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Ami Ⅲ 第12章-生まれ変わったクラト

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まだ日が沈んでいない夕方に、海沿いの我が家の上空にあるUFOは、見えなくなっていました。
その見えないUFOから、僕たち3人が前庭に降り立ったのです。
ドアをノックし、祖母がドアを開けると、まず僕1人だけが顔を見せました。
僕は、何も言わずに、クラトの言葉を理解できるようにと、翻訳機のイヤホンを祖母の耳に入れたのです。
アミの場合は、少し訛りがあるものの、スペイン語を話すことができたので、その必要はありませんでした。
そして、隠れていた2人に合図を送り、「サプライズ~!!」と3人が同時に幸せそうな笑顔で挨拶したのです。
しかし、クラトは全くマナーを守らない、獣のような男でした。
彼は、なんと赤いバラを手にして一歩前に出たのです。
どうやら、僕たちに気づかれないように、庭から取ってきたようでした。
そして、祖母に近づき、耳元で、しかも大きな声で、「私は愛する人を見つけるために宇宙を横断してきたのです!」
と言って、歯を見せて笑い、赤く潤んだ唇で、バラを手渡しました。
僕は、祖母が可哀そうになりました。
しかし、彼女は困った様子もなく、それどころか、クラトの言葉を喜び、感動して花を受け取り、「とても親切に、ありがとうございます。どうぞ、おあがりください。これで、神が地球人の神であり、宇宙人の神でもあることが証明されました。」と言ったのです。
「その通りです、おばあさん。
全宇宙とそこに住むすべての生き物の創造主である神は同じなのです。」
とアミが答えました。
「だから、あの願いを叶えてくれたのね。」
「おばあちゃん、どんな願いなの?」
リビングに入ると、僕は尋ねました。
「今夜、私と食事をするために現れてくれることよ。
もし神がこの世だけの神なら、ペドロしか現れなかったでしょう。
だってアミやクラトさんには何の権限も持っていないのだから...。
でも、ビンカは来なかったわね。
彼女には許可を出さなかったのかしら?
まあ、まだ子供だからね。」
そして、顔を上げてこう続けました。
「聖シリル、あなたは、まだ私の願いの一部を叶えてくれていません。
そして、あなたはそれを果たさなければならないのです。
あなたは今まで一度も私を裏切ったことなんか、なかったわよね。
どうしちゃったのかしら.....。」
すると「おばあさん、聖シリルは神と同じではないですか?」とアミ。
「そうね、聖シリルは神様と話すための電話のようなものなのよ。
奇跡的な存在なの。」
「じゃあ、どうして神と直接やり取りしないのですか?」
「だって... 老婆のささやかで身勝手な欲望のために、神様に電話に出てもらうなんて…、神様は忙しいでしょ、迷惑をかけるわけにはいかないのよ。
聖シリルは神の近くに住んでるから、神に迷惑をかけずに近づくことができるタイミングを知っているの。
そこで、彼は神に私の望みを伝えてくれているのよ。」
「そうですか。」と、アミは言いました。
誰だって自分の限界は自分で決めるものなのです。
でも、親愛なるおばあさん、神は、宇宙の魂の数だけ直接かつ同時に電話に答えることができる電話交換機を持っていることをお伝えします。

「わかっていますよ、アミさん。
でも、私たちは聖人や聖母、天使たちにも仕事を与えなければならないでしょう?
彼らは仕事を与えないと、自分が役立たずだと思うかもしれないわ。」
アミはそれを聞いて大笑いしましたが、クラトは無邪気な祖母を気遣ってか、同意しました。
「全くその通りじゃよ、お前さん...。
いや、フェアレディ、あなたのお名前は?」
「リラよ。
でも友達にはリリーと呼ばれているの。」
「リリー!なんて美しい名前なんじゃ!
リリーさん、何か元気が出るようなことはないかのう?」
「ああ、それなら聖書はいかがですか?」
「いや、ちょっとだけ、試しにグラス1杯でも...。」
僕とアミは大笑いしました。
そこで、僕たちは祖母に、クラトが言っていたのは飲み物のことだと説明したのです。
「そうそう、クラトさん用のワインがあるのよ。」
「もし良かったら、クラトって呼んでくれんかの、リリーさん。」
「ああ、ありがとうございます、クラトさん。
皆のためのリンゴジュースも持ってきますね。」
彼女は、ジュースの入った普通のグラス2つと、赤ワインの入ったとても立派なグラスを載せたトレイを持って戻ってきました。
「気に入っていただけるかしら?」
「あなたが選んだんなら、わしの好みじゃろう。
なんて素敵な色なんじゃ!
