見出し画像

【レビュー】All Hail Y.T&Cedar Law$ - Player Made

当コラムを読んで頂いている方はご存知、プロデューサーのCedar Law$君が、昨年、All Hail Y.Tとコラボで制作した「Player Made」のLPをManhattan Recordsから発売するとのことで、折角なので作品レビューを書いてみた。

また、僭越ながら、プレスリリース用のCedar君のプロフィール文も執筆させて頂いた経緯もあり、この記事で興味を持った方には、是非本作のLPをCoppedすることをお勧めしたい。

All Hail Y.Tの紹介

All Hail Y.Tは、テキサス州のキリーン出身で、現在はデラウェア州を拠点として活動を行っているMC。

Y.Tは、軍人だった父親や家族と共に基地内で少年期を過ごしていたが、両親の離婚をきっかけに、キリーン内でも治安が悪い"4-1"エリアに引越し、10代の頃からストリートライフに身を投じることとなる。

その頃の自分をIceberg Slim(本名:Robert Beck)の自伝、「Street Poison」に準え、"Street Poisoned"と呼んでいたそう。

多くの著名ラッパーやストリートのワル達に影響を与えたIceberg Slimは、1940~50年代にピンプ稼業(所謂、ポン引き)を生業とした半生を送り、その後、作家に転身した人物。Y.Tのラグジュアリーな身なりやピンプスタイルは、その辺りの影響も色濃く感じられる。

Y.Tは、17歳の時に東海岸のデラウェア州に移住し、南部のライフスタイルとのカルチャーショックに戸惑いながらも、"Yung Texxus"と名乗り音楽活動を続けていた。

2PAC、Dr.Dre、Snoop Dogg、Outcast、UGK等の音楽に影響を受けたY.Tは、当時のデラウェアでは些か浮いた存在だったのかもしれない。

彼の過去のラップキャリアについては、地元キリーンで結成した「Green City」というクルーが、Geto Boysのメンバー、SCARFACEのレーベル、「SMC Recoedings」から作品を出したり、DJ Clue「Desert Storm Records」とソロ契約を結ぶ等、中々の経歴だ。

今現在は、Financed Buy Dope Recordsというインディペンデントレーベルから、デジタル/フィジカルのリリースを行っている。

その他にも、ジュエリーショップ、「Black Gold Diamond Co.」の運営等、実業家としても活動の幅を広げている。

「Player Made」レビュー

「Player Made」(2021)

「Player Made」は、昨年(2021年)10月にリリースされ、ここ日本でも熱心なディガー達の間では周知の作品だ。

本作はY.T自身も、「Dr. DreのChronicみたいな作品」「自分の集大成だ」と語っており、幼少期からの過去のピース(写真)を継ぎ合わせた、メモリーレーンの様なカバーアートが印象的。酸いも甘いも、彼の人生経験の全てを詰め込んだ、Y.Tの自叙伝ともいえる代表作の一つとなった。

Y.TとCedar Law$は、オンラインによるやり取りで制作を行い、時に両者の意見の食い違いから衝突することもあったそうだが、約1年半の制作期間を経て、次第に信頼関係を構築していった。

そんな本作の魅力を少しでも伝えることができればと思い、全曲簡易的ではあるがコメント付きで紹介していこうと思う。

1.No Progress Without Struggle

冒頭からメロディアスなサックスの音色が煌めく、ジャズ・サンプリングの序曲。Y.Tの艶のある擦れ声と、オレンジキュラソーの様にビートと混ざり合うヴィヴィッドなフロウが楽曲の彩度を高める。

一方で、"We ain't see no money before we saw the struggle"(苦労より先に金を見ることはできねーぜ)と連呼するフックが、プレイヤー・All Hail Y.Tの苦難や意気込みを表し、彼がここまで歩んできた背景をも透かして見せる。

2.The Play Book feat. Anthony Danza

ムーディなラップソングからは打って変わり、オールディでバウンシーな一曲。ワシントン州シアトルを中心に活動する、MC・プロデューサーのAnthony Danzaを客演に招き、軽快な2レーンの疾走に自ずと首も縦ノリになる。

3.40 Acres & A Slab feat. Left Lane Didon

Y.Tの作品でも度々登場する、デラウェア州のMC、Left Lane Didonとユルめのクルージングで会話している様な曲。

ブラック・ヒストリーからの引用として度々使用される、40エイカーズとラバを示す、"mule on 40 acres"という言葉と"Slab"(カスタム車)というスラングが出てくるので、主に金(ペイド)と車の話?彼とLeftの緩やかに息の合った掛け合いのフックも良い味を出している。

4.St. Ides on Sunday feat. Jay Worthy

前曲のアウトロで流れる、St. Idesという、90年代Hip Hopフリークにはお馴染みの(当時)ビールブランドのCMソングで使われた、Warren G「We Sippin On A Brew」から、このタイトルへと繋がる。

