど、私、この町が――”

あれ、ちょっと待って。“落ち込むこと”なんてあったっけな。うーん、いや、思い当たる節がないぞ。落ち込むどころか、悲しいこともつらいことも特にない。この3カ月、負の感情を全然感じてこなかった。

ここで出会った日本人はみんな、最初の3カ月は大変だったとか辛かったという。どっこい私は、あらゆる人に「日本が恋しいんじゃない?」と聞かれ、そのたびに「NO」と半笑いで答えて驚かれている。「国を離れていて家族や故郷が恋しくないと答えたのは君が初めてだ」なんて言われたりするが、本当のことなので仕方ない。

もちろん、日本のことは気にはしている。この3カ月の間に、ある友達は出産し、別の友達は結婚式を挙げ、そのまた別の友達は妊娠したという。そばでお祝いしたかったという寂しさはあるが、今の時代リアルタイムでメールや電話ができるわけで。日本にいた頃と大差ないんじゃないか。

私がイギリスで暮らせるのはたったの2年間。期日が来たら嫌でも日本に帰らなければいけない。今は25年間暮らしていた国よりも、まだ3カ月しか住んでいないこの国のほうが、私にとっては圧倒的に重要で、おもしろい。

そんなことを考えていた1月末、風邪を引いた。社会人になってから3年半の間、体調を崩したことなんてほとんどなかったのに。2年間くらい元気に乗り切れるだろうと思っていたが、甘かったようだ。

何の予定もない日曜日、1日ゆっくり休んだら回復するかと思ったら、翌日には熱が上がり出した。咳がひどくて夜寝られない。語学学校の皆勤賞は諦めて、療養に専念するしかない。幸い、こういうときの乗り越え方はちゃんと心得ている。

日本から持ってきていた、レンチンするだけで食べられるご飯が役に立った。母が送ってくれた梅干しと味噌汁も。それから レモン汁とハチミツをお湯で割って飲む。はちみつは唯一嫌いな食べ物だけど、ハニーレモンは好きなんだよな。あとはひたすら寝るだけ。

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(ここぞとばかりに楽しみにしていた本を読んで暇を潰す)

休養を決め込んでそうそう、メッセージが1通きた。日本語を勉強中のイギリス人からだ。お互いの語学力向上のため、最近よく会っている。「今日会える?」というメッセージに「風邪ひいた」と返すと、「助けが必要なら遠慮なく言って」と返事がきた。ありがたい。

少し前になるが、その人にとある友人を紹介してもらった。イギリス人と結婚している日本人なのだが、なんと、私の家から徒歩5分の場所に住んでいた。それからいろいろと世話を焼いてくれている。食べ物をもらったり夕飯をご馳走になったり。なのでいざとなったらその家に駆け込むこともできる。なんせ歩いて5分の距離、どうやら私は運が良い。

それになにより、私にはフラットメイトがいる。風邪をうつさないよう、できるだけ共有スペースは避けて部屋にこもっていたが、ちらりと会ったとき「薬は持ってるの?」と声を掛けてくれた。その子も助けを求めればいつでも手を貸してくれるだろう。

結局、3日も学校を休んでしまった。さすがに学校の友達も心配して連絡をくれた。クラスが別になってしまったばかりだったんだけど、気にしてくれてたんだな。「明日は行くよ」と返事をして、翌日学校に向かった。

学校に向かうバスの中で、“今が人生で一番幸せかもな”と、ふと考える。日本にいた頃は頻繁に会うような友達はいなかったし、風邪で寝込んでいても、心配してくれるのはせいぜい家族と職場の人くらいだろう。知り合いもいない見知らぬ街に来て3カ月、私の周りにはこんなに人がいる。

しかしそろそろ、始めなければいけないことがある。労働だ。英語も想定より順調に上達し、最低限仕事をするのに必要なレベルにはなった。でも、今すごく楽しいのは働いてないってのもあるんだろうなと思う。まあ、日本でしこたま働いた分はリフレッシュできたし良しとしよう。働き始めたらこの楽しさもまた変わるのだろうか。


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