この惑星でどんな酒が発明されたのか試してみようかの。」
彼は匂いを嗅ぎ、まるで試飲しているかのように味わい、幸せそうな顔をして言いました。
「うーん...。これは美味い!
とても洗練されとる。
肉のソースに合うな。
これは、本当にフルーツから作られてるのかい?」
「その通りです、クラト。
惑星間の酔っぱらいの観光は終了です。」
とアミが釘をさしました。
が、おばあちゃんは、クラトに「食前酒にシェリー酒はいかが?」と言いました。
「いや、おばあちゃん、彼は今、食前酒を飲んでいるんだよ。」
「そうね... じゃあ、最後にミントリキュールを一杯飲めば、消化もいいし...。」
クラトは宝物を見つけたような嬉しそうな顔をしていました。
「彼女のような妻がいれば、歯のない貧しいテリでさえも幸せになれるじゃろうな...。
再婚するつもりはありますか?」
「もし素敵な男性が現れたらね。」
おばあちゃんは、コケティッシュに瞬きをしながら答えました。
僕には、老人のロマンスはちょっとばかし滑稽に思えました。
「おばあちゃん、その歳で…。」
するとアミが口を挟みました。
「ペドロ、あなたは子供だから、お婆さん達をとても年寄りだと思うでしょうが、彼女はまだ若いのです。」
「若い!?
おばあちゃん、何歳なの?」
「ああ.. 5…を過ぎたところよ。」
「それが "若い "ってこことなの!
はは、ははは!」
と僕は心底笑って言いました。
すると「ちょうど500歳かい!」
クラトはとても驚いて、そう叫んだのです。
アミは、二人に、地球とキアの時間的な等価性を説明する必要がありました。
結局のところ、クラトは地球歴60歳で、祖母では50歳、つまりキアでは1000歳ということになるのです。
「クラトは70歳くらい、キアの1400歳くらいだと思っていたよ!」
と僕は驚いた様子で言ってやりました。
「とても感じのいい奴じゃな...。
で、"ベトロ "は何歳なんじゃ?」
「12歳、キアの240歳だよ。」
「そうか、地球上で8歳くらいじゃと思っとった。」
僕の血が騒ぎました。
すると、祖母が、二人に向かって「喧嘩をしないで。食堂に入りましょう。」と割り込んでくれたのです。
入った瞬間、僕は家を間違えたと思ってしまいました。
そこは、まるで宴会場のテーブルのように見えたのです。
レース付きの白いテーブルクロス、高級グラス、刺繍入りの布ナプキン、火を灯したキャンドル、花、そして色とりどりの美しい食器etc…。
僕は祖母のとてつもない直感に感心するばかりでした。
その夜、僕以外の誰かがやってくるという確信もなく、あれだけのものを用意したのですから。
祖母は正しかったのです。
「なんと優雅なテーブルなんじゃ。
親愛なるリリーよ!」
「ありがとうございます、クラト。
宇宙人の訪問を受けるのは、誰にでもできることではないですからね。」
オーブンからチキンが出てきました。
「チキン! まさか、あのテーブルで共食いの行為に耐えなければならないなんて言わないで下さい、おばあさん!」とアミ。
「でも、サラダもあるわよ、アミ。」
「それはありがたいです。
でも、美しいとは言えない光景を見なくちゃいけませんが。
フォークとナイフで、バラバラに焼かれた仲間を食べる人を見るのは…。」
「私たちにとって、チキンは仲間ではないのよ、アミ。」
「でも、私にはとっては、そうなのです。
意識のある存在の死体なのです。
それを食べるのは妖怪と同じなのです。
まあ... 私もあなた方の楽しみに水を差すべきではありません。
でも、食欲がなくても責めないでください。」
「心配するな、宇宙少年。
この小動物たちはとても善良で、とても親切で、わしらに食事を与える喜びを感じて嬉しくなるんじゃよ!
なぜなら彼らにとってわしらは神なんじゃから。
ホーホーホー!」
クラトの皮肉はアミを不快にしました。
「自分の皮膚で神様を養うことになったら、嬉しいですか?」
「もちろんじゃ!
