何語で話す?

7年ほど前から、毎年の夏に、日本と韓国の法律家で小さな学会を開いている。開催場所は、日本と韓国で1年交替。今年は、日本での開催の年だった。

とは言え、このところ、日韓の関係はよくない。そこで、今年の開催は見合わせようか、という話もあったようだが、「いや、こんな時期だからこそ、むしろお互いの友情を確かめ合うべきだ」という考えから、開催された。

参加者の中には、日本語・韓国語に通じる者もいるが、少ない。そうすると、学会後の懇親会の席で何語で話すのか、というと「英語」なのである。

お隣同士の国でありながら、はるか太平洋の向こうの国の言語で話すというのも、なんかちょっと奇妙に思うところもあるのだが、共通言語がそれなのだから仕方がない。両国の参加者とも、決してうまいとは言えない「英語」を駆使して、何とかコミュニケーションをとった。

もちろん、スマホの翻訳アプリも使うし、ちょっと込み入った会話にはそれが助かるのだが、即時性という点では、やはりイマイチなのだ。

酒も入ってくると、文法や単語のミスなども気にならなくなり、ブロークンな英語で友情を確認し合ったのだった。

しかしそれにしても、お隣同士の国なのに日本語や韓国語ではなく「英語で話す」ということに対する、この奇妙な感覚いったい何なのだろう?

そんな話を事務所でしていたら、同じ事務所の中国人の通訳が、面白いニュースがあったと言う。

日本で、香港人のデモ隊と中国人の集団がぶつかり合い、お互いに罵りあったのだが、その言葉が「日本語」だったと言うのだ。香港は広東語で、中国は北京語。同じ中国語でも、互い通じず、共通言語は日本語だからそうなったのだそうだ。

香港人vs中国人 東京で「テメー!コノヤローバカヤロー」

なるほど。確かに、類似性のある面白い話だが、内容的には我らのほうがはるかに平和的だ。

ところで、彼女によれば、中国語は、罵りの汚い言葉のヴァリエーションがすごく豊富なのだそうだ。「それなのに、日本語だから両方ともバカヤローしか言えなくて」と彼女は笑っていた。

しかし、そういう意味では、我らの英語も同様で、せっかくの法律家同士での飲み会だったというのに、英語なもんだから、法律の話は少しもできなかったのである。

しかし、だからと言って、これから韓国語を学ぼうにも、韓国語で法律の議論ができるまでには何年かかることやら。

「やっぱ、もう少し英語を勉強するのが早道か」という無難なところに、いつもながら最後は落ち着くのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?