1101 閉幕

始まってしまえば目まぐるしく時が経つように感じた9日間は、本当にあっという間に終わってしまった。自分の情けなさに涙を食いしばることがほとんどだったこの9日間はこれから私の人生にどんな影響を与えるのかまだわからない。上司はとても口達者というか、みんな優しい方ばかりであなたを雇ってよかったと嘘でも口にしてくれた。その言葉が私はとても嬉しかったし、こうして誘ってくれて低賃金ながらも働けたことについて感謝の気持ちでいっぱいだった。恩返しなんて大層なことはできないけれど、何某か自分にできたらな、と思う。

　さて、今日は朝から映画を見た。作夜に上司に映画を見るならこの二択だろうと提示された。いずれも社会問題を取り扱った作品であったか、家庭の中で起こる問題ともっと広い枠組みで一国を巻き込んで起こる問題とそれぞれ対照的で、興味関心の幅が社会に向きにくい私は前者を選んだ。『年少日記』という作品である。香港の映画を見るのはおそらく初めてだ。
　朝から母とともに銀座に出かけた。映画は90分と短く、飽きる間もなくして終わった。少年の日記とともに進む物語に魅了されながらミスリードされ、故に真実が明かされたときにあっけにとられ、思わず涙も流した。冒頭のシーンにほっとさせられたことを思い出し、映画の中の現実が受け入れがたく感じられた。ところで私はこの映画の映画のタイトルが好きだ。"Time Still Turn The Pages"。新たな日々が書き足されることのない日記であるが、それでも時間によって風化されることなくめくられ続ける。他でもない弟によって。
　映画はうまくまとまっていて、エンディングもほのかに希望を感じさせるような、でも希望があろうかなかろうか明日へと続くであろう主人公の物語に想いを馳させるようなものであった。涙をぬぐいながら映画館を出た。久しぶりに良い映画に出会えたと心から思った。
　どうやらこの作品は日本での公開が決まっていないらしく、もう二度と見ることができないかもしれない。映画祭という場でこの作品に出会えたことをありがたく思う。

　好きな映画は？と聞かれると、回答にいつも困る。しかし、今言えるのは私は心温まる物語が好きだ。同時に理不尽に怒りを湧き起こしてくれる作品も好きだ。怒りじゃなくても悔しさとか悲しみとか。前者は『ニューヨーク　眺めのいい部屋』、後者は『ラ・ラ・ランド』とか。今回の物語も私の好きな映画として取り上げたい、名前を挙げたいと思える作品だった。最近いろいろ映画を見ているからちゃんと一つ一つの感想を言葉にしていきたい。

　映画を見終わったら、母と近場でケーキを食べた。マロンケーキとチーズケーキ。ほどよい甘さと酸っぱさが舌の中で心地よく飽和して、美味しかった。その後、半ば駆け足で事務所に行くと、上司がいたので「映画見に行けてよかったです」と感想とは言えない感想を述べ待機した。特に仕事もないので、これからの流れを確認すべくメールを読んだりした。あとは、最終日ということでお昼の弁当は有名なのり弁だったらしく、自分の分を確保した。
　その後はいろいろやるべきことをして、ほとんどが退屈な待機時間だったけど、おとなしく待った。そして、いろいろひと段落すると、映画の閉幕を意味するクロージング映画を見た。まだ公開されていない作品で、一足先に見ることができたこと、自分からお金出して見に行かないであろう作品を見れていることに喜びを感じた。朝の映画で涙スイッチが入っていたため、映画を見ながら再び泣いた。

　そこからパーティーに行った。そこで少しだけ他部署の二人と話す機会があって、もっと仲良くなれたらなと思いながら軽く言葉を交わした。あとは上司に「君を選んでよかったよ」とありがたい言葉を頂戴した。その言葉がどれくらい上司の本音が混じっていたのかわかりようがなく、私自身それが真実であると信じ難かったが、それでも自分がお世辞を言うに値する相手であるかもしれないことがうれしかった。上司は飲み足りないのか語り足りないのか、受賞者を二軒目に連れて行った。私は適当に頼んでと言われたので、焼き鳥のたれ塩を各1、自分の大好きな砂肝、あとは無難にポテトと枝豆を注文した。「牛すじ」が食べたかったのか上司は密に店員にそれを頼んだ。たしかに誰にも好まれそうな食べ物だし、次回から頼むようにしよう。

　終わったころには終電間近だった。事務所に荷物を取りに戻り、そのまま駅へ向かった。お礼を交わして、帰宅した。最近シャワーとか歯磨きとかメイク落としとか、夜やるべきをせずに寝落ちしてしまいがちだ。肌にも歯にも悪いみたいだから、あとあと後悔しないように気を付けたい。