虫よりも神様に食べさせる方がいいに決まっとるじゃないか。
喜びであり、名誉じゃろう!」
と、クラトは笑い声を上げました。
僕たちが席に着き、老人が黄金の脚に食らいつこうとしているとき、アミが言いました。
「もし、私たちが食べ物に不自由したくなければ、神に感謝してからにしましょう。」
「食べ物があることに、神に感謝します。」
クラトは慌ててそう言って、鶏肉に大きくかぶりついた途端、何か音がしたのです。
「これ、石が入っとる!
歯が欠けたみたいじゃ…。」
「ちゃんとお礼を言わないから、こうなるのです。」
と、アミはいたずらっぽく言いました。
「それは骨だよ、クラト。
周りの肉だけ食べればいいんだよ。」
それを聞いて、「うわー。」と、アミは目をそらしました。
まあ、詳細を説明する必要はありませんね。
というのも、アミが僕の家で食事をしていること、進化はしていないが別の宇宙人が僕の家で食事をしていること、おばあちゃんが「惑星間コミュニケーション」に完全に参入していること、しかもロマンスがあることなど、いろんなことが初めてで、ある種の神聖なディナーに参加した気分でした。
でも、そこにビンカはいないのです。
それが、心の底から寂しかったのです。
冷淡なゴローのせいで、僕たちの未来が危うくなるんじゃないか?
そんな僕の思いを察したアミは、祖母にその一部始終を話してくれました。
「信じなさい、きっと上手くいくから。
明日、空き部屋にあの子のための小さなベッドを用意するわね。」
それを聞いたとき、僕は自分の家に愛する人が住むことを想像して、甘い幻想に包まれそうになりましたが、後に失望するのが怖いので、硬い現実的な大地に足をつけていようと思いました。
「そんなに夢見ないで、おばあちゃん。
おばあちゃんはゴローを知らないんだから...。」
「私は彼を知らなけど、私は神を知っているのよ。
神は信仰を試すために色々なの障害を置くのだけど、それはあなたを強くするための訓練であることも、私は知っているのよ。
全ては上手くいくと信じているわ。
彼はそんなに悪い人ではないと思うのよ。
きっと、彼は、あなたたちが一つになるのを妨げるつもりはなかったの。
神は、喉が渇いた人の近くに水を置くのです。」
アミのベルトの機器のひとつから「ピッ」と音がして、話している祖母の邪魔をしました。
「緊急事態です!なんですって!いつ?
すぐに行きましょう!」
「どうしたの?」
僕たちは、緊張して尋ねました。
「そんなはずは…。UFOに戻りましょう。」
「何があったの?」
「PPがビンカの家に行き、3人を装甲病棟に連行しました。」
「どういう事なの?
どうやって... 誰も見てないのに...。
もし私がもっと年をとっていたら、心臓発作を起こしていたかもしれませんね。」と祖母。
「あってはいけない偶然の一致があったようです。」
と、アミは開いたドアの前で、黄色い光線が現れるまでリモコンを操作しながら、説明しました。
昨日、ビンカの叔父と叔母を精神科から連れ出した時、警備員の中に、ゴローが働いていた薬局の近くに住んでいる人がいたようなのです。
その彼女が、彼を見かけた場所を思い出してしまいました。
結局、ゴローは薬局で見つかり、眠らされ、今は装甲病棟にいるのです。
「装甲病棟なんて…。
テリの友人たちは、そこからの救出は不可能だと言っていたよ...。」
「絶望しないで、ペドロ。」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「救出する方法はあります。」
「本当に?」
「もちろんです。
心配する必要はありません。
落ち着いて、私を信じてください。
さあ、光線の中に入るのです。」
「アミ、私はどうすればいいの?
手伝いたいのだけど...。」
と、祖母は言いました。
「その必要はありません。
ここでゆっくり休んでいてください。」
クラトが警戒していました。
「わしが残って彼女と一緒におるよ。
この辺りには不審者がうろついてるかも知れんし、彼女も一人では不安じゃろう。」
「この辺りでうろついているテリはあなただけですよ、クラト。」
「わしは、スワマじゃよ。
アミ、混同しないでくれ。
しかも、かなりの紳士なんじゃ。
王宮では主、つまり王子と呼ばれてたくらいなんじゃから。」
「クラト、あなたの嘘に付き合っている暇はないのです。
でも大丈夫です。
ここにいても構いません。
どれだけかかるか判りませんが。」
「ただ、その耳を見て、地元の警察に電話する人がいたら困ります。
想像してみてください。
あっちこっちに逃げることになるとしたら…。」
「お願いするよ。ありがとう!」
「では、UFOに来てください。
ちょっと外見を変えますよ、クラト。」
「お~~~~!」
とキアの男は喜んでいましたが、僕はビンカの運命に胸騒ぎがしていました。
しかし一方で、アミを大いに信頼していたのです。
そのおかげで絶望せずにすみました。
また、クラトがどのように変身するのかにも、とても興味がありました。
アミは祖母に「少ししたら戻って来ますから。」と言い、3人でUFOに乗り込みました。
そこに行くと、不思議な装置が作動し始め、立体的なスクリーンにクラトの姿が映し出されたのです。
「あいつ、俺にそっくりだな!
