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Ami Ⅱ 第2章-岩の上で

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ビクトルは、夜が近いので、到着後すぐにテントを張ろうとしました。
でも、僕が説得して、岩を見に行くことにしたのです。
ビクトルは、「なんてせっかちなんだ。暗くなってきてるじゃないか。
もうすぐ夜だぞ。
まあ、せっかくだから......。」
と嫌々そうに言うのです。
そこで、僕は「素晴らしく美しい夜だよね。さあ、行こう。」と言い、岩場に続く道に車を駐車してもらい、海に向かって歩き始めました。
夜が来て、雲は大きな月に道を譲り、その光は至る所に注がれました。
それは、あの夜の満月を思い出させました。
同じように水面に映る、湾の対岸に明るい点が点在する海岸の村、岩、すべてが同じだったのです。
僕の心臓と足は興奮でバクバクしていました。
一方、ビクトルは大変な苦労をして前に進んでいるようでした。
「暗すぎて、滑りやすいぞ...。」
「気を付けてね。ビクトル。」
と僕は、彼のはるか前から声をかけました。
「何をバカなことをやってるんだ!
明日、昼間に来た方が良かったんだ。」
「せっかく来たんだから…。
直ぐに見に行かないなんて有り得ないよ。」
すると、後ろで音がしたのです。
彼に何かが起こったようです。
「ビクトル、大丈夫?」
「水に落ちたんだよ。助けてくれ!」
「水の中じゃなくって、石の上を歩かなくっちゃ。」
と言いながら、彼を助けようとしました。
「この辺は黒一色で見分けがつかないんだよ。
手を貸して。」
「見たくないと思うから、すべてが暗転してしまうんだよ。」
「見ろよ、脚も靴もびちょびちょだ。
なんてことだ!こんなの嫌だね!
僕は行かないよ。
明日にするぞ。」
岩から数メートルしか離れていないのに、翌日まで待たされるのは不条理に思えました。
「あと少し、あと少しだよ。」
「そうかもしれないけど、ここは滑りやすく、危険だ。
岩場には濡れた苔がびっしりと生えてるし、潮が満ちてきてるから、腰を折ったり、溺れたりしやすいんだぞ。
浜辺に戻ってテントを張り、寝て、明日また来よう。」
「あっ気をつけて、ビクトル、水が来るぞ!高い岩に飛び乗って!」
「どこに?どの岩? うぐっ。」
結局、彼は、首まで濡れてしまいました。
従兄弟は、30歳にも満たないのに、間違いなく老人のようでした。
あーあ、結局、戻らなくてはならなくなったのです。
その後、砂浜にテントを張りました。
ビクトルが、服を乾かして着替えている間に、僕は、しぶしぶガスコンロのスイッチを入れてお湯を沸かしました。
「哀れな少年をいじくりまわすつもりか?」
と彼は文句を言いました。
「僕がいじってるのは老人だよ。」
と僕は反論してやりました。
「もう乾いているじゃないか。
僕が、行ったり来たりしている間に、君はベッドに入ってたらいいよ。」
僕は、そのように簡単に考えていたのです。
しかし、老人は何でも複雑にします。
簡単なことをひどく難しく、複雑にするという奇妙な美徳を持っているのです。
「決してそんなことはさせないよ。
お前は俺のそばにいるんだ。
黒い岩の上では何が起こるかわからないからね。
俺がその責任を負わされるんだぞ。
眠いんだ。早く寝ろ。」
「でも...でも... 。」
「横になるんだ!」
僕は、仕方なく横になることにしたのですが、彼が眠った途端...。
とりあえず「よし、寝よう、寝るのはとても楽しいぞ... 。」と呟き、暗闇の中で、徘徊する蛇のように時が来るのを待っていたのです。
それから数時間後、彼が寝息を立て始めました。
僕は、こっそりと寝袋から抜け出し、出口までたどり着き、頭を出そうとしたとき、シャツの襟を手でつかまれたのです。
「どこに行くんだ?」
「えーと... 、外に出て、トイレに行くんだ。」
絶好の口実をひらめいたと思ったのです。
誰もトイレに行く権利を否定されることはないのですから。
ビクトルは「わかった。すぐに戻ってくるんだぞ。
気を付けろ。」とだけ言いました。
「いや、やっぱり俺も行く。」
と言うのではとヒヤヒヤしたのですが...。
テントから出ると、電光石火の勢いで『僕の』岩に向かって走りました。
ウサギのように岩から岩へ、滑ることなく飛び移れるのです。
まるで、不思議な力が働いているようです。
数秒後には、最終目的地に着いていました。
そこで、僕は興奮して立ち止まり、岩を撫でました。
ここにたどり着くまで、どれほど時間がかかったことだろう。
あとは、それを登って、翼のあるハートを見るだけ......。
なかったらどうするんだ?
そう思った瞬間、すべてが真っ暗になりました。
さっきまでの稀有な力を失ってしまったのです。
老人のように疑心暗鬼に浸りながら、大変な苦労をして登り始めました。
あちこち滑りながらも、ついに、ついに! 頂上にたどり着いたのです。
平らな面をワクワクしながら歩いて行きました。
とても暗かったので、遠くからでは、刻印のあるべき場所がよく見えなかったのです。
そして、苦悩や喜びを感じながら、その瞬間を味わうかのように、とてもゆっくりと近づいていきました。
とうとう、その場に着いて、あちこちシンボルを探したのですが、ない、ない、存在しない 、存在しないのです。
僕は、絶望感から、泣きそうになりながら呟きました。
「すべては想像、夢だったんだ...。」
すると「私は夢ではない。」と、背後で聞き覚えのある声がしたのです。
僕は、聞こえたものが幻聴か何かであることを恐れたのか、非常にゆっくりと振り返りました。
すると、僕の大切な小さな友達の白い姿が見えたのです。
そこには、いつものように笑顔の彼がいたのです。
アミ!?

https://note.com/hedwig/n/na60550064a35


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