導入から、LNDN DRGSがヌルっと顔を突き出しそうな楽曲だが、正にLNDN DRGSのJay Worthyを客演に招いた極上メロウなG Shit。

Cedar Law$自身、現在の音楽スタイルに至るまでには、LNDN DRGSの「Uza Trikk」(R.I.P. Yams& Earl Swavey)にも大きな影響を受けたそう。

本作で遂に共演に至り、彼らのフィーリングとも見事に合致した一曲を作り上げた。

5.Trill Thangz IV

Y.Tのソロ作品でシリーズ化している、「Trill Thangz」の第4弾。スロウテンポで控えめなドラムの小洒落たビートに、Y.Tが流れる様にワードを丁寧に敷き詰めていく、短尺の一曲。

6.You Ain't No P feat. Big Frank

Bahamadiaの96年名作、「Kollage」のイントロとも同ネタ使いの定番ネタな一曲。作品中盤の小休止的なノリでゆったりと耳を傾けたい。

Big Frankという人物は、Y.T周りのアーティストの模様。

8.Dealer Plates feat. Boldy James

後半に差し掛かり、一気にダーティで緊張感のある路線に切り替わる。ミシガン州デトロイト出身のMC、Boldy Jamesを迎えたハードなプラグズ・シット。

元ネタは甘めのソウルでありながら、Vシネ感さえ醸し出す、鬼気迫る楽曲に仕立てたCedar Law$の手腕はお見事。

そこへ、ワードセンスに長けたY.Tとリリシズム感満載のハスラー・ポエムのBoldy、三位一体の本曲は作品内でも特に必聴曲。

9.No Love

前曲からのシリアスな流れを引き継ぎ、テンポ良く配置されたライミングの心地良さも味わえる、Nasライクな一曲。(Nasも影響を受けたアーティストの1人だそう)

南部、東・西海岸の混合石の様に光るY.Tのスキルセットは、単にプレイボーイ気質な雰囲気系MCではないことを証明する。

10.Consequences & Repercussions feat. Chris Skillz & K.O.

筆者も推しのデラウェアのMCの一人、Chris SkillzK.O.なるシンガーのスムースなフックを挟む一曲。

メロウなビート中心の作品でありながら、モロに歌モノの楽曲は実はこの曲ぐらいで、ラップ・シット中心で固めるその潔さと渋さも彼の魅力だと感じる。

11.Game Passed Down (Certain Jewelz) feat. Young Roddy

強調されたベース音の起伏とフニャフニャと中毒性のあるループに、Cedar Law$らしいドラムの打ち込みの均整が取れた終盤曲。

Jet Life Recordingsのアーティストで、ルイジアナ州出身のYoung Roddyを客演に迎えた南部シット。

12.Grateful

夕刻のサンセット・ドライブに相応しい、メロウで感傷に浸れる〆曲。一貫してロマンチックなサウンドとメリハリのあるラップの緩急がまた良い塩梅。Y.Tが魅せる器用さにも脱帽である。

あとがき

改めて一枚通しでリスニングしてみたが、ノンストレスで爽快なグルーヴ感と、一周終えてまた一曲目の再生ボタンを押せる安定感がこの作品から受け取った感想である。

本作の評価すべき点は、1シーン毎でのインパクトの出たとこ勝負というよりも、繊細に作り込まれた一本のショートフィルムの様に、一枚をきっちりと通しで楽しませる為の作品となっている。

Cedar Law$のビートは、聴き手側にイメージさせる世界観の美学を守り、一枚の作品に上質な一貫性と繋ぎ目を感じさせぬ一体感を創り出す。

盗んだ28フィートのスカラブでバハマに金庫破りに行く道中でも、フッドのパークサイドで、メキシコ産ダイスを転がしてクラップスに興じる時も、如何なるシチュエーションを問わず、その審美的なムードへと引き込んでくれる作品だ。

All Hail Y.T × Cedar Law$ - Player Made (LP)はこちらから予約できます

【Cedar Law$プロフィール】
東京都出身のプロデューサー。 幼少期から父親の影響で、ソウルミュージックを中心に多様なブラックミュージックに触れ、2017年頃からビートメイキングを開始。 海外アーティストへの楽曲提供を主軸とし、Hus KingPin、Boldy James、Jay Worthy、Young Roddy、Fiend等、日本でも知名度の高いUSアーティストと共演を重ねる。 USのHIP HOPチャンネル「Shade45」では、Statik Selektahの「Showoff Radio」、Trackstar the DJ (Run the Jewels)の「The Smoking Section」などで自身の手掛けた楽曲がプレイされ、着実にそのキャリアの高みを目指している。 ------ クラシカルなサンプリング・ビートの様式美を保ちつつも、都会的でラグジュアリーな趣のあるサウンドは、クチュールの様にMCの存在感を引き出し、高める。 謂わば、彼は"音の仕立人"である。 今作「Player Made」 は、2021年にテキサス出身のAll Hail Y.T.と共同でリリースした作品。彼とY.T.の醸し出す、粋で優雅な世界観が見事に合致し、互いの確立された音楽性との相性の良さを確かな形で証明している。 (Text by.Moch asf)

peace LAWD.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?