だいぶ年上だけど。」
「クラトだよ。
老けて見えてるんだよ。」
と僕は言いました。
「ああ... じゃあ、この古い肌をすぐに変えてくれ、アミ。」
アミはコンピューターに音声で指示を出し始めました。
アミが「地球人白人のテンプレートを適用してください。」と言うと、スクリーンに映し出された人物は、この星の白人としてごく普通の特徴を持つようになったのです。
クラトと同じ顔だが、「怖い」...。
「クラト、その顔、好き?」
「うーん... もう少し若い方が... 出来るかい?」
「それは出来ないと思いますが…。
当局に聞いてみましょう。
彼が、いくつかのキーを入力し、少し待つと、画面にサインが表示された。
「はい、許可されました。」
「おーーーーーー!
「不憫に思ったのでしょうね。」
「わしがかい?」
「いや、ペドロのおばあちゃんがです。
こんな醜い老人はふさわしくない...。
ハ、ハ。」
「面白いじゃないか。
さあ、この美しい顔を伸ばしてもらおう。」
そして、「顔を若返らせろ」とアミが命じると、皮膚がぐっと引き締まったように見えたのです。
「そうだ、そうだ、もうちょっと、アミ...。」
「クラト、ここまでです。
なんてわがままなのでしょう...。
今度は、その白髪に色を添えましょう。」
「それは黒ってことかい?」
「そうです。
このあたりの人は髪の色が違いますから。」
アミが、2回試すと、白髪が少し暗くなりましたが、クラトは満足できませんでした。
「500回試してもらえんかの?」
「これで充分です。
そして、あなたの目は紫ではなく青になります。
さあ、ここに立って、そうです、それでいい。」
彼は一瞬にしてスクリーンに映し出された存在に変身しました。
まるで50歳くらいの紳士に見えたのです!!
素晴らしい出来でした。
「その治療は痛くないのかい、アミ?」とクラトが尋ねると、
「治療は終わりました。
もうあなたは変身しているのです、クラト。
鏡の中の自分を見てごらんなさい。」とアミ。
「ほ、ほ、ほ、ほ・・・でも、わし、バカみたいじゃないか?」
「そんなことないよ、クラト。
とても似合ってるよ。」
と僕は彼を慰めました。
「後で、この世界の服を買ってきて、そのボサボサのヒゲを整えましょう。」とアミが言いながら、僕たちは家まで歩いて戻りました。
祖母はその変化がとても気に入ったようでした。
「なんてハンサムな若者なんでしょう、クラト。」
「ほ、ほ、ほ!ありがとう、親愛なるリリーよ。」
「では、これからペドロと一緒に出発します。」
「了解じゃ、アミ、キアの周りにいる時にトラスクを見といてくれんかの。
一日中何も食べてないんじゃよ。」
「解りました。
でも直ぐに帰ると期待しないでください。」
「今夜、ビンカと一緒に戻ってくると信じているわ。
聖シリルは私を裏切ったことがないんですから。
信じて行きなさい。
ビンカのために夕食を用意して、遅くまででも、いいえ、真夜中過ぎまで、待っていますよ。」
アミは、彼女を失望させたくないと思いました。
「もう少し時間がかかっても...2、3日...いや、それ以上かかっても...どうか心配しないでください。
神様が導いてくれて守ってくれていますから。
私達もビンカも無事に戻ってきますから。」
「そうね、アミ、でも... 今夜はここに戻るわよ。」
「そうだよ、おばあちゃん!」
僕たちは皆、自信に満ちた楽観的なふりをしながら、そう叫んだのでした。
しかし、現実はその逆で、僕たちは最も危険な場所に向かっているのです。
僕たちは、別れを悲しいものにしたくなかったのでが、涙を流しながら抱き合って別れを告げました。


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